農業と外食が合体!野菜ダイニング

読んで分かる「カンブリア宮殿」/ テレビ東京(テレ東BIZ)

カエル先生の一言

この記事は2024年6月13日に「テレ東プラス」で公開された「畑から店に直送!農家の息子が挑む 野菜ダイニング:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。今回、「カンブリア宮殿」に登場されたのは、五十家コーポレーションの五十棲新也社長です。

五十家コーポレーション 社長 五十棲 新也(いそずみ しんや)

京都で急拡大! 五十家とは?~魅惑の野菜メニューが続々

京都市中京区。市役所の近くの細い路地を入ったところにある「五十家」。客でにぎわうおしゃれなカウンターは、開店と同時に満席になる。鉄板で次々に焼き始めたのは青々とした野菜だ。

この店の売りは焼き野菜。スタッフが「野菜自体がおいしいので、シンプルに焼いてちょっとアレンジする。めちゃおいしいです」と言う。

「ズッキーニ 金山寺味噌とパルメザン」(650円)は旬のズッキーニを鉄板で焼き、金山寺味噌とパルメザンチーズをかけた逸品だ。京都の伝統野菜として知られる九条ねぎは豚バラと一緒に焼いて「九条ねぎ ポークバラ香味スパイス」(750円)に。シャキシャキの食感とスパイシーな味付けが食欲をそそる。

一方、川床が並ぶ鴨川からほど近い四条河原町の路地には、カウンターの店「おにかい」がある。

ずらりと並んだ新鮮な野菜の中央に鎮座するのは、野菜を煮る大きな鍋。この店は煮野菜がテーマだ。

熱々で出てきた「クレソン 九十九里のハマグリ」(850円)は盛りだくさんのクレソンと九十九里で採れたハマグリの鍋。「新玉ねぎ 桜エビの紹興酒漬けと卵黄」(750円)は旬の玉ねぎの甘みを堪能できる煮物だ。

さらに、下京区・東本願寺のすぐ隣にある野菜の店「isoism」も、開店と同時に客が押し寄せる人気店だ。注文を受けて盛り付けるのはショーケースの中のみずみずしい野菜。

この店は、野菜をさまざまな味わいに漬け込んだ、漬物ならぬ「漬け野菜」の店だ。

「トマトの白ワイン漬け 汲み上げ湯葉のカプレーゼ」(1050円)は丸ごとのトマトを湯むきした後、白ワインにハチミツを混ぜた特製の漬けだれに2日ほど漬け込んだもの。

「玉ねぎ 西京味噌漬け」は玉ねぎの水気をしっかり切り、西京味噌に酒やみりんを加えた特製ダレで和えるように味を染み込ませている。

これらの京都市内の野菜がおいしい店は、全て2003年創業の五十家グループ。現在、京都市内で野菜をテーマにした店を11店舗展開している。

最近、京都駅のすぐ近くにできた「五燠堂」の売りは、全国でも珍しい薪で焼く野菜だ。

「京ラフラン 炙り天肉エスニック風」(750円)など、さまざまな野菜を薪の火でいぶすように焼き上げていく。炭ではなく薪を使うことで、他にない香ばしい香りが味わえるという。

この店も野菜がメインで、鹿肉など肉料理は脇役という位置づけ。酒にも野菜が使われている。薪で焼いたトマトを皮ごとつぶし、カクテルのように仕上げたのは特製「薪焼きトマトサワー」(750円)だ。食後にはマシュマロを自分で焼く体験も楽しめる。

五十家コーポレーション社長・五十棲新也(49)は「薪の調理法が面白くて、野菜が映えて面白いことができる。新たな野菜の調理法のチャレンジです」と言う。

朝採れ新玉ねぎに感動~究極の旬を味わう仕組み

五十棲の店が客を魅了できるのには理由がある。たとえば、たけのこご飯には、朝に自分たちの竹やぶから採ってきたタケノコが使われているという。

京都市内から車で40分ほどの向日市には五十家グループの竹やぶがある。

タケノコの旬は4月。この竹やぶで朝に収穫したものを、店で提供していたのだ。

五十家は竹やぶの他に自社農園「ISO FARM」も持っている。農薬を使わずに育てるサニーレタスにじゃがいも、そして京都といえば賀茂なすだ。他にも「うまみが凝縮されている。しゃぶしゃぶで使う」京みず菜など、京都ならではの伝統野菜も育てている。

この日は五十家グループが育てた玉ねぎの、この年の初の収穫日。朝、さまざまな旬の味覚を収穫し、午後にはそれを満載したトラックが京都市内の店を回り始める。自社農園の新鮮な野菜を日々、各店舗へ届けているのだ。

焼き野菜の「五十家」ではさっそく新玉ねぎの仕込みが始まった。鉄板でジューシーに焼き上げ、桜えびとスパイシーな味付けで仕上げた「新玉ねぎ 桜エビ醤」(700円)だ。一方、野菜とワインの店「五十松」では新玉ねぎを、スープで煮込み始めた。「新玉ねぎが甘くておいしいので、スープの味を弱めにして玉ねぎの甘さを楽しんでもらう」と言う。煮込んだ後は、チーズと共にオーブンで焼き目を入れて「まるごとオニオングラタン」(800円)に。

こうして旬の最高の味わいが提供されるのだ。

五十棲は、採れたての野菜を最高の形で味わえるよう、畑から店までが一つになった独自の外食を作り上げた。その理念を表すのが「FARM TO TABLE」。畑から直接テーブルの上へ、という考え方だ。

「野菜からメニューを決めていこうと。今、自家農園と協力農家を合わせて20種類の野菜が採れるなら、その中でメニュー構成を考えていく。それが僕らの最大の強みだと感じています」(五十棲)

