三井不動産【8801】長期的な拡大が続きやすいビジネスモデルとなっている理由

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カエル先生の一言

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Investors Guide
2024年3月期 決算説明資料
2025年3月期 第2四半期(中間期)決算説明会資料
2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、三井不動産株式会社の「Investors Guide」「2024年3月期決算説明資料」「2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明会資料」「2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用しています。

今回取り上げるのは、大手の不動産デベロッパーの三井不動産株式会社です。

事業内容と業績のポイント

それでは早速事業内容を見ていきましょう。
三井不動産の事業セグメントは以下の5つです(Investors Guide 「Business Overview」「Market Potential」参照)。

①賃貸:オフィスや、商業施設、物流施設など、不動産の開発を行い、賃貸収益を得る事業
売上の内訳は以下の通りで、オフィスや商業施設が主力
(1)オフィス:55%
(2)商業:35%
(3)その他:10%
②分譲:不動産の開発を行い分譲する事業
売上の内訳は以下の通りで、国内住宅と投資家向け・海外住宅等が半々
(1)国内住宅:50%
(2)投資家向け・海外住宅等:50%
③マネジメント:
PM(プロパティマネジメントの略、不動産運営管理、「三井のリパーク(貸し駐車場)」など)
仲介(「三井のリハウス(個人向け不動産仲介)」など)
AM(アセットマネジメントの略、資産管理・運用など)
売上の内訳は以下の通りで、不動産管理などのPMが主力
(1)PM:75%
(2)仲介・AM等:25%
④施設営業:三井ガーデンホテルなどのホテル運営や東京ドームなどの施設運営
売上の内訳は以下の通りで、ホテル・リゾート運営が主力の事業
(1)ホテル・リゾート:72%
(2)スポーツ・エンタメ:28%
⑤その他:新築請負やリフォームなど

不動産のインカムゲインやキャピタルゲイン、マネジメントを最適に組み合わせることで利益の最大化を行うビジネスモデルになっていて、不動産活用の最適な選択をするために、多様な不動産業を展開していることが分かります(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P11参照)。

続いてセグメント別の売上構成と(事業利益額)は、以下の通りです(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P9、74参照。数値は2024年3月期)。

①賃貸:34%(1690億円)
②分譲:26%(1351億円)
③マネジメント:19%(662億円)
④施設営業:8%(263億円)
⑤その他:12%(41億円)

賃貸事業が売上、利益ともに主力となっています。また、不動産管理を中心とするマネジメント事業も一定の規模がありますから、賃貸事業含めてストックでの売上が期待される事業の規模が大きいです。一定の安定的な収益が期待できる企業であることが分かります。

そしてストック事業が大きいということは、積み上がりも期待できるということです。運用する不動産の増加と共に成長が期待できます。

売上、利益ともに2番目に規模が大きい事業は分譲事業です。不動産の販売の動向に業績が左右されやすいと思われがちですが、国内住宅分譲は豊富なランドバンク(用地のストック)を抱えていて、特にマンションは毎期3000戸台を安定的に供給しています(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P37、38参照)。また、投資家向け分譲については、国内外、多様なアセットクラスにおける稼働資産を簿価ベースで1.63兆円保有していて、売却額もここ数年1000億円内外に拡大させています(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P39参照)。不動産市況には注視が必要ですが、豊富な資産により、安定収益が期待されます。

また、多額の不動産を持つ企業ですから保有している資産の状況が重要です。もう少し詳しく見ていきましょう。三井不動産の総資産は9.4兆円でその内訳は以下の通りです(Investors Guide 「Source of Our Profit」参照)。

①賃貸用不動産:38%
②その他有形・無形固定資産:9%
③投資家向け分譲用:17%
④個人向け住宅分譲用:8%
⑤その他資産:29%

規模が大きいのは、積み上がっていく賃貸用の不動産です。一方で分譲用も計25%と大きな規模があります。販売用の在庫も多額ですから、その販売の動向も重要です。

賃貸等不動産をもう少し詳しく見ていくと、長期的に保有している不動産が多数あり、また不動産相場が上昇する中で評価益は多額に上ります(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P78参照)。2024年3月期末時点では簿価が3兆5927億円に対して評価額は6兆9616億円で、評価益は3兆3689億円です。多額の評価益を抱えた資産を保有している点が、三井不動産の大きな強みであることが分かります。また、近年不動産相場が高騰する中で販売用不動産も評価益は増加傾向です。そして、今後は固定資産、有価証券も含め、売却益の増加を加速させるとしています(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P22参照)。

