投資や資産形成をもっと楽しくするためにピッタリの書籍を、著者の方とともにご紹介する本連載。今回は、企業分析をするための手法として有用な「3C分析」と「SWOT分析」について、投資顧問会社を経営し、投資系YouTuberとして13万人以上のチャンネル登録者を擁する栫井駿介さんと見ていきましょう。[PR]
3C(Company/Customer/Competitor)で客観的視点を養う
企業分析の手法として最も有名なものが、「3C分析」と呼ばれる手法です。3Cとは、Company(自社)、Customer(顧客)、Competitor(競合)の観点から企業が置かれている状況を見るというものです。
企業分析と言うと、どうしてもCompany(自社)にばかり偏ってしまいがちなのですが、それだけだと客観的な分析とは言えません。なぜなら、企業が存在するためには、変数として顧客や競合の動きを無視することはできないからです。このような外部環境が企業に与える影響を認識して初めて客観的な分析ができるということになります。
企業が公表する中期経営計画の中では、このうち「顧客」や「競合」の観点を見失っているものが見受けられます。それはとても響きよく聞こえるのですが、冷静になって考えてみると、その企業が行おうとしている事業にそもそも顧客が存在しなかったり、もし存在しても市場が小さかったりすることは珍しくありません。また、もうすでに他の企業が手がけていたり、競合からすぐにマネされてしまう可能性があるものだったりします。
このような中身のない中期経営計画をベースに企業分析を行ってしまわないためにも、3C分析により客観的・論理的に判断することが必要なのです。
そんなの当たり前だと思われるかもしれませんが、もしあなたが社会人なら、自分の会社のことを考えてみてください。はたして本当に顧客や競合の動きが見えているのでしょうか。もしそうでないと感じるなら、あなた自身または会社の経営陣は、自社の企業分析を正しく行えていないということになります。
個人的な体験で言うなら、恋愛で考えると面白いかもしれません。顧客があなたにとって恋人にしたい人だと考えると、自社だけを分析することはひたすら「自分磨き」をしているようなものだといえます。しかし、いくら自分磨きをしても、相手が振り向いてくれなければどうしようもありません。その間にライバル(競合)に持って行かれてしまうかもしれません。
そうならないためには、頻繁に相手に話しかけ、ニーズを汲み取る必要があります。相手が、お花が好きだとしたら、バラを贈るのは有効なプレゼントになるでしょう。
ただしこれは、単純に「ライバルの上を行けばよい」という話でもありません。ライバルがバラを100本送るなら、自分は101本送ればいいかと言われれば、そうではないのです。
ここで大切なのは「あなたの強みを活かすこと」です。あなたの取り柄が優しさなら、日頃から細かいことに気がつき、相手を助けてあげることが有効かもしれません。素晴らしいデートプランを立てられるなら、それを相手に積極的に提案することが大きなポイントとなる可能性があります。すなわち、顧客や競合の分析ばかりではなく、「自社の強み」に焦点を当てるということもまた必要になってくるのです。
「アマチュアだからこそプロに勝てる」ポイントとは?
自社や競合の分析は、やり方さえ覚えてしまえばそんなに難しくありません。とくに上場企業であれば、有価証券報告書をはじめ、様々な情報が揃っています。競合も基本的には自社分析と同じで、後はどこを競合と認識するかだけの話です。
一方で、情報が最も曖昧なのは「顧客」です。市場規模などはシンクタンク等が発表しているレポートによって把握できるのですが、それが今後増えていくのか減っていくのか、社会情勢の変化もあり容易には想像できません。そこで最も活躍するのが「自分が顧客になった場合」です。
自分がその会社の顧客になると、まさにその企業が利益を出せるかどうかの第一線で情報を得ることができます。それは財務諸表のようなカチッとしたものではないかもしれませんが、リアルな一次情報であることは間違いありません。この情報はどんなアナリストでも得ることはできないため、何よりも貴重な情報です。
だからこそ、消費者である皆様が投資のプロに対しても優位性を発揮できる場面は少なくないと考えるのです。
アメリカで伝説となっている投資信託「マゼランファンド」を率いたピーター・リンチ氏も著書『ピーター・リンチの株で勝つ』の中で「アマチュアだからこそ、プロに勝てる」と言っています。皆様にもぜひこの感覚で素晴らしい企業を見つけてほしいというのが私の願いです。
さらにSWOT分析で整理する
3Cの観点での分析をひと通り行ったら、次に行うのが「SWOT分析」です。これは聞いたことがある人も多いのではないかと思います。SWOT分析とは、その企業が置かれているStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(驚異)を抽出し、その企業の特徴を浮き彫りにするものです。
この中で、StrengthとWeaknessは内部環境、OpprotunityとThreatは外部環境です。内部環境は自社分析と競合分析、外部環境は顧客分析と競合分析をそれぞれ合わせたものと見ることもできます。要するに、3Cで分析したものを整理しただけにすぎず、新しい分析を行うわけではありません。「それなら必要ないのでは?」と思われるかもしれませんが、分析したことを整理し直すことで、より論点が明確になります。
何より有効だと私が考えるのが、その企業にとってのプラス面とマイナス面の両方を記載できることです。分析を行っていると、分析者自身の癖によってプラスあるいはマイナスのどちらかに偏ってしまうことがあります。もちろん最終的には偏りを完全に避けることは難しいのですが、少なくとも早い段階で先入観にとらわれて、よい企業を見逃してしまうのはもったいないことです。
何より、強みは裏返すとそのまま弱みに、弱みは逆に強みになります。SWOT分析を繰り返していると、物事には両面性があることを嫌でも思い知らされます。やがて、意識しないでも「その裏は?」と考えることができるようになり、分析の精緻化へのスピードが速まっていくのです。
SWOT分析は未来志向のもの
私が分析した企業の中で具体例を挙げるとすれば、任天堂のケースがあります。任天堂は、ご存じの通りSwitchというゲームやマリオ、どうぶつの森、スプラトゥーンといった様々なキャラクターを有することが強みです。一方で、ゲームが売れるかどうかはギャンブルのようなところがあり、時には赤字になってしまうなど、不安定なところが弱みでした。
そこで任天堂が力を入れているのが「IP(知的財産)戦略」です。任天堂が持つキャラクターをゲームだけではなく様々な場所で露出することで、任天堂のゲームに対する認知・愛着を引き上げていこうとするようになりました。例えばユニバーサル・スタジオ・ジャパンには「スーパー・ニンテンドー・ワールド」というアトラクションを設けたりしています。
もしこうした戦略によって、ゲームが売れるかどうか分からないという「ギャンブル性」から抜け出し、任天堂のゲームを買う人口が累積的に増えるような状況になれば、任天堂はこれまで以上にますます成長できる可能性があると考えます。株価も大きく伸びることが期待できるでしょう。
このように、「強み」「弱み」を浮き彫りにしてそれぞれに対する企業の姿勢を見ることで、今後、企業が進むべき方向性が明確になることがあります。ここで分析した「強み」や「弱み」は現在、あるいは過去のものにすぎません。それを企業が強化・克服できるとしたら、未来に向けてその企業は良くなっていくと言えるはずです。その意味で、SWOT分析も未来志向のものなのです。
もっと言えば、一見すると弱みと考えられる部分すら愛することができれば、あなたは本当の意味でその企業を「推し」として捉えることができるでしょう。