自動車や建材など幅広い分野で材料として使われる鉄。その製造過程で課題となるのが二酸化炭素(CO2)の排出削減です。CO2削減の大本命と目される「水素還元製鉄」について、日本製鉄を中心に取り組みを紹介します。
日本製鉄が世界最高水準のCO2削減を達成
製造業のCO2排出量は多く、国内の部門別排出量の3分の1、さらにこの製造業のうち鉄鋼業が3分の1と大きな割合を占めています(2020年度、経済産業省資源エネルギー庁)。製鉄工程の技術革新は国全体の排出削減でも重要な意味を持っています。
こうした中、今年2月、「 日本製鉄 」が水素還元試験炉で、世界最高水準となるCO2排出量33%の削減を達成したと発表しました。
製鉄工程で大量のCO2が発生するのは、酸化鉄である鉄鉱石から酸素を除去(還元)する際に、炭素の塊であるコークス(石炭)を使うことで酸素と炭素が結合するためです。
水素還元製鉄はコークスの代わりに水素を使うことで、CO2の削減を抑制する仕組みです。
ただし、水素を使った場合、発生した水蒸気によって炉内の温度が冷やされてしまい、還元反応が持続せず、鉄が溶融しないなどの課題が出てきます 。
そのため水素還元製鉄では熱の補てんにコークスの併用が避けられません。還元における水素の割合を少しでも高め、CO2排出の削減を目標に世界中の製鉄各社が技術開発でしのぎを削っています。
日本製鉄が今回33%削減した技術では、外部からの水素の調達量を増やしたほか、水素を加熱することで温度低下を抑え、水素還元比率を高めました。同社は2040年ごろに半減させることを目標に技術の確立を進めています。
JFEスチールは「水素間接吹き込み」
国内の他の高炉大手でも水素活用の技術開発を多面的に進めています。「 JFEホールディングス 」傘下のJFEスチールが強化しているのは「水素間接吹き込み」と呼ばれる技術です。この技術では、製鉄工程で発生したCO2を回収し、水素と触媒で反応させてメタンを作り鉄鉱石の還元に利用します。
JFEスチールの試験用高炉では「 IHI 」がメタンを製造するメタネーション装置を受注しています。
神戸製鋼所は「直接還元鉄」
「 神戸製鋼所 」が進めているのは水素を高炉に使うのではなく、原料の鉄鉱石をあらかじめ天然ガスや水素で直接還元して使う方法です。子会社の米ミドレックス・テクノロジーズの還元鉄の製造技術を活用しています。
還元鉄を使うと鉄鉱石を還元するのに使うコークスの量を減らせるので、結果的にCO2の削減につながります。還元鉄を大量に入れると炉内のガスの流れが不安定になるなどの課題がありましたが、足元は技術の向上でCO2の25%削減を実現しています。
神戸製鋼所は、この技術を使い「 三井物産 」と共同でオマーンでの還元鉄の製造プロジェクトにも乗り出しています。
各社が取り組む技術開発が脱炭素を後押ししそうです。