「全固体電池」実用化へ EV市場をゲームチェンジ

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電気自動車(EV)市場のゲームチェンジャーとして全固体電池が注目されています。全固体電池の材料となる固体電解質の開発を進め、生産に向け動き出した出光興産を中心に各社の動向をご紹介します。

出光興産が全固体電池部材の生産へ

10月28日、「 出光興産 」は固体電解質の大型パイロット装置の基本設計に着手したと発表しました。

現在、EVに搭載されているリチウムイオン電池は、電解質(水に溶けると電気を通す物質)が主に液体で出来ています。

これに対して、出光興産は、電解質が液体ではなく固体で出来た全固体リチウムイオン二次電池(全固体電池)の実用化を目指し、材料である固体電解質の開発を進めていました。

全固体電池はEV市場のゲームチェンジャー

全固体電池は、高電圧・高温に強いため、エネルギー密度の向上や長寿命化が期待されます。このため、全固体電池を搭載したEVは、急速充電時の時間短縮、航続距離の延伸、出力の向上などのポテンシャルがあるとともに、電解液の漏れや発火の危険性も低いとされ、安全面での優位性も指摘されます。

「全個体電池」のメリット
・エネルギー密度が高く電池をコンパクト化できる
・充電時間を短縮できる
・EVの航続距離を長くできる

出光興産は、本業である石油の製造過程で出る硫黄成分を原料に固体電解質を開発。硫化物系の固体電解質は高容量で高出力が実現しやすく、原料も調達しやすいことに優位性があると言われます。

EV市場では現在、中国メーカーの勢いが目立っていますが、全固体電池の登場がEV勢力図を一変する可能性を秘めています。まさに、全固体電池はEV市場の”ゲームチェンジャー”と言えそうです。

トヨタと協業し全固体電池搭載EVを実用化へ

今回、出光興産が発表した固体電解質の大型パイロット装置の生産能力は、年間数百トンを予定しており、世界でもトップクラスの生産規模となるようです。

自動車メーカーでは、「 トヨタ自動車 」が2027~28年に全固体電池を搭載したEVの実用化を目指しています。出光興産は、2023年10月にトヨタ自動車とEV用全固体電池の量産実現に向けた協業を開始しており、トヨタをはじめそれ以外の自動車メーカーや電池メーカーなどのニーズにも対応していく方針です。

自動車メーカーや部材メーカーも開発を積極化

他の自動車各社も全固体電池の市場投入を見据え、自社主導で開発を本格化しています。「 日産自動車 」は28年度を目標に全固体電池を搭載したEVの市場投入に向けて、26年度には試作車を公道でテストすることを計画しています。

本田技研工業 」も20年代後半の全固体電池の実装を目標に開発を進めています。すでに試作ラインの建設を終えて検証に必要な設備の搬入もほぼ完了し、25年1月の稼働開始を予定しています。電池の仕様開発と並行しながら各工程の量産技術や量産コストについても検証を進めていく方針です。

実用化が視野に入るなかで材料メーカーも技術開発に磨きをかけています。

住友金属鉱山 」はEVに搭載するリチウムイオン電池向け正極材を手掛け、30年度までに22年度比で生産規模を3倍にする計画を示しています。増産する正極材の一部を全固体電池向けに振り向けることを検討していると報じられています。

日本の有力企業が開発を積極化することで、全固体電池はEV市場にゲームチェンジを起こし、デファクトスタンダード(世界標準)となっていくことも期待されそうです。

※「全固体電池」については、当連載記事の姉妹編「直近の値動きから見るテーマ株」の(『EV市場勢力図の塗り替えも 「全固体電池」関連株が上昇) も是非ご覧ください。