音声メディア「Voicy」で、「10分で決算が分かるラジオ」を毎日配信中の「妄想する決算さん」が、日経225・グロースコア・スタンダードコアの企業を1社ずつ取り上げる人気連載を日興フロッギー版としてスタート! 読むだけで、知らず知らずのうちに主要な株価指数に採用されている企業についてわかるようになる決算解説。日興フロッギー版ならサクっと5分でチェックできます!
日本電信電話株式会社 個人投資家向け会社説明会(2024年7月19日開催)
株式会社NTTドコモ 2023年度決算及び 2024年度業績予想について(2024年5月10日)
日本電信電話株式会社 個人投資家向け会社説明会(2024年3月5日開催)
NTTグループホームページ(連結業績ハイライト)
日本電信電話株式会社 2023年度決算、2024年度業績予想について(2024年5月10日)
株式会社NTTデータグループ「2024年3月期 決算説明資料(2024年5月9日)
日本電信電話株式会社2024年度 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)
日本電信電話株式会社 2024年第1四半期決算について(2024年8月7日)
今回取り上げるのは、日本電信電話株式会社(以下NTT)です。「NTT」としてお馴染みの企業ですね。
事業内容と業績のポイント
それでは早速事業内容を見ていきましょう。
NTTの事業セグメントは以下の4つです(NTT 個人投資家向け会社説明会(2024/7/19開催) P10参照)。
②地域通信事業:NTT東日本やNTT西日本を中心とする、電話関連やフレッツ光など光ファイバーを活用した通信が主力の事業
③グローバルソリューション事業:大手ITベンダーのNTTデータを主力とするITソリューション関連の事業
近年は海外事業をNTTデータ傘下に集約し、通信とITソリューションの開発力を連携する事で拡大中
④その他:不動産業やエネルギー事業が中心
ドコモやNTT東西日本などを傘下とし、通信関連事業を幅広く展開する他に、ITベンダーのNTTデータ、さらに不動産業やエネルギー事業なども幅広く展開しています。
2024年3月期時点でのそれぞれの事業ごとの営業収益と(営業利益)の構成は以下の通りです。
②地域通信事業:20.8%(22.4%)
③グローバルソリューション事業:28.5%(15.9%)
④その他:10.7%(3.1%)
全事業とも一定の規模がありますが、ドコモを主力とする総合ICT事業が売上・利益ともに最大の事業です。地域通信事業やグローバルソリューション事業も一定の規模を持っていますが、同社の主力事業はドコモです。
主力の総合ICT事業の中心企業であるドコモについて、詳しく見ていきましょう(NTTドコモ 2023年度決算及び2024年度業績予想についてP4参照)。
ドコモの事業セグメントは3つあります。
②スマートライフ:金融事業や映像事業、dポイントなどの会員向けサービスなどドコモの周辺事業
③コンシューマ通信:個人向けのモバイル通信事業
それぞれの事業の営業収益と(営業利益)の構成は以下の通りです。
②スマートライフ:17%(18%)
③コンシューマ通信:54%(54%)
※構成比率は執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ
コンシューマ通信が主力ですが、法人事業やスマートライフ事業も一定の規模を持っています。
ちなみに法人事業に関しては、統合ソリューションというIT関連のソリューションの関連の収益が39%を占めています(NTTドコモ 2023年度決算及び 2024年度業績予想について P6参照)。ドコモは通信関連が主力の企業ではありますが、金融などの周辺事業やソリューション関連の事業規模も大きいことが分かります。NTT全体で考えても、グローバルソリューション事業の規模も大きいですから、実はNTTはソリューション関連の事業規模も大きな企業です。
実際に事業の構成を見ても、2013年3月期時点では電話関連の音声が32%、IP系・パケットが35%で、こうした通信系の事業が計67%を占める主力事業でした(NTT 個人投資家向け会社説明会(2024/3/5開催) P6参照)。
ですが2023年3月期には音声は15%となり、IP系・パケットが26%で計41%まで減少しています。その一方でSI(ITソリューションの開発・運用・保守)が17%→35%まで拡大しています。現在でも通信関連が主力で大きな規模を持っていることは間違いありませんが、ソリューション関連の事業が拡大するなど、通信だけの企業ではなくなったことが分かります。通信に加えてソリューション事業の動向にも業績が左右されやすくなっています。DX化やAI化などソリューション関連の市場拡大が期待されますので、その成長に注目です。
また、2013年3月期には9500億円ほどだった海外売上も、2023年3月期には2.6兆円まで拡大し、海外比率は2割程度になっています。主力事業も事業を展開する市場も大きく変化してきたことが分かります。
海外展開には今後も積極的な姿勢を見せていて、M&Aも活用した拡大を進めていますので、今後の海外事業の成長には注目です(NTT 個人投資家向け会社説明会(2024/3/5開催) P29参照)。
事業内容が分かったところで、2019年3月期以降の近年の業績の推移を見ていきましょう。
