”楽しさ”追求!ドンキ大変貌!

読んで分かる「カンブリア宮殿」/ テレビ東京(テレ東BIZ)

カエル先生の一言

この記事は2024年10月31日に「テレ東プラス」で公開された「マグロの解体ショーに野菜の詰め放題…ドン・キホーテ大躍進の秘密:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。今回、「カンブリア宮殿」に登場されたのは、PPIHの吉田直樹社長CEOです。

PPIH 社長CEO 吉田 直樹(よしだ なおき)

まるで食品スーパー~小売りの異端児が大変貌!

東京・大田区のMEGAドン・キホーテ大森山王店。大行列ができているのは月に2回開催しているという「野菜の詰め放題」(540円、アプリクーポン利用時)だ。店内では「マグロの解体ショー」が行われ、高知産の「本マグロ中落ち」は約200グラムで1058円。さらに、ほほ肉などの希少部位はジャンケン大会の勝者に無料でプレゼントされた。
ドン・キホーテといえば、店内の至るところに貼られた派手なポップと、天井に届きそうなほど陳列された商品が特徴のディスカウントストア。それがいつの間にか食品スーパーのように姿を変えていた。

2007年に「長崎屋」、2019年に「ユニー」と、立て続けに総合スーパー2社を買収。そこでスーパーのノウハウを手に入れ、生鮮食品を販売する店舗を増やしているのだ。
ドン・キホーテを運営しているのはパン・パシフィック・インターナショナル・ホールディングス(PPIH)。2023年8月、東京・渋谷に大型複合施設をオープンし、本社もここに移転したばかりだ。歴史は50年足らずだが、従業員数は約1万7000人の巨大企業である。

その礎を築いたのは創業者の安田隆夫。1978年、29歳の時に「泥棒市場」と名付けた小さなディスカウントストアを開業。そこを足がかりに、1989年にはドン・キホーテの1号店をオープン。一代で日本有数のディスカウント・チェーンを作ったカリスマ経営者だ。

その安田は「今の現場の人は私には想像できないほどレベルが高い。アイデアがあってどんどん進化をしてブラッシュアップをしてこうなったということです」と語っている。

安田は2015年、自らCEOを勇退。経営の一線から身を引いた。その後を継いだのが、PPIH社長CEO・吉田直樹(59歳)だ。

本社の目の前のMEGAドン・キホーテ渋谷本店で買い物中の吉田は「もっぱら買い物で来ます。私が現場で指示することはゼロです。小売りは専門外のさらに外ぐらい」と言う。

吉田は元経営コンサルタント。小売業の経験ゼロでこの会社に来た。しかし2019年に社長に就任すると、コロナ禍を乗り越え成長を加速。2024年6月期は売り上げ2兆円を突破し、今や日本の小売業界で売り上げ4位まで駆け上がった。

驚きの商品が続々誕生!~大躍進の秘密「PB大改革」

大きな「ド」が目印のドン・キホーテのプライベートブランド「情熱価格」。食品だけでなく、日用品や家電など約3000種類ものPB商品を販売する。その売り上げは全体の約20%にのぼり、躍進の原動力となっている。

2023年に発売し、瞬く間にベストセラーになったのが紅生姜のドレッシング「かける紅生姜」(539円)。シリーズの累計売り上げが10億円を突破した「ごまにんにく」(431円)は、香ばしいゴマとフライドガーリックのハーモニーでいろいろな料理にパンチを効かせられるとSNSで大バズリした。

「情熱価格」売り上げナンバーワン商品は「素煎りミックスナッツデラックス」(755円)。
産地や品種、さらにはその配合バランスに徹底的にこだわり、食塩と油を使わずに製造すると大ヒットした。

「情熱価格」というプライベートブランドは以前からあったのだが、ハムやヨーグルトなど、安くしただけの商品がほとんどだった。それを2021年に全面的にリニューアルした。

改革を任されたPB事業統括責任者・森谷健史が考えたのは「お客様が『楽しい』とか、ちょっとでも感情が揺らぐものが商品の中にないといけない」ということだった。

ポリシーは「驚きのニュースがない商品は発売しません」と、店内に掲げられている。「ニュース」とはパッケージに書かれた特徴。例えば「にんにく6倍、ドン引きペペロンチーノ」。

