つみたて投資の定番として市民権を得つつあるインデックスファンド。中でもeMAXIS Slimシリーズは常に買付ランキング上位に複数入り、不動の人気を誇っています。そこで今回は特別編としてeMAXIS Slimシリーズの生みの親である三菱UFJアセットマネジメントの常務取締役、代田秀雄さんにお話を伺いました。
新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まり、投資信託全体の純流入額が去年の約3倍になっています。多くの国民の皆さんが資産運用に関心を持っていただき、結果として投資信託市場が盛り上がっているという点で、非常に良い傾向だと感じています。
また、資産運用の第一歩としてインデックスファンドで投資を始めることは、非常に合理的だと考えています。インデックスファンドで投資を続けていくと、自然と投資リテラシーが向上し、市場リスクに対する理解も深まります。投資について理屈ではなく、肌感覚として分かってくる頃、「もっといいファンドがあるのではないか」という思いが自然と湧いてくる方が多いように感じます。そうした思いが、中長期で勝ち続けられるアクティブファンドを探す動機になるのではないでしょうか。
そうですね。日本の資産運用の現状を見ると、他人に勧められるがまま、アクティブファンドから投資を始める方が少なくありません。もちろん、運用がうまくいく方もいますが、「このファンドでこんなに損をするなんて」と失望し、投資自体を諦めてしまう方も多かったのではないでしょうか。
なぜなら、市場全体に投資するインデックスファンドは市場リスクだけを考えればいい一方で、アクティブファンドは市場リスクに加えて個別銘柄選定のリスクも取っています。インデックスファンドなら「市場が下がっているから仕方ない」と納得できても、アクティブファンドではそうはいきません。結果として、市場が悪かったのか、銘柄選びが悪かったかも分からないまま「こんなファンドを選んで失敗した」と感じてしまうのです。
だからこそ、まずはインデックスファンドで市場リスクを理解してもらい、慣れてきたらアクティブファンドにチャレンジしてみるのがいいのではないかと考えています。投資を旅に例えるなら、インデックスファンドへの投資がその先にある「ファンド選びの旅」へと誘ってくれると思うのです。
インデックスファンドによって金融業界全体が鍛えられている
アメリカでは1975年にバンガードというインデックスファンドに特化した資産運用会社をジョン・ボーグルが設立し、インデックスファンド革命が起こりました。これはアクティブファンドの質の向上にも大きな影響を与えました。
インデックスファンドを知ると、金融機関でアクティブファンドを勧められたとき、「なぜこのアクティブファンドはインデックスファンドより優れていると言うのだろう」という疑問を抱くようになります。そのため、アクティブファンドのマネジャーは「このファンドがインデックスより優れている理由」を投資家に対して明確に説明しなければならなくなったのです。つまり、インデックスファンド革命は、アクティブファンドがレベルアップするきっかけになったと言えます。
はい、日本でも同様のことが起こると考えています。特にアセットマネジメント会社は、投資家からの「なぜアクティブファンドの長期的なリターンがインデックスファンドを上回ることができるのか」という質問に答えられるよう、レベルを上げていく必要があるでしょう。
事実、金融業界全体がインデックスファンドの広がりによって鍛えられ、レベルアップしていることを実感していますし、投資家の方々のファンド選定の眼力も確実に高まっています。インデックス投資を通じて投資家の皆さんのマネーリテラシーも向上しているため、金融商品を選ぶ際の目が厳しくなっていることは間違いないでしょう。
新しいNISAには、つみたて投資枠と成長投資枠がありますが、私はつみたて投資枠でインデックスファンドを「コア」として購入し、成長投資枠でアクティブファンドを「サテライト」として購入するのが良いのではないかと思います。もちろん成長投資枠もインデックスファンドでという方もいらっしゃると思いますが。
つみたて投資枠で選んだファンドは20年、30年と長期の付き合いになります。そこに組み合わせるサテライトとしてのアクティブファンドをどう選ぶかが非常に重要になってくるでしょう。
最近の研究では、分散された株式ポートフォリオを20年以上定額で積み立てると、債券よりもダウンサイドリスク(下方リスク)が小さくなるという結果も出ています。つまり、長期的な視点で見れば、株式中心の投資戦略も十分に合理的ではないかと考えています。
投資を始める第一歩としてeMAXIS Slimシリーズが選ばれている
eMAXIS Slimシリーズは現在14本あり、2024年6月、トータルの純資産総額が11兆円を突破しました。1ヵ月間で1兆円くらいのペースで時価残高が増えている状況です。これは、投資家の方からの資金流入と、時価上昇の両方の効果によるものです。
