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大和ハウスグループ 統合報告書 2024
大和ハウス工業ホームページ
個人投資家の皆様へ 大和ハウスグループの取り組み 2024年3月
2024年3月期 機関投資家・アナリスト向け経営説明会 2024年5月13日
2024年3月期 決算概要
2014年3月期 決算概要
2025年3月期 第1四半期 決算短信〔日本基準〕(連結)
2025年3月期 第1四半期 決算概要
今回取り上げるのは、住宅関連の大手の大和ハウス工業株式会社(以下:大和ハウス)です。
事業内容と業績のポイント
それでは早速事業内容から見ていきましょう。大和ハウスの事業セグメントは以下の6つです(統合報告書 2024 P42参照)。
①戸建住宅:戸建て住宅の建築・販売、リフォームなど
特徴は海外比率の高さで、52%が海外売上となっています(ホームページ/大和ハウスグループの事業と強み 参照)。
②賃貸住宅:賃貸不動産の請負・分譲、不動産管理など
この事業の特徴は賃貸・管理の規模が大きい点にあります(ホームページ/大和ハウスグループの事業と強み 参照)。
(1)賃貸・管理:54%
(2)請負・分譲:46%
安定収益が期待できる事業です。
③マンション:マンションの分譲、不動産管理など(ホームページ/大和ハウスグループの事業と強み 参照)。
(1)管理・運営:47%
(2)分譲・マンション:53%
この事業も、管理・運営のストック売上が一定の規模を持っています。
④商業施設:商業施設の請負・分譲、管理など、ダイワロイネットホテルズの運営など(ホームページ/大和ハウスグループの事業と強み 参照)。
(1)請負・分譲:53%
(2)賃貸・管理:26%
(3)開発物件売却:4%
(4)その他関連事業:17%
この事業は請負・分譲が主力ですが、賃貸や管理なども1/4ほどのシェアがあり、一定の安定収益が期待できる事業です。
⑤事業施設:物流施設など事業用施設の請負、開発・販売など(ホームページ/大和ハウスグループの事業と強み 参照)。
(1)請負:72%
(2)開発:17%
(3)その他関連事業:11%
請負が主力となっていて、設備投資の需要に影響を受けやすい事業です。
特に物流施設の開発に強みがあり、物流投資の動向の影響を受けやすくなっています(大和ハウスグループの取り組み(2024年3月) P20参照)
⑥環境エネルギー:再エネなどの電力関連の事業
幅広い不動産の建設・販売からその管理まで行っている企業です。
戸建て住宅事業は海外比率が高いという特徴があり、賃貸住宅やマンション、商業施設では管理事業などのストック売上が一定の規模を持っていて、一定の安定収益が期待される点などに特徴があります。
2023年3月期時点でのそれぞれの事業ごとの売上高と(営業利益)の構成比率は以下の通りです(大和ハウスグループの取り組み(2024年3月) P6参照)。
②賃貸住宅:23%(24%)
③マンション:10%(9%)
④商業施設:22%(29%)
⑤事業施設:22%(21%)
⑥環境エネルギー:3%(1%)
⑦その他:1%(1%)
売上・利益ともに分散した構成ですが、賃貸住宅や商業施設、事業施設事業なども大きな規模を持っています。現在の大和ハウスはハウスメーカーだけではなく、不動産ディベロッパーやゼネコンでもあります。
また、規模の大きい賃貸住宅事業や商業施設事業では、賃貸・管理の事業規模が大きく、その他の事業でもストック売上は一定の規模がありました(2024年3月期 機関投資家・アナリスト向け経営説明会(2024/5/13) P12参照)。
2024年3月期時点では、ストック売上は計1兆5311億円となっています。全体の売上が5兆2029億円(ホームページ/IR情報/業績ハイライト参照)なので、29%をストック売上が占めています。一定の安定した売上が期待できる事業です。
とはいえ現在拡大を進めているのは分譲事業で、販売用不動産の期末残高は2021年度→2023年度では1兆4791億円→2兆1922億円まで増加しています(統合報告書2024 P58参照)。