五十家グループにしかできない接客も特徴的だ。店舗のスタッフも定期的に農園で働いていて、野菜づくりと接客を両方担当する仕組みだ。自分たちが生産もしているからこそ、自信を持って勧められる。

今までにない外食を拡大する五十棲は日々、自転車で京都市内の店を回る。

今や野菜といえば五十家グループと言われるまでになりつつある。

代々の農家を継がなかった男~絶品の野菜料理に挑んだ理由

五十家グループでは営業終了後、スタッフの時間を確保して取り組んでいることがある。

スタッフが、収穫が始まったばかりのズッキーニとチーズを合わせて揚げ始めた。旬の野菜をどうおいしく調理するか、スタッフをあげてメニュー開発を行っているのだ。

ズッキーニのチーズフリットにはさまざまな意見が出た。こうして旬の野菜が収穫されるたびに集結し、徹底的においしい食べ方を研究し続けることで、客の心を掴み続けているのだ。

スタッフの一人は「採れる野菜で『次はどうする?』と案を研ぎ澄ませていく。かなり考えています」と言う。

五十棲の原点と言えるのが、畑の近くにあり、現在も野菜の加工場として使っている、生まれ育った家だ。実家は代々続く野菜農家だった。だが五十棲は大学卒業後、農業を継がない決断をした。

「やれ『田植えだから来い』『稲刈りするから来い』『草むしりするから来い』というのが嫌で、嫌で……」(五十棲)

そして外食の道へ進むのだが、居酒屋での修業時代、身近にあった京野菜が意外なほど高い価格で流通していることを知った。

「農家で育ったので、そんな野菜はごろごろ家に転がっていた。それが結構な値段で売買されているのに気づいてしまいました。野菜がこんなにみんなを喜ばせるなら、もっと魅力的なものが手元にあると気づいたのです」(五十棲)」

五十棲はそれ以来、野菜をテーマにした店はできないかと考え始めるが、先輩からは「野菜で客が来るわけない」と言われた。

「野菜を冠にした飲食店などできない、と。メインになるのは串カツ、串揚げ、焼き鳥。『そんなしょうもないこと考えるな』とよく言われました」(五十棲)

そんな五十棲が、野菜をメインにした店に確信を持つきっかけになったメニューがある。夏に最盛期を迎える「肉厚でピーマンより甘い」という京野菜の万願寺とうがらしを使ったものだ。

用意するのは糸こんにゃく、ジャコ、山椒の実。細かく切った万願寺とうがらしにそれらを加え、酒やみりん、醤油などで丁寧に炊き上げていく。味付けは「お母さんのレシピで濃い甘に」しているという。

完成したのが五十棲の母の味「母の味 万願寺とうがらし入りじゃこ山椒」。現在も炊き込みご飯のお供として出している。

外食の楽しさを広げたい!~門下生のユニーク店も続々

取材で京都市内を走っていると、五十棲が「あそこは卒業生の店」と教えてくれた。以前働いていたスタッフが始めた店だ。市内には18軒も卒業生の飲食店があるという。

「魂を入れて飲食店をしていたメンバーが店を広げていってくれるのは、僕にとって宝物のような話。すごくうれしく見守っています」(五十棲)

現在、五十家グループで働くスタッフは総勢200人。それぞれが外食の腕を上げて、さまざまな形で巣立っていく。

門下生の店にはユニークな店もある。市内の暗い路地にあり、看板も出さない「uraiso」もその一つ。

店に入ると温かみのある空間が広がっている。

メニューは野菜のコース料理のみ(ドリンク込み、8000円)。初めての味わいが次々に登場する。2023年、この店をオープンさせたのが、五十家グループで7年働いている矢野悟郎だ。

「野菜をおいしく食べてもらうための『居酒屋以上、割烹未満』。隠れ家的な感じで、遊び心でやっています」(矢野)

そんな遊び心は働くスタッフにも。一人だけ割烹着姿の女性は矢野の母・千秋さんだ。笑顔の接客に癒やされると評判だとか。

「仲良くケンカしながらやっています」(千秋さん)

「uraiso」は、独立を目指す矢野を支援するため五十家コーポレーションが資金を出して作った。矢野は5年後以降、店を買い取ることもできる。

「ずっと独立したかった。社長に相談したら『おもろいやんけ』とひと言で。今はやりがいしかないです」(矢野)

やる気のある若手に外食の素晴らしさを広げてほしい。五十棲のそんな思いが、京都に楽しい店を増やしていた。

さらに五十棲は、客をもっと喜ばせることができるのではないかと、自社農園の畑の近くに他にない施設を作ることを考えている。

「体験型のレストランがあったら面白い。飲食の究極の形で、それが夢です。結局、一周して畑に戻ってきました」(五十棲)

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~

昔は農家に生まれたことにコンプレックスがあった。野菜で居酒屋ができることで、親に感謝する気持ちが生まれた。五十棲さんは「京野菜」の幅を広げている。たとえばルッコラも含まれる。土や気候が違えば、ルッコラだって立派な京野菜になる。1番のこだわりは「FARM TO TABLE」ということ。また「漬け物」をリニューアルした。約1年半、「漬け野菜」のベースを開発。昆布と干し椎茸を弱火にかけて出汁をとり、追い鰹により風味を。野菜が主役だが、もちろん肉や魚もある。そのアレンジが絶妙なのだ。

五十棲新也(いそずみ・しんや)
1974年、京都府生まれ。京都産業大学卒業。1998年、居酒屋チェーンで修業。2003年、「五十棲」開業。2007年、五十家コーポレーション設立。

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画像提供:テレビ東京