音声メディア「Voicy」で、「10分で決算が分かるラジオ」を毎日配信中の「妄想する決算さん」が、日経225・グロースコア・スタンダードコアの企業を1社ずつ取り上げる人気連載を日興フロッギー版としてスタート! 読むだけで、知らず知らずのうちに主要な株価指数に採用されている企業についてわかるようになる決算解説。日興フロッギー版ならサクっと5分でチェックできます!
Investor Presentation
2023年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)
2023年3月期 通期決算説明
2024年3月期 通期決算説明
2024年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)
今回取り上げるのはリクナビやSUUMO、HotPepper、ゼクシィなどのサービスで知られている株式会社リクルートホールディングス(以下、リクルート)です。
事業内容と業績のポイント
それではまずは事業内容から見ていきましょう。
リクルートの事業セグメントは以下の3つです(Investor Presentation P8参照)。
(1)人材領域:リクナビ、タウンワーク、リクナビNEXT、リクルートエージェントなど
(2)販促領域:SUUMO、HotPepper Beauty、じゃらん、HotPepperグルメなど
(3)Airビジネスツールズ:販促領域や人材領域での顧客との接点を活用し、決済サービスのAirペイなど経営支援を行うSaaS
人材関連を中心に、多様な分野でマッチングプラットフォームの運営などを行っている企業です(Investor Presentation P5参照)。
2023年3月期時点でのセグメント別の売上収益と(利益)の構成比率は以下の通りです(2023年3月期決算短信 P36参照)。
②マッチング&ソリューション事業:22.0%(19.8%)
③人材派遣事業:45.8%(18.4%)
※売上収益と利益の構成比率は執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ
売上は分散した構成ですが、利益面は利益率の高いHRテクノロジー事業が6割以上を稼ぐ主力となっています。Indeedなど、求人や採用市場の動向に業績が左右されやすいと言えます。
主力のHRテクノロジー事業の地域別の売上収益の構成比率は以下の通りです(2023年3月期決算短信 P4参照)。
米国以外: 27.2%
Indeedの主力市場はアメリカですから、特にアメリカの市場の影響を受けやすくなっています。また、同じ1ドルの利益でもドル円が100円と150円では利益が大きく変わるように、米国市場で利益率の高いマッチングのプラットフォームを行うことは、円安が好影響になります。
続いてリクルートの業績の推移を見ていくと、長期的な成長が続いていて、特に2010年代以降は大きな成長を見せています(2023年3月期通期決算説明資料2-16参照)。
リクルートの創業時は紙媒体で求人広告を中心に事業を展開し、そこから「じゃらん」「ゼクシィ」など広告領域で事業拡大を進めてきました(Investor Presentation P6参照)。そして近年は、事業領域を拡大しつつ事業をオンライン化して、さらにマッチングのプラットフォームとして拡大し、積極的に大型のM&Aを行うことで成長してきました。
その中でも2010年代以降の大きな成長を支えているのは、積極的なM&Aとそれに伴う海外展開で、特に影響が大きかったのが2012年に買収したIndeedです(Investor Presentation P7参照)。
さらに2018年に買収したGlassdoorも大きな規模を持っています(Investor Presentation P17参照)。月間のユニークビジターはIndeedが3億5000万人以上、Glassdoorが5500万人以上となっています。
大規模な買収を行い、さらに買収後に事業が大きく成長したこともあり、Indeed買収以前の2012年の売上は国内がほぼ全てでしたが、2024年3月期時点では海外売上比率は53%となり、現在は海外中心の企業となりました(Investor Presentation P7参照)。
2012年といえば、米国ではリーマン・ショックの影響も残っていましたし、為替は70円台から80円台で推移していました。割安で買収可能な時期に大型の買収を行い、それが成果を見せ近年は大きな成長を見せている事が分かります。
リクルートといえば国内ではリクナビやHotPepperなどでよく知られていますが、実は海外の人材関連の事業が重要な企業と言えます。