大和ハウスは積極的な拡大戦略をとって分譲の拡大を進めていますから、住宅市場の動向や、設備投資需要にも影響を受けます。
続いて業績の推移を見ていきましょう。
長期的な売上の推移を見ていくと拡大が続いていて、特に近年の伸びが大きいです。1995年度に売上は1兆円を突破し、2兆円を突破したのは2012年度と1兆円拡大するのに17年ほどかかりましたが、2015年度に3兆円、2018年度に4兆円、2023年度に5兆円と、近年は拡大のペースが速いことが分かります(大和ハウスグループの取り組み(2024年3月) P3参照)。
さらに、近年の利益面の推移を見ても、増益傾向が続いています(ホームページ/業績ハイライト参照)。
2024年3月期は減益となっていますが、これは退職給付に関する数理計算上の差異による影響です(2024年3月期機関投資家・アナリスト向け経営説明会(2024/5/13) P33参照)。退職給付会計とは、企業が将来従業員に対し支払う退職金や年金にかかる債務の取扱いなどを定めた会計処理です。
債務を算出する基礎として、様々な見積もりの要素を用いていて、その見積もりが変動することによる差異を数理差異といいます。差異が発生する主な要因は、年金資産の運用による損益、退職率や昇給率などの変動、割引率(将来の退職給付見込額を現在の価値に直すために用いる率)の見直しなどによるものです。
退職給付会計において数理計算上の差異は、一定の年数で按分した額を毎期費用処理する「遅延認識」を行うことで発生年度の業績への影響を緩和することが認められていますが、大和ハウスグループでは、発生年度に一括処理する方法を採用しています(ホームページ/事業等のリスク/⑪退職給付費用に関するリスク参照)。
それが、2023年3月期には、割引率の見直しを行ったことなどから966億円業績を押し上げました。
2024年3月期は年金資産の運用益による影響が465億円業績を押し上げていますが(2024年3月期 決算概要 P3参照)、好影響が縮小したことで2024年3月期は減益に繋がっています。
事業による影響ではなく、数理計算上の差異による影響を除くと増益だったとしていますので、事業面では増益傾向が継続、売上・利益ともに成長が続いています。ちなみに、2025年3月期にはこのプラスの影響がなくなるため業績悪化となる懸念もありますが、事業自体は堅調な状況が続くと思われます。
さて、このように成長が続く大和ハウスですが、その一方で国内の新設着工戸数の推移を見ていくと、1990年度前後をピークとしてそれ以降は減少傾向となり、2010年代以降は横ばい傾向での推移が続いています(大和ハウスグループの取り組み(2024年3月) P3参照)。
以前は国内の戸建事業を主力としていた大和ハウスですが、国内の住宅需要が伸び悩む中で、近年は戸建では海外事業の拡大、さらに2012年には準大手ゼネコンのフジタを買収するなど、不動産ディベロッパーやゼネコンとしての側面を拡大させたことで、業績の拡大ペースが速まっています。
2012年度と2023年度の主力事業の売上の変化を見てみると以下の通りです(2014年3月期 決算概要 P7参照、2024年3月期機関投資家・アナリスト向け経営説明会(2024/5/13) P33参照)。
②賃貸住宅:5925億円→1兆2502億円
③マンション:1567億円→4418億円
④商業施設:3472億円→1兆1815億円
⑤事業施設:2514億円→1兆2944億円
海外事業を拡大した戸建て事業や、賃貸・管理などで積み上がりが期待できる賃貸住宅事業やマンション事業も拡大し、さらに商業施設事業と事業施設事業も大きく拡大しています。
人口減少の中で成長が見込めなくなった、国内の戸建て住宅ではなく、多様な不動産関連事業に展開したことが近年の大きな成長の要因であることが分かります(2024年3月期機関投資家・アナリスト向け経営説明会(2024/5/13) P4参照)。
そして、今後拡大を進めていこうとしているのは、事業施設事業と商業施設事業、さらに海外の戸建て住宅事業となっています(2024年3月期 機関投資家・アナリスト向け経営説明会(2024/5/13) P4参照)。
