いま人気の「オルカン」ってどんなもの?

あなたの知らない「インデックスの世界」/ おせちーず須山 奈津希

「S&P500の中身を知ろう」を読む

これまで、日本株を代表する株価指数である日経平均株価、米国株を代表するS&P500をご紹介してきました。これでお腹いっぱいにならないでください。株価指数の世界は奥が深いのです。実は2024年に入ってから人気が急上昇している株価指数があるんです。

「オルカン」って聞いたことあるけど……

個人投資家にとって、2024年早々大きな変化がありました。NISA(少額投資非課税制度)の変更です。NISAは、イギリスのISA(Individual Savings Account=個人貯蓄口座)をモデルにした日本版ISAとして、NISA(ニーサ・Nippon Individual Savings Account)という愛称がつけられました。制度は2014年1月にスタートしています。

2024年からの新NISAは期間の制限がなくなり、非課税投資上限額が大きく増えたことをご存知の方も多いでしょう。新制度を利用して投資を始めた方もいらっしゃるかと思います。そしてそのような方の多くが、投資対象として最初に選んだものの代表的なものに「オルカン」連動商品があります。「オルカン」がこの半年ぐらいでずいぶん市民権を得たのですね。ところで「オルカン」がどういうものかご存知ですか?

「オルカン」は「オール・カントリー」だけど……

「オルカン」は筆者が把握する限り、略語です。”All Country”の略だと認識しています。”All Country”なので「全世界」と言われるようです。しかし、これでは言葉が足りません。実は「オール・カントリー」という名称ですが、「全世界」ではないのです。え? 何を言っているのかわからない? 無理もありません。

「オルカン」はMSCI All Country World Indexの略です。前回の記事で米国株のセクターについて説明した際にも登場したMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)が算出している株式指数です。このMSCIは、世界の国を地域別に3つ、区分として4つに分けています。こちらがその図です。

出典: https://www.msci.com/our-solutions/indexes/market-classification

地域はアメリカ大陸、ヨーロッパと中東・アフリカ、アジア太平洋の3つです。区分は、Developed、Emerging、Frontier、Standaloneの4つです。Developedは先進国、Emergingが新興国です。

4つの区分は、経済発展、市場の規模と流動性、外国からの投資のしやすさという3つによって判定されます。投資するときに大事なことの1つが、買ったり売ったりしやすいことです。投資信託やETFは、お客様が売る注文を出したら、決められたルールでキャッシュをお客様に渡さなければなりません。場合によっては、保有している有価証券等を売却する必要があります。その時に、売りにくい銘柄ばかりを持っていると、お客様に売却代金を渡せない可能性があります。ですから、流動性や外国からの投資のしやすさ、という要素が考慮されるのです。どんなに株式市場の規模が大きくても、これらの3つの要素の1つ以上に難があれば、MSCIの定義では先進国にはなれません。

ベトナム株投資という言葉を日本においても耳にすることがあります。MSCIの定義では、ベトナムは新興国ではなくフロンティア・マーケットに該当します。MSCIの定義と、一般的な先進国、開発途上国の定義は必ずしも一致していません。

オルカンは世界の1/4程度の国にしか投資していない

さて、いわゆる「オルカン」は、MSCIが定義する「先進国」と「新興国」のみで構成されます。全部で47ヶ国です。フロンティア・マーケット、スタンドアローン・マーケットに該当する国は投資の対象外です。先ほど挙げたベトナム株は対象外です。オルカンは「全世界」と謳っていますが、世界の1/4程度の国にしか投資していないのです。このあたり、誤解されている方がいらっしゃるかもしれないので、敢えて定義をお伝えしました。「オール・カントリー」と称していても、投資対象は一部に限られている。このことをぜひ頭に入れてほしいです。

「オルカン」は世界の株式市場の時価総額全体のうち約85%をカバーするよう、銘柄選定が実施されます。対象が47ヶ国であっても、時価総額ベースでは世界の多くを網羅しているということです。

新興国株式の割合は?

「オルカン」の長所は、多くの国の株式市場の成長を享受できることだと思います。個人では直接投資しづらいインド株のリターンも「オルカン」連動商品を保有すれば、間接的に得られるということですね。

では、全部で47ヶ国の株式で構成される「オルカン」のそれぞれの国の割合を確認しましょう。ここではフロッギーで買える、「 MAXIS全世界株式(オール・カントリー)上場投信 」の月次レポートを参照してウエイト上位10ヶ国を確認しましょう。
1位から7位まではすべて先進国です。「オルカン」と言いますが、60%以上は米国なのです。時価総額加重平均株価指数を47ヶ国で構成すると、米国が大きな割合を占めるということです。8位と9位に新興国が登場します。近年その成長が著しいインドも「オルカン」の中では2%にも満たないということです。

レポートに掲載されている上位10ヶ国の合計は約85%です。残り37ヶ国を全部合わせても15%程度だということです。実は新興国株式が占める割合は「オルカン」全体の1割程度です。世界の株式市場における新興国の存在感はまだまだ小さいです。インドが全体の1.8%であるならば、仮にインド株式で5%のリターンがあったとしても、「オルカン」全体への寄与は5%×1.8%=0.09%です。

S&P500と比較してみた

米国株だけのS&P500と、他の国の株式も入った「オルカン」のどっちがいいの? という声が聞こえてきそうです。では、2つのリターンを比較してみましょう。S&P500については「 MAXIS米国株式(S&P500)上場投信 」を使います。同じ円建てですからフェアな比較ができるでしょう。
設定来で見ると、S&P500に軍配が上がりました。よく見ると、2つの動きは似ていると思いませんか? それもそのはず、「オルカン」の6割以上は米国株ですから、「オルカン」の基準価額の推移は米国株の動きに似るのですね。

S&P500と「オルカン」、どっちがいいんだろう? と悩んでしまうかもしれません。筆者は、それぞれの特徴を理解したうえで投資するならば、どちらでもいいと思います。ただし、どちらも常に上昇し続けるわけではなく、上がったり下がったりしながら時間を掛けたらプラスのリターンが出る傾向があるものです。ですから、ぜひゆっくり投資と向き合ってください。

「NISAで世界株ETFに投資する方法」を読む
「NISAで米国株ETFに投資する方法」を読む