この記事は2024年8月29日に「テレ東プラス」で公開された「全国に拡大中!“ゴンチャ”快進撃の裏にある常識破りの戦略とは:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。今回、「カンブリア宮殿」に登場されたのは、ゴンチャジャパンの角田淳社長です。
週4回来たくなる店づくり~飲み物1万通り、スピード接客も
街を見渡せばいたるところにカフェがある空前のカフェブーム。そんな中で目覚ましい快進撃を続けるグローバルカフェチェーンがゴンチャだ。
東京・新宿区の新宿ミロード店をのぞくと、目立つのは10代、20代の女性客。中には「週4回は飲んでいる」という熱烈なファンもいる。彼女たちが太いストローで飲んでいるのは、紅茶やウーロン茶に甘味やミルク、フルーツの香りなどを足したアジアで人気のティーメニュー。ゴンチャはティーカフェの専門チェーンなのだ。
ゴンチャが使っている「阿里山ウーロンティー」は、台湾南部の阿里山で栽培される茶葉で、通常100グラム約7000円。普通の茶葉の3倍もする高級茶葉を直接仕入れて使っている。
他にもアジア各地から厳選した計4種類の茶葉を使用。抽出する時はそれぞれの茶葉に合わせ、湯の温度や抽出時間まで変えて、最高の味わいを引き出すと言う。
店内の調理は火を使わず、全て電気で行うオペレーションが強み。路面店だけでなく、火を使えない場合もある駅ナカ店など、出店先の選択肢が広がるからだ。
国内のカフェ業界で店舗数トップを走るのは「スターバックスコーヒー」で1948店。「ドトールコーヒー」1067店、「コメダ珈琲店」1004店と続く(店舗数は各社HPより・放送日時点)。一方、ゴンチャは現在約162店(8月1日現在)と、規模ではまだまだ差があるが、独自の闘い方で急成長を続けている。
茶の抽出を始めたところで、スタッフがその時刻を記したシールを貼った。「4時間でお茶の味が落ちてしまうので必ず廃棄する」と言う。鮮度にもこだわり抜いているのだ。
ゴンチャと言えば約7割の客が頼むトッピング。アロエ、ミルクフォーム、ナタデココに定番のタピオカと4種類から選べる。甘さのシロップはゼロから少なめ、普通、多めと4段階。氷の量も同じように4段階で選択できる。組み合わせは1万通りにもなるから飽きずに楽しめるのだ。
ちなみに一番人気はタピオカ入りの「ブラックミルクティー」Mサイズ(570円)。タピオカは本場・台湾産を店内調理して、人の手と時間を惜しまないやり方でモチモチ食感を生み出している。
カフェチェーンでは珍しいのが、学生証を提示すれば学割価格になるサービスだ。例えば760円のLサイズは560円と、200円も割安になる。だから学食カフェのように学生が通ってくる。
客を待たせない工夫もある。カウンターのスタッフが接客するその後ろで、別のスタッフがトッピング、シロップ、氷を入れてまた別のスタッフにバトンタッチ。すぐさまティーを注げば完成。チームワークを活かした細かい分業制でスピードアップを図っている。
どん底からの快進撃~コーヒーが飲めない&おしゃべり大歓迎
ゴンチャは2006年、台湾で誕生した。漢字で書くと「貢茶」。かつて中国の皇帝に貢がれたような「極上のお茶を」と、命名された。
日本上陸は2015年で、日本法人のゴンチャジャパンを設立。2018年にはタピオカブームが起こり、どの店も大行列で社会現象にまでなった。
だが、2年でブームは終了。その後、新型コロナショックもあり、売り上げを落とす店が相次いだ。
当時を知る社員は「どうなっていくんだろうという不安な雰囲気がすごくあった」(事業開発部・太田昇)、「苦境に耐えるのに精いっぱいで、未来が明るい感じはなかった」(サプライチェーンマネジメント部・粂田凪沙)と言う。
ゴンチャジャパン社長・角田淳(53)の前職は「日本サブウェイ」社長。ゴンチャジャパンの社長に就任したのは売り上げが低迷していた2021年。社内の問題を次々と解決し、自ら「消防士」と名乗ったやり手経営者だ。
この日は全身泥んこになってアウトドアイベントに参加していた。
「大事なのは楽しむこと。だから一生懸命になれる」と言う。モットーは「楽しむこと」。南米出身の母親を持つ角田は幼少期をブラジルで過ごし、陽気でおおらかに楽しむ生き方が自然と身についた。
角田はどうやって客を呼び戻したのか。
〇角田流改革1~大胆にコーヒーを廃止
角田は2024年の4月からほとんどの店舗でカフェの定番、コーヒーを廃止した。コーヒー廃止後、1店舗あたりの売上は増えているという。
「我々はお茶へのこだわりをもって運営しているので、そこに集中したい。例えば、ラーメンは中華料理店ではなくラーメン店で食べたいという考え方のもと、まずは専門店として認識してもらう」(角田)
〇角田流改革2~おしゃべりは大歓迎
角田はゴンチャの店の作り自体も変えた。壁際に仕切りのついた席が並んでいる。二人がけより狭めの1.5人席。至近距離で思いきりおしゃべりしてもらおうと用意した。「仕切りに囲まれて落ち着く」「近くて話しやすい」と女性客に好評だ。
「おしゃべり歓迎」だから、店内はかなりザワザワしているが、それこそ他のカフェチェーンとの差別化戦略の一つ。根底にあるのは角田の「楽しむ」というモットーだ。