「単3型アルカリ乾電池4本入り」のニュースは「当たりが出たら、もう1パック、プレゼント」。「7kgドラム式洗濯機」は乾燥機能を取り払い5万4999円という安さを実現した。まさにニュースだ。

こんな商品を生み出すヒットメーカー3人衆がいる。

一人目は「欲しい物は自分で作る」、PB企画開発・柄澤喜行。その代表作は常識破りの「チューナーレス・テレビ」。「仕事をしていると帰りが遅くなり、リアルタイムでテレビを見ることがないということに気付いて」(柄澤)、インターネットの動画専用テレビとして激安価格で発売すると、累計5万台が売れた。

最近のヒット作は「スマホ連動イヤークリーナー」(3299円)。先端に小型カメラがついていて、スマホと連動させれば一人で耳の中を見ながら耳掃除ができる。

「耳掃除を極めたいという思いがあり、耳の中を見たいと思ったんです」(柄澤)

同じように思った人は多かったようでSNSで大バズリし、4万2000個が売れた。

二人目は「コストカットの鬼」。PB企画開発・野木敬郎が作ったのは「でか過ぎみかん缶詰」(259円)。「身割れのみかんにすることで原価が2割ぐらい変わる」と言う。

「ライトツナフレークかつお10缶パック」(863円)の場合はパッケージを剥くとラベルも何もなし。これでこの価格を実現した。

「最後、ラベルしかカットするものがなかったんです」(野木)

もう一人、PB企画開発・渡辺友成は「素炒りミックスナッツ」を始め数々のヒット商品を作ってきた。

「万人受けしない商品を狙っていくのが一番いい。『こんな味があるといいな』というのがSNSで上がっている。それを1個ずつ試して作っている感じです」(渡辺)

次に渡辺がタッグを組むのは、北海道函館市で「さきイカ」などを製造する食品メーカー「ジョッキ」。この日の商談で、商品の仕上がりをチェックするとともに仕入れ価格などを決定する。
今回、渡辺が開発しようとしているのがイカの燻製。ただし、これまでにない「イカくん」を目指すと言う。実は売られている「イカくん」のほとんどは、調味液を吹きかけ、燻製の風味をつけたもの。それに対して渡辺は、実際に煙で燻して香りをつける本物のイカの燻製を作ろうとしているのだ。

「最後まで燻製で香りを入れる。尖らせて他の商品と差別化を狙います」(渡辺)

新商品の最終関門が幹部社員も参加して販売するかどうかを決める商品起案会議。煙で燻して作る本物の「イカくん」の試作品が完成した。

商品名は「サクラ・クルミ・ブナ、幾度となく配合比を吟味した、三種の燻煙で仕上げた燻製いか。鼻から抜けるスモーキーな薫りと、噛むほどにあふれるいかの旨みで、いぶし銀の晩酌をご堪能あれ」と、言いたいことを全部詰め込んだ80文字だ。

だが、責任者の森谷からは「うちのは本物だからということをちゃんと書いたら?」との意見が。「調整します」と渡辺は答える。客の心を動かすPBはここまでやってようやく棚に並ぶ。

小売り未経験から社長へ~継承する「安田イズム」

ドン・キホーテのスタッフは「売り場」と言う言葉を使わない。

「お客様が買われる場所なので『買い場』です。お客様が主語なので」(吉田)

ドン・キホーテが最も大事にしている企業理念が「顧客最優先主義」。何でも客の立場に立って考えるから、「売り場」も「買い場」と呼んでいるのだ。

「ほとんどのことが安田から来ています。『買い場』というのもそうです」(吉田)

吉田は1988年、国際キリスト教大学を卒業後、INSEAD(欧州経営大学院)でMBAを取得。その後、世界的なコンサルティング会社、マッキンゼーに入社する。人生を変える出会いは1999年。知人からドン・キホーテの社長・安田を紹介され、コンサルタントとして仕事を手伝うようになったのだ。

