袋から滴りそうなミートソースとジューシーなパティのコンビネーションがたまらない「モスバーガー」。1972年の発売以来、モスの商品ランキングで53年間連続1位です。「持ち帰っても崩れない、キャストさんが作りやすいなどソースの粘度まで計算しています」。商品開発のプロ、モスフードサービスの濱崎真一郎さんにおいしさの秘密をお伺いしました。
今回は、株式会社モスフードサービス全国ハンバーガーランキングを発表!
※2023年度の販売実績より
モスバーガーにチーズが加わり、まろやかな味わいになった一品。モスバーガーのリニューアルとともに、モスチーズも変化しています。
和風バーガーの代表であるテリヤキバーガーは、なんとモス生まれ。日本人の味覚に合わせるため、隠し味に味噌が入っています。1973年の販売開始以来、一度も休売することなく販売を続けており、累計4億食以上が販売されています。
濃厚な特製ミートソースとジューシーなパティが特徴の、モスの代表作。
リニューアル13回! 直近の変更は「20分経ってもおいしいソース」
コロナ禍のテイクアウト需要に合わせたわけではなく、コロナ前からテイクアウト需要に向けた対策を強化していました。モスバーガーはもともとテイクアウトの比率が高いので「20分経ってもおいしいソースを作ろう」というのは長年の課題でした。水面下でソース作りに励んでいたというわけなんです。なお、商品のリニューアルには産地や調達先の変更などに基づく小さなものと、公式に発表する大きなものと、2種類あります。前者に関しては数えきれないほど実施していますが、後者は準備期間に数年かけていますね。実は、次のリニューアルの準備も始まっているんですよ。
方向転換しすぎると既存ファンが離れてしまいますからね。特に「モスバーガー」と「テリヤキバーガー」は難しい。長年のファンの方がいらっしゃるからこそ大きくは変えられないですが、公式リニューアルの際は「ここを変えました!」という打ち出しができないとダメだとも思っています。お口の中で広がるトマト感をアップしたなど、特徴的なフレーズが出せてこその公式リニューアルですね。なお、試作は相当数やっており、A案とB案があったとしてどちらかに絞った後にさらに微調整をする。「モスバーガー」は1972年の創業時の際も100回以上の試作をしましたが、リニューアルも毎回同じような感じです。それぞれ何十パターンも作るので、数ということでは100回くらいは越えてしまいますね。
テイスティングの際に特別なことをやっているかと申しますと、皆さんがご家庭で料理を作る時の味見と基本的には一緒です。最終的に上がってきたものが3つあるとすれば、ソースの味や全体としてのバランスなど評価を1から5まで数値化する。実は、単純においしいだけでは商品化には至りません。コストはもちろん、商品開発の際に「いかに簡単に、おいしいバーガーを作るか」はすごく意識しています。現場のキャストさんが作りやすいかなども見て最終的に判断していますね。
創業時のレシピより今の「モスバーガー」がおいしいです
大事なことなのですが、味覚って気づかない間に変化していくものなんですよ。年齢や環境もありますし、舌が肥えたとも言えるのかもしれません。3年前に「おいしい」と思った商品って今食べると「ちょっと違うかな」と感じられると思うんですね。
以前「モスバーガー」創業時のレシピを社内で再現したことがありました。正直に言いますと、味が濃い。しょっぱい(笑)。今の方がずっとおいしいと思いました。他のハンバーガーチェーンのみならず、食は時代とともに洗練されてきています。1970年当時はすごくおいしいという評価だった「モスバーガー」も2020年代には受けないだろうなと思いました。つまるところ、味を少しづつ変えていっているのは常に「今、おいしい」と思ってもらうためなんですね。
「モスバーガー」はソースが命です。口周りが汚れるとのご指摘もございますが、これだけソースの多いバーガーはなかなか作れないと思います。ソースだけでなく、たっぷりの生野菜も特徴でトマトやレタスもカット野菜ではなく丸ごとのまま仕込んでいます。ご家庭のキッチンでやるように野菜は店舗で手洗いし、例えばモスバーガーのトマトは包丁で1枚ずつ輪切りに、テリヤキバーガーのレタスはシャキッとさせるために4℃の水につけ、包丁ではなく手でちぎる。野菜本来の味を引き出すために過程にまでこだわっているんです。
モスの野菜は本当に美味しくてトマトなんてプロの料理人の方から「どこで購入してるんですか」と聞かれたこともあるほど。1997年から契約農家さんと直接取引をしてきましたが、これも全国チェーンとしては先駆けだったんじゃないでしょうか。おいしい野菜を安定供給するために現在は3000近い農家さんとお付き合いをしています。
現場の再現性を担保するのが商品開発のキモ
現場で再現できないレシピではダメです。全国2万6000人のキャストさんがいますから、その方たち全員が同じように作れるハンバーガーであること。私自身、店舗の現場が長かったこともあり「美味しさかつ、現場の再現性を担保できる」ことが商品開発の肝と思っています。ところで、一番作るのが難しい商品は何だと思いますか?
答えは「モスバーガー」です。下のバンズにマスタード、パティ、マヨネーズ(カロリーハーフマヨネーズタイプ)、オニオン、ミートソース、トマト等々と、組み立ての工数が8つもあるんですね。その難しい商品が一番売れているバーガーで、作る機会も一番多い。というわけで、新人さんは苦労しますが、作り続けてきたベテランともなると芸術品かと思うほど手早く綺麗に作ることができるようになる。ちなみに、テリヤキバーガーは工程としては少ないんですがバランスを整えるのが難しいです。レタスのちぎり方によってマヨネーズがうまく乗らなかったりする。その上からテリヤキソースを追いがけするんですけど綺麗に作るのはちょっとしたコツが必要だったりもします。
商品開発の際はモスバーガーよりも工程を増やしたくはないですし、ソースの粘度にこだわったりと形成しやすさを気にしています。モスバーガーであれば、ミートソースは垂れるけど現場の人がかけやすいとか、持ち帰っても崩れないなど計算しています。ソースは時間が経つと粘度が硬くなったり、柔らかくなったりするものですが、それも何十パターンと作ってみて全てバランスを考えて作り上げていますね。
後編では当社で一番売れている「モスバーガー」に追いつき、追い越しそうな新しい定番についてもお話したいと思います。
モスフードの創業は1972年。創業者・櫻田慧(さくらだ さとし)氏は、「どうせ仕事をするなら感謝される仕事がしたい」「仲間とともに同じ目標に向かって成長できる組織を作りたい」という信念をもとに起業しました。そのとき思い起こされたのが、証券マン時代にアメリカで出会ったハンバーガーの美味しさでした。「食を通じて人を幸せにすること」というモスの心は、今でも社員の皆さんに受け継がれています。
商品本部 商品開発部長。1995年の入社以来一貫して店舗連携に直接関わり、2018年にはチェーン内の教育機関「モスアカデミー」を設立するなど、店舗レベルと顧客満足度の向上に従事。2020年より商品開発部長に就任し、お肉が食べられない人でもハンバーガーを楽しめる「ソイパティ」のアップデートや、4種のチーズを使用した「白いモスバーガー」など画期的なヒット商品を連発。