事業施設は物流施設やデータセンター、半導体関連施設の需要獲得による成長を、商業施設はインバウンド需要や、ホテル、老朽化施設の再生などでの拡大を進めていこうとしています(2024年3月期機関投資家・アナリスト向け経営説明会(2024/5/13) P25参照)。
半導体業界では、実際に引き合い数が増加しているとしていますし、強みのある物流施設の開発も増加していますので拡大が期待されます。老朽化した施設の更新や、物流施設半導体関連やデータセンターなどは、国内でも需要拡大が期待できる分野ですから、そういった機会をとらえて拡大できるか注目です。
戸建て事業で拡大を目指すのは米国事業です。2026年度までの中期経営計画では、海外における戸建事業で最も拡大することを目指していて、重要度が高いです(大和ハウスグループの取り組み(2024年3月) P10、12参照)。
現在の大和ハウスは米国で50市場のうち、22の市場に展開しています(2024年3月期機関投資家・アナリスト向け経営説明会(2024/5/13) P9参照)。2023年度の供給戸数は6087で、全米18位相当となっています(大和ハウスグループの取り組み(2024年3月) P16参照)。
2026年度は、供給戸数で1万戸を目指して拡大を進めています(大和ハウスグループの取り組み(2024年3月) P16参照)。米国では景気の停滞懸念が出始めているので、米国の戸建事業の進捗にも注目です。
国内住宅関連で力を入れているものの中に、リフォームや中古住宅の仲介などを行う、リブネス事業があります(大和ハウスグループの取り組み(2024年3月) P22参照)。この売上の約半分はリフォーム関連の売上です。国内の住宅事業では、新築の拡大は難しい一方で、高齢化に伴って老朽化した住宅数が多くあるため、リフォーム需要の拡大が期待されます(大和ハウスグループの取り組み(2024年3月) P23参照)。
ここまでのまとめ
・ハウスメーカーだけではなく、不動産ディベロッパーやゼネコンでもある
・国内の戸建てに頼らない成長を見せたことで近年大きく拡大
・最も拡大を目指す米国市場の状況や成長事業の商業施設や事業施設の拡大に注目
・2025年3月期に関しては数理計算上の差異による反動で利益面への悪影響が見込まれるため、その影響を除いた業績を見ていく必要がある
直近の業績
それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回取り上げるのは2025年3月期の第1四半期までの業績です(決算短信より)。
営業利益:1218億円(+30.9%)
経常利益:1194億円(+31.4%)
純利益:914億円(+52.3%)
※()は前年同期比
増収による大幅増益で、第1四半期時点の業績では過去最高を更新と好調が続いています。

大和ハウス工業2025年3月期 1Q決算説明資料より
セグメント別の営業利益の前年同期比は以下の通りです。
②賃貸住宅:+33億円
③マンション:▲27億円
④商業施設:+187億円
⑤事業施設:+57億円
⑥環境エネルギー:▲9億円
⑦その他:+12億円
戸建住宅や賃貸住宅、さらに商業施設や事業施設なども好調だったことが分かります。

大和ハウス工業2025年3月期 1Q決算説明資料より

大和ハウス工業2025年3月期 1Q決算説明資料より
商業施設や事業施設は開発物件の売却が計画通り進捗し、海外事業は中国市場での苦戦はあったものの米国の戸建事業が順調だったため、好調だったとしています。また、純利益の好調には政策保有株の売却の影響もありました。現在は東証からの要請もあり、日本企業の多くが政策保有株の売却に動いています。今後もしばらくは、こういった株式の売却による好影響が続くことも期待できそうです。
しかしながら好調な米国市場も景気の停滞懸念があるため、その動向に注目です。

大和ハウス工業2025年3月期 1Q決算説明資料より
通期予想では、増収ながらも減益となることを見込んでいます。この減益は先ほど見た数理計算上の差異の好影響がなくなることによる影響ですので、事業自体は堅調な状況が続くことを見込んでいます。
懸念点としては、米国市場の動向を見ていく必要がありそうです。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。