あくまで仕事上の付き合いのつもりだったが、ある日、安田から「うちに来ないか」と言う電話があった。

「私自身は財務戦略などは分かりますが、小売業は分からないので『それはできないです』と話していたのですが、また電話がかかってきて……」(吉田)

断り続けた吉田だったが、決め手になったのは「ドンキという新しい舞台で輝いてくれ」と安田の一言だったいう。

「決め台詞なのですが、それを聞いて舞い上がってしまい、『ぜひやらせてください』という気持ちになった」(吉田)
吉田は2007年、ドン・キホーテに入社。財務や法務などの責任者というポストを務め、2019年、入社12年目にして社長CEOに抜擢された。そんな吉田が安田から直々に叩き込まれたのが、客の要望にとことん応える「顧客最優先主義」なのだ。

客のダメ出しを力に~PB改革の舞台裏

ドン・キホーテのアプリには「マジボイス」という機能がある。客は商品を買うと「いいよ!」と「ビミョー」の2択で評価でき、さらに感想コメントも書き込める。正直な意見を他の客も見ることができ、買い物の参考にしてもらえるのだ。

指摘されたマイナス要素の改善にも取り組む。その役割を担うのが「マジボイス実現委員会」だ。

この日の議題は、移動が可能な「どこでも置くだけエアコン」(4万1580円)。「マジボイス」には「動作音がめちゃくちゃうるさい」「うるさすぎて会話も聞こえない」といったコメントが寄せられていた。
メンバーが集まって「ダクトの密閉性を高めて音漏れをしなくするのも一手段」「格子の形状を改善することで音の抜けを良くしてあげる」と、議論が始まった。

客から要望があったら、とにかく何かしら手を打って改善に動く。どうしても改善できない時は、その理由をホームページ上で公開している。

「情熱価格」のファンだという客は「意見を取り入れて次の商品に反映して良いものを出してくれる。一消費者としてすごくうれしい」と言う。

お菓子、お酒…「〇〇ドンキ」が急増中

東京・中央区の八重洲地下街の一角に2021年にオープンした「お菓子ドンキ」。
国内だけでなく、海外の商品も取り揃え、小さな店舗ながら約1000種類を販売するお菓子に特化したドン・キホーテだ。

その店の真向かいには「お酒ドンキ」が。国内外の約1200種類の酒を集めたドン・キホーテで、定番から見たことがないような希少品まで揃えている。

「お酒ドンキ」では「ウイスキーがちゃ」も人気。ハズレなしをうたっているが、1回4378円とかなり高額だ。大当たりなら1本4万円を超える12年ものの「山崎」がゲットできる。

ドン・キホーテは今、こうした特化型の店舗を増やしている。「コスメドンキ」や辛いもの専門の「驚辛(きょうから)ドンキ」なども展開。こうした店から、通常店舗に送り込む未来のヒット商品を発掘しようとしているのだ。

特化型ドンキの中で最も勢いがあるのが全国に4店を展開する「キラキラドンキ」だ。

名古屋市の「キラキラドンキ」近鉄パッセ店。客は10代、20代の若い女性ばかり。韓国コスメや「サンリオ」のキャラクターぬいぐるみなど、若い女性客が好みそうな物を幅広く揃えている。

その商品選びで活躍するのがアルバイト。客と同じ年代で平均年齢20歳。店長・大森桜花もまだ27歳だ。
この日はアルバイトと客のリクエストをチェック。あまり聞いたことのない韓国キャラクターも、もちろん知っている。

こうした客の要望に対し、スタッフたちは本部に一切相談なしでどうするか決めることができる。しかも、値付けの裁量まで。これがドン・キホーテの「権限委譲」という企業文化だ。

「自分の今まで培ってきた知識を生かせる場で働けていると実感しています」(大森)

※価格は放送時の金額です。

吉田直樹(よしだ・なおき)
1964年、大阪府生まれ。1988年、国際基督教大学教養学部卒業。1995年、INSEAD卒業(経営学修士)、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン入社。2002年、オルタレゴコンサルティング設立。2007年、ドン・キホーテホールディングス(現PPIH)入社。2013年、専務取締役就任。2019年、代表取締役社長CEO就任。

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画像提供:テレビ東京