13年ぶりの金利水準 「地方銀行」関連株が上昇

直近の値動きから見るテーマ株/ QUICK

株式市場で「地方銀行」関連株が買われています。QUICKが選定する関連銘柄の平均上昇率は6.0%と、東証株価指数(TOPIX、1.1%)を大幅に上回りました(5月31日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します! 

バリュー株としての物色も広がる

地方銀行株上昇の背景は、国内長期金利の上昇です。国内債券市場で長期金利の指標となる新発10年物国債利回りの上昇(価格は下落)が続き、5月30日には一時1.10%とおよそ13年ぶりの水準を付けました。銀行の収入源の一つである利ザヤが拡大するとの期待から、銀行株が上昇しました。 

長期金利の上昇により、投資家の物色がバリュー(割安)株に向かった影響も受けました。プライム市場で銀行業に区分されている68社のうち65社の株価純資産倍率(PBR)が1倍を下回っています(2024年6月3日終値時点)。TOPIXが上値の重い展開となる一方、積極的に資金が向かいました。

個人向けが主力【スルガ銀行】

上昇率首位の「 スルガ銀行 」は静岡県に本店を置く地方銀行です。同行は貸出金のうち、住宅ローンや投資用不動産ローンなどの個人向けが7割半ばを占めます。日銀が再利上げをして政策金利が0.25%に引き上げられると、同行は資金利益が約15億円上乗せされると試算しており、加藤広亮社長は金利上昇が「個人中心の当行は早く影響が出る」と強調しています。 

同行は2023年にクレディセゾンとの資本業務提携を発表し、住宅ローン事業などで連携しています。新規ローン実行額は28年3月期までに合計3500億円を目指すとしており、提携による収益拡大にも期待がかかります。 

6月に新頭取が就任予定【秋田銀行】

上昇率2位は「 秋田銀行 」です。24年3月期連結決算は純利益が前の期から38%と大幅に増えました。貸出金も増加しており、政策金利が引き上げられれば、25年3月期は10%増を見込んでいる純利益のさらなる上振れが期待されます。 

同行は6月、芦田晃輔取締役専務執行役員が頭取に昇格する予定です。芦田氏は「30年度を見据えギアチェンジし、銀行を作りかえるくらいの気持ちでやっていく」と意気込んでおり、事業ポートフォリオの変革などにも注目です。 

西日本FHはTSMC効果も期待

愛媛銀行 」は4月から普通預金の金利を17年ぶりに引き上げました。日銀のマイナス金利政策の解除に対応しました。住宅ローンなど貸出金利の引き上げにも関心が高まっています。

京葉銀行 」は中小企業への貸出金が全体の約8割を占めます。純利益が前の期から5%増えた24年3月期は、5年ぶりに増加に転じた貸出金利息が寄与しました。

西日本フィナンシャルホールディングス 」は福岡県地盤の西日本シティ銀行が中核を担っています。台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出による資金需要をいかに取り込めるかが収益拡大の鍵を握りそうです。 

日銀の金融正常化への思惑広がる

大手銀行や地方銀行などの銀行株は、これまでデフレ脱却とそれに沿った金利の復活や資金需要の増加などを背景に株価が上昇してきています(『金融政策に正常化の思惑 「大手銀行」関連株が上昇)(『金利上昇に反応 「地方銀行」関連株が上昇)(『いよいよマイナス金利解除か 「地方銀行」関連株が上昇)。

日銀は5月13日の定例の国債買い入れオペ(公開市場操作)で、長期国債の1回あたりの買い入れ額を4月24日から500億円減らしました。これを受け、市場では日銀が近く追加利上げや国債買い入れの減額など金融政策の正常化に踏み切るのではないかとの思惑が広がり、長期金利の上昇につながっています。 

鈴木俊一財務相は5月31日の閣議後の記者会見で「金利のある世界が到来したことを強く認識する必要がある」と強調しました。大手銀行は6月から住宅ローンの固定金利を引き上げます。地銀も含めて国内の貸出金利が本格的に上がり始めるか、金利のある世界での銀行の経営戦略が注目されます。