ANAホールディングス【9202】旅客数はコロナ前比で減少が続いていても過去最高益を更新した理由と今後の業績

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カエル先生の一言

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統合報告書2023
2024年3月期決算説明会資料
第73期有価証券報告書
2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、ANAホールディングス株式会社の「統合報告書2023」「2024年3月期決算説明会資料」「第73期有価証券報告書」「2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用しています。

今回取り上げるのは大手航空会社で、国際線、国内線で多くの地域を結んでいるANAホールディングス株式会社です(統合報告書2023 P134、135参照)。

事業内容と業績のポイント

それでは早速、事業内容を見ていきましょう。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

ANAの事業セグメントは以下の5つです。

①航空事業:ANAやPeachなど航空事業
②航空関連事業:空港での顧客向けサービスの提供や、整備、地上支援など
③旅行事業:ANAトラベラーズなど、旅行商品の販売
④商社事業:航空関連資材の輸出入など
⑤その他:ビル管理や人材派遣など

航空事業を中心に、その周辺サービスなども提供しています。

続いて2024年3月期時点でのセグメント別の売上高と(営業利益)の構成比率を見ていくと以下の通りです。

①航空事業:78%(94%)
②航空関連事業:12%(3%)
③旅行事業:3%(1%)
④商社事業:5%(2%)
⑤その他:2%(0%)
※売上高と営業利益の構成比率は執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ

航空事業が売上・利益ともに大半を占める主力事業です。航空関連事業まで含めれば、売上・利益面ともに9割以上で、飛行機の移動需要に業績が左右される企業です。とはいえ、近年は航空関連以外のノンエア事業にも力を入れています(統合報告書2023 P24、25参照)。マイルを活用した事業展開などにも力を入れていて、こういった事業の成長は航空事業の集客にもつながるので、航空事業以外の進捗にも注目です。

今回は航空事業を中心に見ていきましょう。

航空事業をもう少し詳しく見ていくと、従来型の旅客サービスを提供するフルキャリアのANAだけでなくローコストキャリア(LCC)のPeachも傘下にあります(統合報告書2023 P20参照)。さらに直近ではAirJapanという中距離路線の新ブランドも始めています(統合報告書2023 P38~41参照)。

近年は東南アジアの経済成長と共に、各国で移動需要や旅行需要が増加しています。AirJapanはそういった需要の取り込みを目指し、東南アジアと日本を結ぶ国際線を中心に展開。サービスはLCCのpeachよりも少し高品質で、価格はANAとPeachの中間でサービスを提供します。Peachも国際線がありますが短距離移動がメインで、サービスをシンプルにし低運賃で提供しています。移動時間が短いと、シンプルなサービスでも良いとする傾向もありますが、移動時間が一定以上かかる中距離の移動は、もう少し高品質な移動需要があります。東南アジア向けでこうした需要獲得を目指して、新ブランドを開始しました。今後の成長に注目です。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

続いて2024年3月期の航空事業の売上構成は以下の通りです。

①ANA:92.5%
(1)国際旅客:38.9%
(2)国内旅客:34.5%
(3)貨物郵便:9.9%
(4)その他:9.2%
②Peach・AirJapan:7.5%

フルキャリアであるANAが主力で、貨物郵便も一定の規模がありますが、国際線と国内線の収入が主力です。事業内容がある程度わかったところで、それでは続いて業績の推移を見ていきましょう。

2019年3月期~2023年3月期までの業績の推移を見ていくと、売上はコロナ禍で大きく減少しました。2021年3月期を底に回復を見せてはいるものの、2023年3月期の段階でも十分な回復には至っていません(第73期有価証券報告書 P1参照)。利益面は2021年~2022年3月期は赤字転落、2023年3月期は業績が大きく回復し黒字転換するものの、コロナ禍前の2019年3月期の水準には至っていません。2023年3月期でも十分な回復に至らなかったのは、主力の収入源の1つである国際線のマーケット環境による影響が大きいです(統合報告書2023 P136参照)。国際線マーケットは世界の旅客機輸送の推移を見ても、2022年度の段階でもコロナ禍前の水準を大きく下回っていて、訪日・出国者数に関しても下回った状況が続いています。

そんな中で、2022年度時点ではANAの国際線の生産量はコロナ禍前と比べて、49%にとどまっています(統合報告書2023 P22参照)。その一方で早い回復を見せるのが国内線で、2022年度時点でコロナ禍前の96%まで回復しています。国内線の回復状況を見ると、移動需要自体が旺盛になっていたことが分かります。海外旅行がしやすくなっている2024年3月期以降は、国際線もさらなる回復が期待できます。加えて、円安もありインバウンドも活況ですから、この点を考えても大きな回復が期待できます。2024年3月期以降はどの水準まで改善するかに注目です。

