新NISAや物価上昇、円安など転換期を乗り越えるための「経済とお金のしくみ」入門。対象は投資初心者ですが、中級者でも満足できる骨のある良書です。
脱・投資初心者の決め打ち本
元日経新聞記者かつ金融インフルエンサーの初の著作。Xフォロワー64万人、YouTubeチャンネル登録数27万人という枕詞を聞くとギラギラ路線を想像するかもしれませんが、行間から漂うのは屈指の誠実さ。
地に足がついた筆致で初心者にもわかりやすく経済を語ります。「ディズニーランドも円安インフレ」「スタジオジブリの価値を考えてみよう」など、小見出しがつい読んでみたくなるほど巧みで、エンタメ性と真っ当さのバランスが絶妙です。
タイトルにあるように「教科書」的な内容は一通り網羅していますが、面白さレベルは軽々と「教科書」超え。「株って何?」という基礎部分でも、著者自らが株式会社を作った体験があるゆえ、根幹の臨場感が段違いです。
いわく、上場はヤフオクに出品することと似ているのだそう。未上場でも株の売り買いはできるけれど、相手を探すのにかなりの手間がかかる。上場するとこれが一気にラクになり、その株をいちばん高く評価した人に売ることができる。ヤフオクの例で、遠い世界に思えた上場が身近に思える、そんな解説でした。
同様に、みんなが嫌い(?)な決算用語もイメージしやすい工夫が見えます。営業利益率の解説では「任天堂の利益率31%」を題材に挙げつつ、「従業員一人当たりの売上高が2億円!」などのトピックで読者の知りたい欲を刺激する。日本の主要上場企業の利益率の平均は5~7%程度だそうで、任天堂のすごさも理解しやすいです。
ほかに時価総額や配当利回りの高い企業、この20年間の外国人投資家の日本株売買状況など図やランキング・データも充実。おすすめ銘柄については「S&P500」に触れる程度ですが、精読すれば初心者でも自身で銘柄を選べるだけの投資の土台が身につくのではないでしょうか。