まず、営業収益の推移を見ていくと2022年3月期までは横ばい傾向ですが、2023年~2024年3月期では増収傾向です(NTTグループHP「連結業績ハイライト」損益計算書 参照)。営業利益面の推移を見てみると、2020年3月期は前期比で減益ですが、それ以降は増益傾向となっていて2022年3月期以降では2019年3月期を上回って推移しています。
2024年3月期では売上、営業利益、純利益で過去最高を更新し、近年のNTTは好調なことが分かります(NTT 2023年度決算、2024年度業績予想について P4参照)。
ではどうして好調だったのか、2024年3月期の状況を見ていきましょう(NTT 2023年度決算、2024年度業績予想について P5参照)。セグメント別の業績の推移を見ると、主力の3事業とも増収増益で堅調な状況です。特に総合ICT事業とグローバルソリューション事業が大きく拡大しています。
現在NTTグループでは海外事業をNTTデータの傘下に集約し、NTTの「つなぐ力」とNTTデータの「つくる力」を連携する事で積極的な海外展開を進めています。そういった中で円安の影響もあり海外事業が大きく拡大しています。さらにDXも進む中で国内外の事業共に堅調な拡大を見せています。
また、NTTデータの今後の業績の先行指標となる受注面も堅調な状況が続いていますので、今後の業績も期待されます(NTTデータ 2024年3月期決算説明会 P5グローバル参照)。ソリューション事業は、堅調な状況で今後も期待できるということです。
総合ICT事業も増収増益と好調でした(NTTドコモ2023年度決算、2024年度業績予想について P11参照)。ではどうして好調なのか、通信契約の状況を見てみると、実は携帯電話のサービス契約数はまだ拡大が続き、特に5Gが拡大しています。
とはいえ通信料金の下落が進み、低価格の契約が増える中で、モバイル通信の単価は下落が続いています(NTTドコモ2023年度決算、2024年度業績予想について P12参照)。
結果としてドコモの営業利益の変動要因を見てみると、コンシューマ通信はモバイル通信収入の減少によって2億円ほどではありますが前期比で減益となっています(NTTドコモ2023年度決算、2024年度業績予想について P5参照)。契約数は増加が続いているものの、通信単価は下落しモバイル通信での成長は難しくなっていることが分かります。その一方で、法人事業やスマートライフ事業が増益となったことでドコモ全体としては増益になっています。
法人事業では、先ほど見たように大きな規模を持っていたソリューション関連の売上が好調ですし、金融などの周辺事業も好調です(NTTドコモ2023年度決算、2024年度業績予想について P6、8参照)。
通信の低単価化が進む中で、通信関連の事業の成長は難しくなっていますから、スマートライフや法人事業などソリューション事業の成長が続くかに注目です。
グローバルソリューション事業含め、通信以外の事業の成長が重要になります。
そのような中で投資の方向性も大きく変化し、2015年度では設備投資の79%が通信向けでした。
それが2023年3月期には52%まで縮小し、非通信が半分ほどを占めるようになっています。
投資も非通信中心にシフトしていることが分かります(NTT 個人投資家向け会社説明会(2024/3/5開催) P7参照)。
今後の投資の方向性も成長分野が中心となっていて、2024年3月期~2028年3月期ではトータル12兆円の投資のうち、8兆円を成長分野への投資に充てています(NTT 個人投資家向け会社説明会(2024/3/5開催) P16参照)。
もちろん、成長は難しくなったものの既存の通信分野は安定してキャッシュを稼げる事業ではあります。
ですから、それをしっかり成長分野へ投資して次の成長を支えるような非通信分野の成長に繋げることが重要になっているということです。
それでは、具体的にはどのような分野に積極投資をするのか、詳しく見ていきましょう。
投資先の大きな分野の1つにはデータを活用したスマートワールドの実現というものがあります。
成長が難しくなっているとはいえ、ドコモの通信事業によって、大規模な顧客の行動データを持っています(NTT 個人投資家向け会社説明会(2024/3/5開催)P25参照)。この顧客基盤やデータを活用することで、パーソナルビジネスの拡大を進めていこうとしていて、5年で1.5兆円の投資を計画しています。
特に、大きな拡大が期待できる分野としては、通信と相性がいい金融分野があります(NTT 個人投資家向け会社説明会(2024/3/5開催) P26参照)。
キャッシュレス化も進む中で決済取扱高もハイペースで拡大し、7年間で5倍にまでなっています(NTTドコモ2023年度決算、2024年度業績予想について P8参照)。それ以外の周辺事業も含め、ドコモのスマートライフ事業は拡大が続いていますし、その拡大がしっかり続いているかどうかに注目です。
また、データ活用に関しては、産業分野でも進めていこうとしています。AIやロボットの活用を通じたデジタルビジネスには、5年で3兆円を投資する計画です(NTT 個人投資家向け会社説明会(2024/3/5開催)P27参照)。
さらに今後需要が増していくデータセンターの拡張や高度化には、5年で1.5兆円を投じていこうとしています(NTT 個人投資家向け会社説明会(2024/3/5開催) P37参照)。