ここまでのまとめ

・主力事業は航空事業
・マイルを活用したノンエア事業は、航空事業への集客にもつながるため、今後の成長に注目
・東南アジアの経済成長を見込み、新ブランドAirJapanを開始
・コロナ禍で縮小したマーケットが回復基調で、国内線に続き、国際線の回復にも期待
・円安、インバウンドも活況で今後に期待

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。今回見ていくのは2024年3月期の通期の業績です。

売上高:2兆559億円(+20.4%)
営業利益:2079億円(+73.2%)
経常利益:2077億円(+85.7%)
純利益:1571億円(+75.6%)

増収で大幅増益と大きな回復が続いています(決算短信より)。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

営業利益は当初計画を大きく上回り、過去最高益も大幅に更新しました。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

ANAの国際線は過去最高の売上高となり、Peachに関しても国際線の拡大によって、過去最高の売上と営業利益を達成しました。その一方で国内線の売上は、旺盛なレジャー需要を取り込み、前期比では回復が続いたものの、コロナ禍前と比べると▲11%の水準にとどまっています。2024年3月期では、前期までは回復が早かった国内線ではなく、苦戦していた国際線が大きな回復を見せた事が好調の要因でした

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

国際線の収入がコロナ禍前を上回る水準になった理由としては、単価の上昇による影響が大きいです。旅客キロはコロナ禍前の▲25.9%、旅客数も▲33.5%にとどまりますが、単価は+66.5%と大きく伸びています。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

単価の上昇の要因には、高付加価値化、値上げの取り組み、燃料費の上昇による影響の他に、需要の変化による影響もあります。旅客収入の構成比率は、コロナ禍前と比べると、中国や欧州向けは減少していますが、アジア・オセアニアが増加し、北米が特に大きく増加しています。北米の構成比率は29.6%→38.3%まで拡大しました。4割弱を占めるほどに北米の規模が大きくなっています。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

どの地域も旅客数もコロナ禍前の水準までは回復していませんが、北米からのインバウンドの回復は非常に早いです。円安が続く中、移動距離も長く、経済も堅調で高単価化が期待できる北米からのインバウンドの需要が大きく増加したことで、単価の上昇に結びつきました。その結果、旅客収入が好調となりました。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

2025年3月期以降は、イールド(旅客1人に対する1キロ(または1マイル)当たりの収入単価)の正常化と高水準の継続を見込んでいます。さらなる需要回復の中で増収が続き過去最高の収入となることが期待されます。円安が続く中で北米からのインバウンドの活況が続くことや、高単価化を背景にANAの国際線の好調が続くことが期待できそうです。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

また、Peachも国際線を拡大したことや、単価の上昇を進めた事で過去最高の業績を達成しています。Peachの国際線は近距離移動が多いですが、先ほど見たように中国を除くアジア・オセアニア地域はANAでも堅調でした。アジア各国の訪日需要をLCCでも取り込んだことで好調でした。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

今後も国際線比率の拡大を進めていますし、新ブランドのAirJapanの拡大も計画しています。円安の影響に加えてアジア諸国の経済成長による新規需要の創出を考えても、今後も堅調な業績が期待できそうです。グループ全体で国際線は堅調な状況が期待できそうです。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

その一方でANAの国内旅客は、業績の回復は続いたものの旅客数の回復は停滞していて、コロナ禍前を下回る状況が続いています。ビジネス需要に関しては、オンラインでのミーティングが一般化したことで、十分な回復に繋がりづらい状況です。またホテル価格なども高騰していて、出張需要は回復が期待しづらい状況です。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

実際にANAも、2025年3月期でもレジャー需要はコロナ禍前の100%超を見込むものの、ビジネス需要は7割を見込んでいます。運賃改定とレジャー需要で増収を見込んでも、国内線の大きな成長は期待しにくいということです。需要の拡大は容易ではないため、国際線の拡大でどれだけ業績を伸ばしていけるかに注目です。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

2025年3月期は増収減益を見込んでいます。売上の増加は続く見通しで過去最高を見込みますが、一方で利益面は減益となる見通しです。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

売上面では国際線、国内線、国際貨物で増加を見込みますが、利益面ではコロナ禍での減免措置や補助金による影響の減少、整備費の増加などコロナ禍明けの反動を見込んでいます。利益面の悪化はコロナの反動の影響が大きいようですから、事業自体は回復が続くことが期待できます。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

また、コスト面の増加によって減益を見込みますが、それには航空機の機材数の拡大によるコスト増の影響もあります。コロナ禍で需要減少の中で機材数を減らしていましたが、それが需要回復の中で再拡大へ動いていて、そのコストも増加する見通しです。

ANAホールディングス2024年3月期決算説明会資料より

とはいえ一時的なコスト増にはつながりますが、機材数拡大による成長が期待されます。2025年3月期は減益を見込むものの、それ以降は改めて2000億円を超えるような過去最高益水準の業績を目指しています。需要回復と事業成長によって2026年3月期以降に改めて利益面も拡大が続くかどうかに注目です。

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」を日興フロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
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