続いてコロナ禍前の2019年度から2022年度までの4年間の業績の推移を見ていきましょう。2020年度はコロナの影響で採用市場含め経済活動が停滞した影響を受けて苦戦していますが、2021年度以降はコロナ禍前を大きく上回る水準となっています(2023年3月期通期決算説明資料1-02参照)。近年リクルートは非常に好調な状況です。
ではどうして好調だったのか、セグメント別の業績の推移を見ていくと、大きく伸びたのは、主力事業となったIndeedなどのHRテクノロジー事業です(2023年3月期通期決算説明資料1-07、08参照)。
2000年以降の主力市場のアメリカの求人件数を見てみると、2020年は経済停滞で求人件数が大きく減少しました。しかし2021年以降は急速に経済活動が再開し人手不足が進んだ影響で、求人件数がコロナ禍前を大きく上回り推移しています(2023年3月期通期決算説明資料2-04参照)。
経済も堅調ですし、インフレに伴い賃金上昇も続いています。そんなアメリカ市場を主力に事業を展開していることが、近年の好調の要因だと分かります。
また、好調なのはアメリカ市場だけではありません。人材派遣事業の業績の推移を見ても2020年度はコロナ禍で一時的な悪化が見られたもののそれ以降は回復を見せ、国内外ともコロナ禍前を上回る水準で推移しています。国内外ともに人材市場が良好で、HRテクノロジー、人材派遣共に好調だったということです(2023年3月期通期決算説明資料1-08,13参照)。
ちなみに、人材市場は3020億ドルと非常に規模が大きい市場です(Investor Presentation P13、14参照)。
その市場は求人広告や人材紹介、エグゼクティブや人材派遣、採用オートメーションなど多岐にわたります。リクルートは国内外で多様なサービスを複合的に提供していて、この大きな市場全体にアプローチできるのが強みです(2023年3月期通期決算説明資料2-11参照)。
今後のトレンドにしても、労働市場のひっ迫や人材のグローバル化、流動性の高まりが進む中で、需要の拡大が期待されます。特にオンライン採用やAIによる採用プロセスの自動化、採用業務のアウトソーシングが進むことも期待されています。リクルートは、市場の成長による好調が期待できる状況と言えるでしょう(Investor Presentation P15参照)。
とはいえ、長期的な成長トレンドは期待できるものの、短期的には不透明感がある状況です。主力のアメリカ市場ではコロナ禍からの急激な経済回復を受けて、求人件数は増加しすぎた側面があります。求人件数の推移を見ると、コロナ禍前と比べ高水準で推移するものの、2023年以降は減少傾向にあります。急拡大から落ち着きを見せ始めている状況ですから、長期的には成長が期待できるものの、2024年3月期や2025年3月期あたりは伸び悩む可能性があります。求人市場の動向には注意が必要です。
また、人材関連の事業が好調となる一方で苦戦傾向にあるのが、リクナビやHotPepperやSUUMOなどを展開しているマッチング&ソリューション事業です(2023年3月期通期決算説明資料1-10参照)。キャッシュを稼ぐ力を表す調整後EBITDAはコロナ禍前を下回る水準で推移しています。とはいえ、経済活動が回復する中で業績の改善は続いていますし、2024年3月期以降ではさらなる業績回復が期待されるでしょう。
この事業もリクナビなど人材関連の事業は堅調ですが、販促領域で経済活動の回復が遅れている影響があるということです。とはいえ、販促領域でも業績の改善は続いていますし、2024年3月期以降では経済活動がさらに回復しています。一定の業績回復が期待されるでしょう。
しかし販促領域のサービスでは、競合のサービスも多いですし、人口減少が進む中で大きな拡大が期待できる状況とは言い難いです。そんな中で、今後の成長のために拡大を進めているのが、業務の効率化を行うSaaSです(Investor Presentation P22参照)。
「Airペイ」はCMも積極的に行っていますから、ご存じの方も多いと思います(2023年3月期通期決算説明資料3-10参照)。販促領域のマッチングプラットフォームには、大きなシェアを持つHotPepperなどのように、実際の店舗とつながりのあるサービスが多数あります(2023年3月期通期決算説明資料3-11参照)。そのつながりを活かし、業務支援SaaSを組み合わせることで事業領域を拡大し、LTV(ライフタイムバリュー)※の増加を進めていきたいということです。
SaaSに関しては潜在顧客がまだまだ拡大余地は大きいとしていますが、国内のマッチングサービスは成長市場とはいえない状況のため、このソリューションで拡大が進むかどうかについては注目です(2023年3月期通期決算説明資料3-07参照)。
ここまでのまとめ
・人材採用を中心に多様な分野でマッチングプラットフォームの運営
・2010年代以降はIndeedやGlassdoorなどの大型のM&Aを積極的に行い、海外のHRテクノロジー事業を中心に大きな成長を見せており好調
