採算改善はポジティブサプライズ 「電炉製鉄」関連株の一角が上昇

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株式市場で「電炉製鉄」関連株の一角が買われています。QUICKが選定する関連株の平均騰落率は0.1%と、急落した東証株価指数(TOPIX、6.0%安)に対して逆行高となりました(8月2日までの5営業日の騰落)。関連5銘柄とその背景について解説します! 

大幅な下落相場でも底堅く推移

電炉製鉄関連株の一角が買われたきっかけは企業の決算発表です。7月26日、東京製鉄は2025年3月期第1四半期決算発表で通期予想の各利益見通し(単独)を上方修正しました。これを受け同業の関連銘柄にも好業績を期待した買いが入り、それぞれの決算発表後に上げ幅を拡大する場面が見られました。 

東京製鉄の通期業績予想上方修正の背景は、製品の値上げと、原材料である鉄スクラップ価格が抑えられたことによる採算の改善です。足元の円高進行により、ドルで取引される鉄スクラップの円建て価格は下落しています。日銀の追加利上げ観測の高まりなどによって円高が一段と進むと、採算のさらなる改善に寄与する可能性があります。 

日米の金融政策決定会合を通過した8月2日の日経平均株価は前日比2216円安と、「ブラックマンデー」の翌日にあたる1987年10月20日以来の下げ幅を記録しました。投資家心理が悪化しても株価が底堅く推移した電炉製鉄の関連銘柄には、業績拡大などへの期待の高さがうかがえます。

100億円規模の自社株買いも好感【東京製鉄】

上昇率首位の「 東京製鉄 」は、決算発表で25年3月期通期の単独税引き利益を従来予想の210億円から220億円に上方修正しました。修正後でも前期比21%の減益予想ではあるものの採算改善による上乗せがポジティブに受けとめられたようです。さらに、決算と同時に発表した100億円(680万株、自己株式を除く発行済み株式の6.26%)を上限とする自社株買いもサプライズとして好感されました。

今回の自社株買いにより25年3月期の総還元性向は約70%と、方針とする25~30%を大きく上回る水準となる見通しです。同社のPBR(株価純資産倍率)は1倍を下回る状態が続いており、今後も「安定的な配当の実施、機動的な自己株式の取得を実施していく」としています。業績が好調に推移すれば、さらなる株主還元の強化も期待できます。 

インドネシアなども明るい見通し【大阪製鉄】

上昇率2位の「 大阪製鉄 」は日本製鉄グループの中核電炉メーカーです。同社は、7月30日に、24年4~9月期連結純利益が前年同期比14%増の26億円と、従来予想の19億円から上振れしそうだと発表しました。主力とする国内やインドネシアの経済動向についても明るい見通しを示しており、一段と成長が見込まれます。 

投資の拡大や高付加価値商品の開発で成長へ

北越メタル 」は2030年に向けたサステナビリティー(持続可能性)社会の実現に向けた長期ビジョンで、取り組みの一環として電炉のエネルギー効率の向上に注力する方針を示しています。二酸化炭素(CO2)排出量だけでなく、将来的な製造コストの削減も期待されます。

東京鉄鋼 」は鉄筋コンクリート用棒鋼の製造などを手掛けています。高付加価値の製品開発やコストダウンなどに取り組み、環境や市況変化に強い高収益企業を目指しています。

中部鋼鈑 」は27年3月期を最終年度とする中期経営計画で、3年間で120億円規模の投資方針を掲げています。重松久美男社長は今秋の電炉更新に合わせて周辺生産設備を増強する考えを示しています。 

脱炭素化による成長の期待大

鉄鋼業界は産業別の二酸化炭素(CO2)の排出量が最も多く、その削減が課題です。このため、削減効果の高い電炉への注目度が高まっています。日本では原料に石炭を使う高炉が主流でしたが、製鉄大手が電炉に切り替える動きも増えています。世界の電炉製鉄の市場規模は2032年までに24年比で2.4倍の約19億ドルに拡大するとの予測もあります。 

電炉メーカーは原材料の鉄スクラップと販売する鉄鋼製品のスプレッド(利幅)が収益のカギを握ります(『利幅拡大で収益改善 「電炉」関連株が上昇)。そのなか、高炉メーカーの参入による電炉化の加速は、競争の激化を通じて鉄スクラップの需給の引き締まり、それによるコスト増につながる可能性はあります。一方、2050年にCO2排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラルの実現に向け、電炉製鉄の市場は拡大していく見通しです。各社の採算改善に向けた取り組みなどを注視しながら、投資先を見極めたいですね。