またエリア別の資産の残高は、以下の通りです(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P46参照)。

海外:28.5%
国内:71.5%

国内が主力ですが、海外で保有する不動産の規模も大きいです。ニューヨークで大きなオフィスビルを保有するなど、アメリカやイギリスを中心にオフィスや賃貸住宅を展開していて、アジアでは商業施設や分譲住宅などを展開しています(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P48,87参照)。

エリア別では以下の通りです(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P46参照)。

米国:70%
イギリス:11%
アジア:19%

主力は米国で約7割を占めていますから、アメリカの不動産市況にも注目です。

ここまでのまとめ

・三井不動産は多様な不動産事業を展開していて、賃貸やマネジメントなどストック収益が期待できる事業も規模が大きく、一定の安定した業績が期待される企業
・不動産相場の上昇もあり、保有している不動産の含み益も多額
・分譲事業の規模も大きく、米国を中心に海外不動産も多数保有

近年の業績

三井不動産についてある程度分かったところで、続いて近年の業績の推移を見ていきましょう。

2013年度以降の営業収益の推移を見ると、2023年度まで拡大が続いていて、長期的な成長をしていることが分かります(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P77参照)。利益面も拡大傾向が続いていたものの2020年度や2021年度は一時停滞しています。ですがそれ以降は再拡大していて、2022年度や2023年度はそれ以前を上回り、過去最高の業績を更新するほど、好調です。

2020~2021年度の利益が低迷したのはコロナ禍の影響です。2022年度も一定の悪影響がありました(2024年3月期決算説明資料 P9参照)。コロナ禍という一時要因で利益面は一時停滞したものの、その影響を除けば売上・利益ともに長期的な拡大が続いていることが分かります。

ではなぜ拡大が続いているのかというと、賃貸事業や分譲事業などの主力事業で拡大傾向が続いている影響が大きいです(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P7参照)。賃貸事業は保有している施設の増加と共に業績が積み上がっていきます。さらに、事業規模の拡大とともに自己資金や資金調達力も拡大していくので、成長が続きやすいモデルとなっています。

三井不動産 2024年度2Qの決算資料より

実際に有利子負債の推移を見ても増加が続いていて、事業規模の拡大とそれに伴う積極的な資金調達による拡大を繰り返すことで成長が続いています

とはいえ分譲事業は2023年度に関しては前期比で減益となっていました(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P7参照)。国内は好調だったものの、海外市場で前期の物件売却の反動や、米国市場で利上げに伴うキャップレート(期待利回り)の上昇などで評価損が発生した事が影響している、としています(2024年3月期決算短信 P5参照)。分譲事業は賃貸と異なり、大型案件やその時期の市況などに左右されますから、一定の増減が出てくる事業ではあります。

米国では利下げが始まっていますから、今後はその面からの改善が期待されます。海外で保有する不動産の額も大きな企業ですから、金利含め米国市場の動向には注目です。

そして拡大傾向が続く中で、2026年度までの目標を見ても分譲や賃貸を中心にさらなる拡大を目指しています(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P19参照)。

三井不動産 2024年度2Qの決算資料より

三井不動産 2024年度2Qの決算資料より

三井不動産 2024年度2Qの決算資料より

三井不動産 2024年度2Qの決算資料より

三井不動産 2024年度2Qの決算資料より

国内住宅分譲、賃貸事業のオフィスや商業施設、海外事業のどれを見ても多数のパイプラインが進捗しています。規模の拡大が進んでいく事業となっていますので、今後も拡大が期待されます。