・特にコロナ禍後では、アメリカの求人件数の大幅な増加と円安の影響などもあり好調
・今後も人材系の市場は拡大が期待。一方でコロナ禍明けはアメリカの求人件数は減少傾向にあり、
2024年3月期や2025年3月期あたりは、成長が一定の停滞を見せる可能性あり。アメリカの求人市場の動向に注目
・市場拡大の期待が難しい国内の販促系のサービスでは、業務支援SaaSによるLTVの増加に注力
直近の業績
それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。今回見ていくのは2024年3月期の通期の業績です。
営業利益:4025億円(+16.9%)
親会社の所有権に帰属する当期利益:3537億円(+31.1%)
売上収益は減収となりながらも、営業利益は増益となっていて、利益面は堅調な状況が続いています(決算短信より)。
もう少し詳しくセグメント別の売上収益の前期比を見ていくと以下の通りです(2024年3月期決算短信 P36参照)。
②マッチング&ソリューション事業:+6.2%
③人材派遣事業:+3.1%
※売上収益の構成比率は執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ
売上収益面では前期までは好調だった、HRテクノロジーを中心に人材関連のサービスが伸び悩み、リクルート全体の減収に繋がっていたことが分かります。
続いてセグメント利益の前期比を見ていくと以下の通りです。
②マッチング&ソリューション事業:+538.6億円
③人材派遣事業:▲43.1億円
※利益の構成比率は執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ
利益面は、売上が好調だったマッチング&ソリューション事業の大幅増益を受けて好調だったことが分かります。そして、売上が減少していたHRテクノロジー事業でも若干ながらも増益と収益性が向上していたことが分かります。ではどうしてこういった状況だったのか、各事業についてもう少し詳しく見ていきましょう。
まず、HRテクノロジー事業では米国以外の市場は増収となったものの主力の米国市場が減収となりました。米国の求人市場が一定の落ち着きを見せる中で、減収となったことが分かります(2024年3月期決算短信 P4参照)。ちなみに、ドルベースの売上では米国以外の市場も減収となっています。円安の影響を除くとグローバルで売上面は苦戦傾向にあることが分かります。ですが、その一方で若干ながらも増益とはなっていました(2024年3月期決算短信 P3参照)。
販管費の内訳を見ると、広告宣伝費が前期比で▲19.9%となっていますので、市況が低迷する中で販管費を抑制したことで増益を達成したと考えられます。
米国の求人件数は減少傾向にあるとはいえ(2024年3月期通期決算説明資料 P2参照)、コロナ禍を経ての人手不足で急拡大が進みすぎた側面があり、現在の水準もコロナ禍前と比べると高水準です。市況に合わせた広告費の調整によって、近年の高利益水準が維持できそうです。求人件数の減少傾向は続いていますので、市況には注意が必要ですが、大幅な円安も続いていますし、広告費の調整で今後も今後も堅調な状況が期待できそうです。
続いてマッチング&ソリューション事業では人材領域、販促領域が共に増収となりました(2024年3月期決算短信 P5参照)。特に大きく伸びていたのは販促領域です。国内の経済活動が活発になり、業績が改善したことが分かります。さらに、業務支援SaaSの事業も成長が続いていて、例えばAirペイは前期末の39.4万アカウントから47.5万アカウントまで増加しています。
第4四半期単体では人材領域は減収となっています。国内の人材市場も伸び悩みの可能性が見え始めていてその動向には注意が必要ですが、販促領域は堅調な状況が続いていますし、業務支援SaaSも成長しています。経済活動も活発な状況が続いていますから、販促領域の好調を背景に堅調な業績が期待されます。
最後に人材派遣事業では国内は増収で堅調な状況ですが、海外が減収となりました(2024年3月期決算短信 P6参照)。この事業でも一定の苦戦傾向が見られる海外市場の影響があったと考えられ、今後の動向には注意が必要です。今後のリクルートは、販促関連の事業の堅調な状況は期待できるものの、それ以外の事業では市況が落ち着きを見せる中で不透明感がある状況と考えられます。
リクルートの通期予想を見ても、幅を持たせた予想となっていて、売上は若干の増収or減収、利益面も数%程度の減益~10数パーセント程度の増益となっています(決算短信より)。求人市場や為替次第ではある程度の変動がある状況だと考えられますから、その点に注目です。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。