新しいNISAが始まり、今年一番資金流入の多いファンドが「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」で投信市場全体の資金流入の21%のシェアを獲得しています。次いで「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」が16%のシェアとなっており、この2本で6,000本ある投信市場の37%のシェアとなっています。
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)
eMAXIS Slim 先進国株式インデックス
eMAXIS Slim 全世界株式(除く日本)
eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)
eMAXIS Slim 国内株式(TOPIX)
eMAXIS Slim 新興国株式インデックス
eMAXIS Slim 先進国債券インデックス
eMAXIS Slim 国内株式(日経平均)
eMAXIS Slim 先進国リートインデックス
eMAXIS Slim 国内債券インデックス
eMAXIS Slim 国内リートインデックス
eMAXIS Slim 全世界株式(3地域均等型)
そうですね。国内でNISA口座を開設している人は2,000万人を超えてきています。一方、NISAのモデルとなった英国のISAという制度では、国民の約4割が口座を持っています。日本でも全世帯で口座を所有することが理想ではあるものの、まずは英国の4割程度まで増えるのではないかと予想しています。
また、NISAは18歳以上で口座開設ができるため、18歳以上の4割と考えると、将来的には4,000万人ほどの方が口座を開設する可能性があります。昨年から新しいNISAに対する関心が高まっており、新規に投資を始める方も増えています。そういった方々の第一歩として、私どものインデックスファンドが選ばれているのだと感じています。
eMAXIS Slimシリーズの最大の特徴は、将来にわたって業界最低水準の運用コストを目指していることです。投資家にとって信託報酬が高いとその分手取りのリターンが低くなるため、できる限り投資を長く続けてもらうためにも、将来にわたって業界最低水準の低コスト水準を維持したいと考えています。
また、恒常的にコストを下げる工夫をしているほか、印刷代・郵送料削減の観点から、目論見書などの交付書面は紙で配送せず、ネットで閲覧してもらうようにしています。たとえば、運用報告書の印刷や郵送にかかるコストは、低コストのインデックスファンドの信託報酬では賄いきれないほど高額になります。そのため、できる限り電子化を進めています
よほどのことがない限り、ラインナップを増やすことは考えていません。現在の14本で、基本的な投資対象はカバーできていると考えています。
むしろ、今後重要になってくるのは、投資家の方々にいかに投資を長く続けていただくかということです。幸いなことに、つみたてNISAが始まって以降、非常に好調な相場が続いています。しかし、過去を振り返ると、2000年から2003年にかけてのITバブル崩壊から米国の景気後退や、2007年から2009年のリーマン・ショックなど、2~3年にわたって市場が大きく下落し続けるような局面もありました。
そういった厳しい局面でも投資を継続していただけるよう、投資家の方々にメッセージを発信し続けることが重要だと考えています。長期投資の重要性を理解していただき、一時的な下落に惑わされずに投資を続けることで、最終的には高いリターンを得られる可能性が高まります。そのような情報発信を、あらゆる媒体を通じて積極的に行っていきたいと思います。
ファンドの選び方は「ウイスキーの飲み方」と似ている
ファンドの選び方は、ウイスキーの水割りに例えると分かりやすいかもしれません。例えば、オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)やS&P500(eMAXIS Slim 米国株式)をウイスキーとすると、定期預金は水に当たります。
リスク許容度の高い投資家であれば濃い水割り、すなわちオルカンやS&P500中心投資でもいいと思います。一方、リスク許容度の低い方は、薄いウイスキー、つまり定期預金を多めにしてオルカンやS&P500を少なめにする方がいいでしょう。その人なりのウイスキーの濃さを定期預金とオルカンやS&P500で実現することは、合理的なポートフォリオになります。また、オルカンとS&P500の違いを、ブレンデッドウイスキーとシングルモルトウイスキーの違いに例えることもできます。オルカンは世界中の株式を組み合わせたブレンデッドウイスキーのようなもの、S&P500は米国株のみのシングルモルトのようなものです。
このように、投資家自身のリスク許容度や好みに合わせて、適切なファンドを選択し、必要に応じて組み合わせていくことが大切です。