世界で開発が活発化 革新的な抗がん剤「ADC」

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高齢化を背景にがんにかかる人や死亡数は増加傾向にあります。そのがん治療に大きな変化をもたらしそうなのが「ADC」と呼ばれる新たなタイプの抗がん剤です。2020年に第一三共として初のADC「エンハーツ」を発売した同社を中心に関連企業の取り組みを紹介します。

米国で第一三共のADC技術の知的財産権が認定

2024年6月、ADC技術の知的財産権の帰属を巡る米製薬会社Seagen(シージェン)との訴訟で、米国仲裁協会が第一三共の知的財産権を認定する最終判断を下したとのニュースが伝わりました。ADCは、世界で製薬大手の開発が活発化しており、知的財産の重要性が増しています。

がん細胞に直接薬を届けるADC、高い治療効果に注目

ADC(抗体薬物複合体:Antibody Drug Conjugate)は「抗体」「リンカー」「薬物」の異なる役目の3つの要素でできています。抗体は特定のたんぱく質を目印にがん細胞を探し当てて、治療効果を持つ薬物をがん細胞内に直接運び込みます。リンカーは抗体と薬物をつなぐ役目を持ちます。

がん細胞を内側から攻撃するため、従来の抗がん剤に比べ高い治療効果を持ち、標的外の細胞を傷つけることが少なく、副作用も抑えられることが特徴です。

ADCの仕組み
①抗体ががん細胞のたんぱく質に狙いを定めて結合。

②がん細胞内で抗体と薬物を結ぶリンカーが切断。

③薬物ががん細胞を内部から攻撃。

第一三共 」は同社のADC「エンハーツ」の適用を乳がん以外にも拡大しています。また、他のADCを使った抗がん剤について2030年までに新たに4製品の発売を目指しており、エンハーツを含めた5つのADC抗がん剤で30以上の適応症での承認取得を目標にしています。 

国内製薬大手も開発・商品化、周辺事業も立ち上がり

第一三共以外の国内製薬大手もADCの製品化や開発を進めています。「 アステラス製薬 」は米製薬会社Seagenと共同で尿路上皮がん向けにADC「パドセブ」を開発し、すでに販売しています。現在は米製薬大手メルクの抗がん剤「キイトルーダ」との併用療法でも承認を取得し、販売拡大を目指しています。

エーザイ 」は米製薬大手のブリストル マイヤーズ スクイブとADCによる抗がん剤を共同開発してきましたが、2024年7月に単独開発や商業化に切り替えると発表しました。同社は創製した抗体に自社の抗がん剤「エリブリン」を化学結合させ、同社初のADC商業化を目指しています。

ADC関連の周辺事業も立ち上がっています。「 カイオム・バイオサイエンス 」はADCに活用できるがん治療用の抗体を手掛けています。同社が開発した「LIV-1205」を使ったADC「ADCT-701」については、2024年7月に米国立がん研究所(NCI)で、第1相臨床試験において第1例目となる被験者への投与が始まりました。

富士フイルムホールディングス 」は国内初のバイオCDMO(医薬品開発・製造受託)拠点を富山県富山市に新設すると2022年に発表し、2026年度の稼働を目指しています。パンデミック(世界的大流行)時にはメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンなどの製造を手掛ける一方、通常は抗体医薬品やADCなどのバイオ医薬品の製造を受託することが可能な体制を整えています。また北米でも12億ドル(約1800億円)を投じて抗体医薬品の原薬製造設備の増強を進めています。

ADCが今後のがん治療を大きく変えるかもしれません。