株式市場で「原子力発電(原発)」関連株が買われています。QUICKが選定する関連銘柄の平均上昇率は1.8%と、東証株価指数(TOPIX、0.6%安)に対して逆行高となりました(10月18日までの4営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します!
国内外の好材料が追い風に
原発関連株が上昇したきっかけは、国内、国外での原発に関する動きです。
国内では、16日、50年超の原発の運転が認可されました。具体的には、原子力規制委員会が定例会合で、11月に運転開始から50年を迎える関西電力高浜原発1号機(福井県)に関して、今後10年間の運転延長に必要な新たな管理方針を認可しました。火力発電に比べて、発電コストが低いとされる原発の稼働期間が伸びれば、電力会社の業績拡大に寄与することが期待されます。
国外では、米巨大IT(情報技術)企業による原発への投資の動きに関するニュースが流れました。14日(現地時間)、グーグルが次世代原発「小型モジュール炉(SMR)」を手掛ける米新興企業と電力の購買契約を結んだと発表。16日には、アマゾン・ドット・コムが小型原発へ5億ドル超の投資計画を発表しました。米IT企業は、データセンター向けの電力を確保するため、次世代原発を開発する米新興企業への出資などによって、原発事業の推進を目指します。
こういった原発に関する動きは、いずれも好材料と受け止められ、関連銘柄の物色を誘いました。
原発再稼働の発表も【中国電力】
上昇率首位の「 中国電力 」は島根原発2号機(松江市)を保有しています。3号機も建設中で、2030年の運転開始を目指しています。2号機は稼働開始から35年が経過しており、原発の運転延長による将来的なコスト削減が期待できます。同機は東日本大震災後の12年から稼働を停止していましたが、12月に再稼働をすると15日に発表しました。12月上旬に原子炉を起動し、25年1月上旬に営業運転の再開を予定しています。業界全体のニュースを受けた将来的な成長だけでなく、企業独自の発表による目先の業績拡大にも期待が高まりました。
部品製造のトップ企業【岡野バルブ製造】
上昇率2位の「 岡野バルブ製造 」は原子力や火力発電所に欠かせない高圧バルブの製造や保守を手掛けているグローバルなニッチトップ企業です。60ヵ国の発電所に100万台以上のバルブを納入してきた実績を誇る創業から100年に迫る老舗企業です。今後はSMRなど次世代の原子力発電所向けのバルブ製造にも力を入れます。原発の長期利用によるメンテナンス機会の増加やSMRの普及による需要の拡大を取り込めるか、注目されます。
メンテナンス企業なども物色
「 九州電力 」は玄海原発(佐賀県玄海町)と川内原発(鹿児島県薩摩川内市)を保有しています。川内原発は1、2号機ともに稼働から約40年が経過しており、近い将来に運転延長の判断を迫られそうです。
「 三菱重工業 」はエネルギー関連事業の一環として、原子力発電所の開発や運転、保守などに幅広く関わっています。SMRも開発しており、さらなる業績成長が期待されます。
「 太平電業 」は国内の原発の約70%の建設実績があるほか、保守や点検のメンテナンス事業にも独自の技術や特許品をいかすなどして尽力しています。
原発の利用拡大進むか
国内では環境を重視するGX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みで、原子力発電所の再稼働や、新型原発の開発・建設の検討が進められてきました(『変化する日本のエネルギー政策 「原子力発電」関連株が上昇』)(『原発再稼働近づく 「大手電力」関連株が上昇』)。また、世界中で、生成AI(人工知能)の普及による電力需要の増加への対応が求められています。
政府による現行の「エネルギー基本計画」では、電源構成に占める原発の比率を30年度までに20~22%とするのを目指しているものの、現状は5.5%(22年度)にとどまっています。生成AIの恩恵で電力需要が確実に高まるなか、原発がどこまで普及するかも、投資の判断材料になりそうです。