「ラーメンからロケットまで」と言われるほどさまざまな事業を展開する総合商社。そんな総合商社も各社ごとに強みを持つ事業で、独自の展開を通じ存在感を示しています。今回は、アパレル事業で存在感を示す伊藤忠商事を中心にその他関連企業の取り組みを紹介します。
バークシャー・ハザウェイ傘下企業と協業しアパレル展開
6月7日、「 伊藤忠商事 」(以下、伊藤忠)は米アパレル・アンダーウェアブランド「FRUIT OF THE LOOM(フルーツオブザルーム)」の日本を含むアジア市場でのマスターライセンス権を取得したと発表しました。
「FRUIT OF THE LOOM」は、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイの傘下企業です。伊藤忠とバークシャー・ハザウェイが初めて協業した案件として注目されました。
「利は川下にあり」「マーケットイン」を標榜
近年、商社は消費者に近い事業を強化しています。特に、消費者に身近な衣料品や服飾品は、個人の嗜好などが反映されやすいといわれます。このため、選択の主導権は消費者にあるため、消費者が求めるものを探り、提供するノウハウが重要となってきます。
・OEM(相手先ブランドによる生産)
・ODM(相手先ブランドによる設計・生産)
・アパレルブランドとの商談や買い付け・輸入
・素材の開発や提供
・マーケティング
伊藤忠は、「利は川下にあり」を経営方針に掲げ、より消費者に近い川下ビジネスを開拓・進化させるとともに、「マーケットイン」の発想で、消費者のニーズに応える事業展開を目指しています。
そういった方針のもと、世界のブランドのライセンス権を取得し、消費者の好みや流行を敏感に捉えた商品戦略を展開することで、祖業の繊維事業において独自の存在感を示しています。
スポーツウェア、スポーツシューズに注力
足元で伊藤忠が特に力を入れているのがスポーツウェア・スポーツシューズの2分野です。新型コロナウイルス感染症をきっかけにアウトドアブームが到来したこともあり、快適な着心地で機能性にも優れたスポーツやアウトドア要素の強いアイテムが人気を集めています。
2024年3月、イタリアのスポーツウェアブランドを巡る新たな事業展開について会社発表がありました。一つは「FILA(フィラ)」のシューズやアパレルの企画・製造販売会社の設立。直営店の展開も計画するなどブランドへの関与を強めています。もう一つは「Kappa(カッパ)」のマスターライセンス権や輸入販売権の取得です。
シューズでは人気スニーカーブランド「CONVERSE(コンバース)」を中心に「DESCENTE(デサント)」や「UNDER ARMOUR(アンダーアーマー)」、「FILA」などを取り扱っています。合計の取り扱い数は年間1000万足規模に膨らみ、大手スポーツメーカーと同等の規模に迫ったとのことです(2023年5月時点)。
日本法人で独自展開するコンバースではアウトドアブランド「L.L.Bean(エルエルビーン)」とのコラボ商品を出すなど、他のブランド権利を活用した取り組みもみられます。
国内アパレルやEC企業とも連携
その他、8月にスポーツ用品デサントの完全子会社化を発表。ブランド運営や海外事業の強化を進める予定です。ブランド育成には外部のノウハウも活用しており、靴のEC(電子商取引)を手掛ける「 ジェイドグループ 」傘下のロコンドと「Reebok」商品の販路開拓で協業しています。
また、経営破綻した米ロサンゼルス発のカジュアルファッションブランド「FOREVER21(フォーエバー トゥエンティーワン)」の販売権及びマスターライセンス権を取得し、「 アダストリア 」の店舗開発力や店舗網・ECなどの経営資源を活用することで日本でのブランド再上陸を推し進めました。
伊藤忠以外の商社では、「 丸紅 」が6月に米ルームシューズ大手のRGバリーの買収を発表。これを足掛かりに米国での消費財関連の売上高拡大を目指しています。
「 三井物産 」は「MEN’S BIGI(メンズビギ)」など国内有力アパレルブランドを複数持つビギホールディングスを6月に完全子会社化しました。
伊藤忠を中心に川下の消費者との接点を増やそうとする動きが活発化しています。ブランド価値向上を通じた消費者への訴求で商社が活躍する場面は今後一段と増えていきそうです。