こういった分野でソリューション事業の拡大がしっかり進んでいるかにも注目です。
また、中長期的にNTTが積極的に進めていこうとしているものに、IOWN(アイオン)構想というものがあります(NTT 個人投資家向け会社説明会(2024/3/5開催) P19参照)。現在の情報の伝送には電気信号が使われていますが、これを光信号にすることで、通信の高速化や電力消費の削減を進めるというものです。現在も光ファイバーがあるように光は活用されていますが、例えば自宅でPCを使う際にはルーター以降の情報処理にはPCの内部も含めて電気信号が多く使われています。それによって電力消費量が多くなっているわけです。
今後は爆発的に通信量が増える中で、消費電力も大きく増加する事が見込まれていますので、それを改善する技術が世界的にも必要になっています。そのような中で、光を活用した情報伝送が注目されていましたが、NTTは2019年に世界で初めて光のトランジスタの発明に成功しています。
現在世界中の大手企業と連携する形で、2030年に世界標準化することを目指し、IOWN構想を進めています。
この世界標準化が進めばグローバルでの拡大余地もあるため、このIOWN構想の動向にも注目です。
さらに、その他にも自動運転やLLM(大規模言語モデル)といった分野でも拡大を目指しています(NTT 個人投資家向け会社説明会(2024/3/5開催) P30、31参照)。LLMに関しては日本語性能ではトップクラスとしていて、日本語を中心に競争力を高めています(NTT 個人投資家向け会社説明会(2024/3/5開催) P32、33参照)。また現在、電子カルテなどへの活用も進めています(NTT 個人投資家向け会社説明会(2024/3/5開催) P35、36、10参照)。
toCの分野では海外の強いサービスがありますので、LLMの事業化は容易ではありませんが、こういったtoBでの事業化による成長は可能性がありますので展開に注目です。
このように、NTTは通信以外の多分野で積極的な投資を進めていますので、非通信事業の拡大が続くのか、大きく成長するような新しい事業が生まれてくるかには注目です。
ここまでのまとめ
・事業セグメントは、総合ICT事業、地域通信事業、グローバルソリューション事業、その他として不動産業やエネルギー事業などの4つ
・売上・利益ともに最大の事業は、ドコモを主力とする総合ICT事業
・ドコモの事業セグメントは、法人向けのモバイル通信やITソリューション事業、金融事業や映像事業とdポイントなどの会員向けサービスなどドコモの周辺事業、個人向けのモバイル通信事業などの3つ
・NTTは、ソリューション関連の事業規模も大きい
・DX化やAI化などソリューション関連の市場拡大で、ソリューション事業にも注目
・NTTグループでは海外事業をNTTデータの傘下に集約し、NTTデータの受注も堅調
・グローバルソリューション事業含め、通信以外の事業の成長が重要
・投資先の大きな分野の1つにはデータを活用したスマートワールドの実現
・世界中の大手企業と連携し2030年に世界標準化することを目指すIOWN構想に注目
直近の業績
それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2025年3月期の1Qの業績です(決算短信より)。
営業利益:4358億円(▲8.2%)
純利益:2741億円(▲27.0%)
増収ながらも減益となっています。
セグメント別の営業利益の前期比は、以下の通りです。
②地域通信事業:▲199億円
③グローバルソリューション事業:+3億円
④その他:+26億円
グローバルソリューション事業は堅調ですが、総合ICT事業と地域通信事業の通信関連の2事業が苦戦しています。
苦戦の要因としては、人件費や経費が増加した事が影響しているようです。近年の賃上げやコスト高の影響を受けていると考えられます。
通信関連の事業は成長事業ではなくなっていて、一定の苦戦が続く可能性がありそうです。
もう少し詳しく状況を見ていくために、総合ICT事業の主力のドコモの状況を見ていきましょう。営業利益の変動要因を見てみると、金融や決済を中心にスマートライフ事業は増益となりましたが、モバイル通信の収入減少と、販売強化施策によるコスト増加、PSTN(公衆電話交換回線網)の移管コストの影響で減益となっています(NTTドコモ 2024年第1四半期決算資料 P4参照)。
NTTでは現在固定回線をPSTNという回線からIP網への移管を進めています。そういったコストの増加の影響も出ています。今後もこのコストで利益面の苦戦が続く可能性がありそうです。それだけでなく通信収入減少が続いていることと、販売強化によるコスト増によっても減益となり、通信関連事業の停滞が分かります。
金融事業などは拡大しているものの、通信事業の悪化を補いきれずにいます(NTTドコモ 2024年第1四半期決算資料 P5参照)。非通信事業で拡大が見込める事業が出てこなければ、今後も一定の苦戦が続く可能性が考えられます。
ということで通信関連の苦戦や、人件費などのコスト増加も続く中で、NTTは一定の苦戦が続く可能性がありそうです。拡大を進める非金融事業が、その悪化を補えるだけの成長を見せられるかに注目です。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。