次の50年も、カルビーはポテトチップスの未来を作っていく【後編】

発表!あの会社の気になるランキングNo.1!/ 日興フロッギー編集部

来年発売50周年を迎えるカルビーの「ポテトチップス」。後発ブランドとして1975年にスタートし、「コンソメパンチ」の爆発的ヒット、美味しさを維持するパッケージの導入、オリジナルのばれいしょ開発などを経て、スナック菓子の絶対王者に君臨しています。続けて食べたくなる「連食性」はいかにして生まれたのか。同社マーケティング本部の井上真里さんにお話を伺いました。
スナック菓子の絶対王者が、王者であり続ける理由【前編】を読む

メークインだと焦げ焦げに。オリジナル品種を開発

ーー御社はポテトチップス向きにじゃがいもの品種を開発したそうですね。

食用のメークインでポテトチップスを製造すると、糖分で焦げ焦げになってしまうんです。それまでアメリカの品種等をメインで使っていましたが、日本の栽培環境に合う新種を10年以上かけて、2003年に開発したのが、当社オリジナル品種である「ぽろしり」です。フライにした時の色も綺麗で、何より病害虫に強く傷がつきにくい。従来品種よりも育てやすいんですよ。

カルビーではポテトチップス専用のじゃがいもを開発

ーーカルビーのポテトチップス市場のシェアは現在約7割にのぼります。ここまでのシェアになったのは、じゃがいもの安定供給があってこそだと思います。

実は「ポテトチップス」の躍進には幾つかのターニングポイントがありますが、実は一番大きいのは1980年のカルビーポテト設立だと考えています。契約生産者さんと直接の栽培契約を結び、二人三脚でばれいしょの安定供給に努めています。

ばれいしょの収穫は大変で、掘り起こすと石や土などいろんなものが絡みついてきて、取り除くだけでも手間がかかります。契約生産者さんも高齢化が進み、手が足りませんから収穫期には当社の新入社員がお手伝いに行きます。一番の収穫地である北海道での本格的な収穫は8月以降ですが、4月を過ぎると天候や在庫状況が気になって仕方がないです。なんといっても、ばれいしょは生き物なので。

ーー農作物の育成は、気候変動や災害の影響を大きく受けますね。過去にはポテトチップスが店頭から消えるというアクシデントもありましたね。

2017年のその名も「ポテトショック」ですね。台風の影響で北海道地区が深刻なばれいしょ不足に陥り、そこから他社さんにも影響が出て、業界全体に波及しました。あの年は4月ごろから社内でも緊迫した状況が続き「じゃがいも不足か?」とニュースになった途端、「ピザポテト」が店頭から消えてしまいました。この時は「うすしお味」だけは欠品することのないよう、他の商品は生産を抑えて稼働しました。お客様には大変ご迷惑をおかけしましたが、以降、ばれいしょの管理をさまざまな部署で情報共有し、発売していく体制等を整えました。また、ばれいしょの安定調達に向けて、さらに産地拡大・分散化にも取り組んでいます。

カルビーマーケティング本部の井上真里さん

物流の基本は「運ぶ距離を短くする」

ーーポテトチップスの物流は「空気を運ぶようなもの」と言われるそうですが、物流の際の工夫を教えてください。

「ポテトチップス」は割れたり形状が崩れたりしないよう、チッ素を緩衝材代わりに封入しているので、どうしても量(かさ)が大きくなります。もう一つ大切なのが運ぶ距離を短くすること。弊社は他社さんと比較してもポテトチップス工場が多く、協力工場を含めて7つあります。販売店舗の近くに工場を置き、物流にかかる時間を最小限にする。スタート当初はアイテム数も限られていましたが、現在は数百種にもなっていますから、そういった意味でも物流は複雑化していますね。パレットに積むにあたってのケースサイズも統一化して、商品開発もそれに則っています。

「運ぶ距離を短くするのが物流の決め手」と井上さん

ーー「ポテトチップス」は海外展開もしていますが、人気のフレーバーは国内とは違いますか?