「お茶とのひとときがイコール時間を有意義に過ごす、楽しむことかなと思っていますので、皆さんの過ごす時間の価値を上げていきたい」(角田)
倍率13倍! バイト募集に殺到~驚きの商品開発のウラ側
この日、角田は新規にオープンする横浜市の横浜ビブレ店へ。アルバイトのスタッフに「400人の中の皆さんなので、最強チーム。日本一の店舗を目指して楽しめるチームを作ってほしい」と語りかけた。
今回は30人のアルバイト募集に対して400人の応募があり、13倍という倍率になった。この店に限ったことではない。人手不足に悩む飲食業界にあって、ゴンチャではアルバイト希望者が絶えないのだ。
ゴンチャのアルバイトの9割は、もともと客として来ていたいわばファン。しかも特別な職場環境を用意し、希望者殺到という事態になっていると言う。
角田は全国の店舗を周り、アルバイトから直接、日頃思っていることを聞き出し、働きやすい職場に変えようとしている。
東京・目黒区の自由が丘店では、「困っていることはありますか」という問いかけに、「音楽が聞こえづらい」という答えが返ってきた。「働いている時も音楽が聞こえたほうがいい。どんな音楽がいいですか」と角田が聞くと、「はやっているJポップとか」。
「貴重な時間を使って働いてくれているので、楽しんでほしいと思って現場の皆さんの声を聞くようにしています」(角田)
後日、再び自由が丘店を訪ねると、店内にはJポップが流れ、スタッフの顔も生き生きしているように見えた。
また、角田は細かく決まっていた髪の色のルールを撤廃した。
こうした働く人のことを考えた職場づくりがアルバイトの殺到につながっている。
さらにやる気を引き出す取り組みもある。本社に招かれたのは店舗で働くアルバイトの二人。そこに運ばれて来たのは発売を目前に控えた新商品だ。この二人が新商品の考案者。「ブルーハワイ」は渋谷で働く女性スタッフが、「洋梨ベリー」は岐阜の店舗の女性スタッフが考えた。
全国で働くアルバイトに新商品のアイデアを募り商品化するプロジェクト。多くのアルバイトから「やってみたい」という声があり、「それなら」と角田が始めた。
「全部で約200の応募があった中で、勝ち残ったのがこの2商品です」(角田)
8月8日の新商品の発売当日。渋谷スペイン坂店で働く「ブルーハワイ」を考案したスタッフを訪ねてみた。胸には「私が考案しました!」というバッジが。「世界に一つだけです」と言う。
最初に受けた注文は自らの手で作った。まずゼリーをカップへ。続いてライムやオレンジの香りのブルーハワイソースと阿里山ウーロンティーを加え、そこへミルクを合わせてミントブルーのミルクティーに。仕上げにミルクフォームを乗せれば完成だ。
初日から売れ行きは上々。「今日が来るまで楽しみで、やっと今日が来たのでうれしい気持ちでいっぱいです」と言う。
角田の人を大切にするやり方は経営者としての特徴にもなっている。
ゴンチャの世界のトップたちがオンラインで集うグローバルミーティング。
ゴンチャは世界でおよそ2200店を展開する。最も店舗数が多いのは韓国。日本は162店で4位だが、売り上げでは世界2位につけている。
グローバルCEOポール・レイニッシュは「日本は私たちにとって重要な市場です。角田さんは従業員を大事にしているので、それが成功につながっています」と語った。
強力なライバルが出現~初の挑戦が「すごい」結果に
今、ゴンチャのライバルともいえるアジア発のカフェチェーンが続々と上陸している。
中国で6000店以上と、規模ではゴンチャを上回る「コッティコーヒー」。人気のミルクティーはMサイズ、Lサイズ共通で550円とお得感がある。
ライバル増えて競争が激化する中、角田が新たな一手を打った。
6月27日、フィギュアスケーターでタレントの本田望結さんが登場して新商品の記者発表が行われた。「セブン—イレブン」限定で売られるゴンチャ初のペットボトル飲料(181円)だ。
黒糖烏龍ミルクティーと阿里山ピーチティーの2種類。製造するのは飲料大手の「キリンビバレッジ」。店舗と同じ産地の茶葉を使用。試作は60回繰り返し、ゴンチャの味を再現した。
7月2日、ゴンチャのペットボトルが「セブン—イレブン」の棚に並んだ。想定を大きく上回る売れ行きで現在は品薄状態になった。ゴンチャの新たな快進撃が始まった。
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
強さは採用にある。クルーは実際にゴンチャのファンばかり。優秀で、やる気があるのに加え、友だちまで連れてきてくれる。休日、小学生の子どもとスケートボードに行く。子どもたちは失敗を恐れないから上達も早い。自分は怪我をしないようにと用心しながらやるので上達が遅い。失敗しないことは挑戦しないことと同じだ。業績不振のとき、仕事は? と聞かれた「消防士」と答えていた。会社全体に火種があったからだ。店舗数は、コロナ前に比べ2倍に増えている。今後も前向きな失敗を重ねながら、新しいお茶の文化を広げていく。
1971年生まれ。1995年、アメリカの大学を卒業。大手自動車メーカーを経て、音楽イベントなどのマネジメントを行う。2010年、日本サブウェイ入社。2016年、社長就任。2021年、ゴンチャジャパン社長就任。
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