投資や資産形成をもっと楽しくするためにピッタリの書籍を、著者の方とともにご紹介する本連載。一見、縁遠く見える「株式投資」と「推し活」に共通するものは何か? 投資顧問会社を経営し、投資系YouTuberとして13万人以上のチャンネル登録者を擁する栫井駿介さんと見ていきましょう。[PR]
「推し活」は株式投資にも通じる
突然ですが、「推し活」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。アイドルやアニメなどのキャラクターで自分が好きなものを「推す(推奨する)」活動のことです。今や「Z世代」と呼ばれる10~20代の8割は、何かしらの「推し」を持っているという調査もあるくらいです。
「推し活」を世間に広めたのは、「AKB総選挙」でしょう。CDを買えば投票権を得られ、それを自分の「推し」に投票する。この票数によって、AKB48の中での順位が決まります。もし自分の「推し」が上位に食い込めば、満足感を得ることができるのでしょう。
なぜ今の若い人たちが「推し活」にこれほどまで熱中するのかと考えると、そこに世相が表れているように感じます。かつてのように経済成長を追い求める時代は過ぎ去りました。経済のパイが成長しない中で、競争ばかりしていてもギスギスするだけで、一向に幸せは得られません。そんな中で「推し活」は、自分の「推し」がスターダムに上がっていくのを応援することで、自分にとっての生きがいを生み出しているのではないでしょうか。
この仕組みこそ、株式投資にも通じるところがあると感じています。
私は「つばめ投資顧問」という会社を経営し、個人投資家の皆さんへ、株式投資のアドバイスを行っています。株式投資の中でも、「投資の神様」と呼ばれる御年94歳のウォーレン・バフェット氏がしているような「人生スパン」での長期投資を推奨しています。
長期投資とは、簡単に言えば、ひとつの株を長く持ち続けることで、その企業が成長することによってリターンを得られる投資法です。バフェットの言葉を借りれば、理想の投資期間は「永遠」です。永遠といっても、株式をあの世まで持って行くことはできませんから、最長で「人生」と置き換えてもいいかもしれません。
私が考える長期投資とは、私たちの一生のうちに、自分が気に入ったいくつかの銘柄を持ち続け、その企業が成長することによって資産が増え続けるというものです。
この投資法こそ、先ほど説明した「推し活」そのものだと考えています。アイドルやキャラクターと同じように、自分が気に入った企業にお金を投じ、その対象が成長していくのを見守る。当然、自分がどの企業を推すかは、その中身のことをよく知ってからでなければいけませんし、推し始めてからも、様々な苦楽を共にすることになります。
推しの企業を見つけたら、投資するのもよいですし、就活生ならそこに就職するのもありでしょう。またあなたがビジネスパーソンだとしたら、その企業をマネすることで大きな飛躍を得られるかもしれません。「企業の推し活」は単なる趣味ではなく、あなたの人生そのものもバラ色に変える力があるのです。
自分に身近な企業をまずは分析してみる
ある会社に投資したり、商品を買ったり、就職するということは、スポーツで特定のチームを応援するのにも似ています。確かに、最終的に競争を行うのは企業の経営陣や従業員ですが、それを側面から支えようとする活動は、まさにファン活動、「推し活」に他なりません。
サッカーでは、「ファンは12人目の選手」と言われるほど、試合の流れを決定づける強い力を持ちます。すなわち、企業を分析して好きな企業を応援することは、休日にサッカーチームを応援しに行くことと同じようなものなのです(少なくとも、私はそのくらい企業を分析することが「趣味」となっています)。
そうは言っても、「どんな企業を分析したらよいか分からない」と感じる方も少なくないでしょう。
確かに、最初から「最高の企業」を見つけ出そうとすると構えてしまいます。とはいえ、よいとも思えない企業を「推す」のはちっとも楽しくありませんよね。
そこでおすすめしたいのが、「自分にとって身近な企業」をまずは分析してみることです。身近な企業であれば、そこが取り扱っている商品やお店、従業員の様子を把握しやすいはずです。
企業分析の基本として、Company(自社)、Customer(顧客)、Competitor(競合)の観点から企業が置かれている状況を見る「3C分析」があります(次回の記事で詳述します)。この3C分析を行う時にも、自分が「顧客」であるならば、3つの要素のうち1つはすでに形作られていると言っていいでしょう。
例えば、洗剤などの日用品を製造・販売している「花王」が身近な方は多いと思います。普段から花王の商品を買っているとしたら、あなたがなぜそれを買うのか、スーパーやドラッグストアの棚のどれぐらいを占めているのか、価格は上がったか下がったかなどを日常的に感じることができると思います。それこそまさに、企業分析の出発点です。
そもそも花王は儲かっているのか、最近出した新商品にはどんな目的があるのか、花王という会社の成り立ちはどうなっているのか──そんなことを考えながらスーパーに行くだけでも、分析のヒントはごろごろ転がっています。
ついでに花王だけでなく、その商品の隣に並んでいるメーカーと比較してみると、3C分析における「競合」にまで踏み込むことができます。すなわち、スーパーに行くだけで、3C分析はほとんど完了してしまうのです。
最高のアナリストはあなた自身
たったそれだけでよい分析ができるものかと訝(いぶか)る人も少なくないでしょう。確かに、証券会社のアナリストのように一つひとつの細かな数字を押さえられるわけではありません。
一方で、毎日、花王の商品を買いに行くアナリストは決して多くありません。財務諸表に並んでいる数字は、あくまで過去のものです。財務分析ばかり行っているアナリストは、いつまでたっても「後ろ」ばかりを見ているに過ぎません。
それに対して、あなたが今日その商品を買ったということは、どのレポートよりも最新の情報であることは間違いありません。しかも、純粋な顧客として購入していれば、単なる仮説ではないリアリティがそこにあるのです。その感覚は、どのアナリストをも上回ることができるのです。
実際に、消費者がアナリストに先立ってすばらしい企業を見つけられる事例はごろごろ転がっています。
例えば、「業務スーパー」という格安スーパーマーケットチェーンがあります。元々海外からの輸入品を大量に売ることを得意としていましたが、牛乳パックに入った羊羹などのオリジナル商品も積極的に出すようになり、消費者の間で話題になりました。
その後、次々に店舗展開を図り、やがてテレビなどでも頻繁に取り上げられるようになりました。
あなたは「なんだかお得そうだな。ちょっと行ってみよう」と興味本位で行って、思いのほかハマってしまうかもしれません。ここで少しだけ頭を企業分析モードにしてみると、単に「安い商品を買えた」という以上の大きなリターンを得られるかもしれないのです。
業務スーパーを運営しているのは「神戸物産」という会社です。神戸物産の株価は、この10年で約40倍になっています。私が大学生だった約17年ほど前には、近くにあった業務スーパーによく行っていましたから、10年前に10万円でも株を買っていれば、今頃それが400万円に化けていたというわけです。これこそ「お得」な買い物ですよね。
10年前の神戸物産といえば、時価総額200億円ほどで、証券会社のアナリストもほとんどフォローしていないような状況でした。そんな時にあなた自身が「アナリスト」になることで、彼らに先んじて素晴らしい企業を見つけることができたはずなのです。
もし、あなたが業務スーパーにハマり、「また来よう」と思えたなら、それは企業分析の本質である「未来を見通した」ということに他なりません。それは、どんなアナリストレポートよりも意義ある情報となります。
ピーター・リンチ氏は「アマチュアだからこそプロよりも素晴らしい投資を行うことができる」と言っています。それはまさにあなた自身が「アナリスト」になるということなのです。ぜひ、今すぐ街へ出て、企業分析を始めてみましょう。