国ごとに違いますね。韓国の「うすしお味」は日本より甘め。中国や香港では「熱狼(ねつろう)」という商品を出しており、売れ筋はスパイシーなフレーバーです。一方、欧米では「Harvest Snaps」という豆系スナック菓子を展開していますが、アジア系食品の需要が高まっていますので、スパイシーなポテトチップスやピザポテトも展開を強めています。日本のカルビー品質、製造技術を活かしながら現地のニーズに合わせてブランド展開をしていますね。

中国や香港ではスパイシーな「熱狼」が人気

ポテトチップスとともに育った鉄板ルートがある

ーー国内のポテトチップス市場はこの10年ほどで2ケタの伸び率だそうですが、市場が拡大している背景は何でしょうか。

ポテトチップスのバリエーションが増えたことが一つに挙げられると思います。フレーバーだけではなく形状も「堅あげ」であったり、「超薄切り」であったり、分厚い「ザ厚切り」であったり。味だけではなく食感を含めてお客様が楽しめるシチュエーションが広がっているのかなと思います。また、直近でいえば、お菓子全般の値上がりが続いていますよね。その中で100円台で購入できるポテトチップスは流通さま(編集部注:小売業者)にとって売りやすく、お客さまにとって買いやすい商品なのだと思います。

物価高の中、100円台で買える「ポテトチップス」は消費者にも嬉しい

ーー「カルビー ポテトチップス」は来年50周年を迎えます。商品担当者として今後の意気込みをお聞かせください。

ポテトチップスは差別化の難しい商品です。ばれいしょを薄く切って油で揚げて味をつける。ただそれだけのプロセスの中で、いかに違いを出していくか。特に「うすしお味」はハードルが高いです。差別化しにくい商材である「ポテトチップス」ですが、見た目、味、食感などに関する品質の条件を定めたゴールドスタンダード(2009年に消費者調査を実施して定めた同社の社内基準)を極めていくこと。お客様が「カルビーに求めている品質」を徹底して掘り下げていっている最中です。

そうした中で最近印象に残ったのが、「コンソメパンチ」のCMに出演中の女優さんの言葉でして、「思い出の味を食べている」とおっしゃっていただきました。他にもお客様からよくいただいて、特に男性の鉄板ルートとも言えそうなのが「父と一緒にプロ野球チップス(うすしお味)を食べてました!」「その後に、コンソメパンチを食べていました!」「今は子どもと一緒に食べています!」というお声です。本当にありがたいです。

ポテトチップスは嗜好品なので、購入して何かが解決するというものではありません。ですが、お客様の思い出に結びついていたり、その方のルーツの一つになっているんだな、と嬉しく思います。思い出に繋がる鉄板ルートを育てるには、子ども時代の原体験が重要です。お父さん、お母さん、お子さんにどれだけ手に取ってもらえるかが「ポテトチップス」の未来に繋がっていると感じていますね。

カエル先生のデータバンク

カルビーグループは、2023年2月に「2030ビジョン・成長戦略」を掲げ、事業構造改革を進めています。グローバル規模での事業拡大に加えて、バリューチェーンの強みを活かしたアグリビジネスや、新たな領域の食と健康事業など成長領域での展開に取り組んでいます。創業の精神にもある「人々の健康に役立つ商品づくり」をDNAとして、100年のマイルストーンを刻んだその先も、なお持続的な進化を遂げる会社であることを目指しています。

井上真里(いのうえまり)さん
マーケティング本部 ポテトチップス部 ポテトチップス1チームブランドマネージャー。
2009年にカルビー株式会社に入社(大阪営業所に営業として赴任)、広域営業を経て2020年よりポテトチップスコンソメパンチや地域商品を担当。2021年育休を取得し2022年4月より現職。
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