それぞれの市場の動向をもう少し詳しく見ていきましょう。

三井不動産 2024年度2Qの決算資料より

国内の住宅市場では都心部を中心に不動産価格は高騰していて、平均販売価格も上昇しています。市況面からの拡大も期待されますから、今後も拡大が期待できそうです。

また、オフィス市場の動向を見ると、空室率・平均賃料共にコロナ禍以降は悪化していますが、2023年度以降では空室率は低下傾向となり、平均賃料も底打ち傾向が見られます。テレワーク化が普及した一方で、オフィス回帰の流れも進み、こちらの市況も堅調な状況が期待できそうです(2025年3月期第2四半期(中間期)決算説明資料 P88、89参照)。

三井不動産 2024年度2Qの決算資料より

三井不動産の商業施設の売上は前期比では上昇が続いていますから、こちらも成長が期待されます。

賃貸事業では事業の積み上がり、分譲事業では事業規模の拡大が進められるということで、業績も拡大が続いていました。現在進行中のパイプラインも多数あり、今後も事業規模拡大が期待されます。

直近の業績

それでは続いて直近の2025年3月期の第2四半期までの業績を見ていきましょう。

三井不動産 2024年度2Qの決算資料より

売上高:1兆1624億円(▲0.2%)
営業利益:1694億円(▲5.7%)
事業利益:1731億円(▲6.4%)
経常利益:1373億円(▲11.1%)
純利益:883億円(▲31.7%)

減収減益ではありますが、過去最高益となった前期に次ぐ業績です。

三井不動産 2024年度2Qの決算資料より

ではどうして減益になったのか、もう少し詳しくセグメント別の事業利益の前期比を見てみると、以下の通りです。

①賃貸:▲32億円
②分譲:▲170億円
③マネジメント:+43億円
④施設営業:+68億円
⑤その他:+13億円

マネジメントや施設営業は好調でしたが、主力の賃貸や分譲は減益になっています。マネジメントが好調となった要因は、仲介・アセットマネジメントがリハウス(個人向け仲介)の取引件数や単価上昇による増益だったとしていて、不動産価格の上昇や堅調な不動産市場の中で好調となっています。

施設営業では、ホテル単価の上昇や東京ドームでの稼働日数や来場者数の増加等によって増益になりました。インバウンドが増加する中で、ホテルの宿泊料金は上昇を続けていますから、今後も好調が期待されます。

賃貸事業では、既存事業は堅調だった一方で、海外物件の公租公課の増加や前年同期の物件売却の反動によって減益になっています。一時要因の反動で悪化したということです。

分譲事業では、国内住宅分譲は増益となったものの、投資家向け・海外住宅分譲等が前年同期の物件売却の反動によって減益になっています。分譲事業は、大型物件の売却時期などに左右されますから、こうした影響が出ていたということが分かります。

三井不動産 2024年度2Qの決算資料より

また、第2四半期は減収減益となりましたが、通期予想に関しては売上、利益ともに過去最高を見込んでいます

セグメント別の事業利益の予想では、ホテル・リゾートの好調が続くことや、賃貸でも事業面は堅調ですから、通期では若干の増益を見込みます

そして、分譲事業は固定資産含め、資産回転を加速することや国内住宅分譲の都心・高額・大規模物件による+34.8%の大幅増益を見込んでいます。下期の物件売却引渡しもありますし、先ほど取り上げたように現在は固定資産や有価証券も含め売却益を加速していくとしていますから、そういった影響も出てくるということです。

上期は前年比で減益となったものの一時要因の反動や、上期の計上が限定的だった分譲事業による影響で、下期に期初想定のとおり分譲事業で物件売却益の計上が予定されていますし、賃貸事業も堅調です。更に今後、上期に引き続き、好調なマネジメント事業・施設営業事業の活況が継続すれば、通期の業績は上振れも期待ができます。

妄想する決算氏が三井不動産の内田IR室長へ突撃インタビュー!

長期的な拡大が期待される三井不動産。次回、妄想する決算氏が三井不動産の内田IR室長に徹底取材! 「日興フロッギー版 妄想する決算【対談編】」を特別編としてお届けします。

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」を日興フロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
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