高齢化社会で抜本的な治療法の確立が待たれる認知症治療薬。認知症の代名詞とされるアルツハイマー病の仕組みなどを解明する研究が続くなか、治療薬の開発で世界に先行するエーザイを中心に各社の動向をご紹介します。
エーザイが新薬を開発、認知症治療薬に光明
「 エーザイ 」は2024年10月に早期アルツハイマー病を対象とした治療薬(E2814)の安全性を調べる臨床試験(治験)を開始したと発表しました。
エーザイは、米製薬大手バイオジェンと共同開発した認知症治療薬「レカネマブ(製品名レケンビ)」を販売していますが、これまでの治療薬との違いが話題になっています。
レカネマブは「アミロイドβ(ベータ)」と呼ばれるアルツハイマー病の原因物質を標的にするのに対し、臨床試験中の新薬は「タウ」を標的とします。
どちらもたんぱく質の一種ですが、アルツハイマー病の患者は脳内にまずアミロイドβが蓄積し、その後タウが蓄積することが分かってきました。
タウが脳内の記憶中枢に蓄積し始めると認知機能の低下が始まるため、タウの蓄積を防げば、脳神経細胞の破壊を食い止めることができると考えられています。
・神経細胞内にあるタンパク質
・凝集して脳に沈着すると神経細胞を死滅させ、認知機能を低下させる
技術的にタウを取り除くことは難しいとみられていましたが、エーザイのE2814は脳内でタウ凝集体が細胞間で広がるのを抑える効果が期待されています。
アミロイドβを標的とし、認知機能の低下を遅らせるレカネマブと組み合わせることで、将来的には症状の進行の抑制だけでなく、治療への道筋も見えてくるかもしれません。
海外の製薬大手も開発に注力、関連事業に広がり
米製薬大手バイオジェンやアイルランドのバイオテクノロジー企業のプロシーナなどもタウを標的とする治療薬の開発に乗り出すなど、世界で競争は激化しています。開発に関わる周辺事業でも今後タウに関する話題への注目度は高まっていきそうです。
臨床検査薬の「 H.U.グループホールディングス 」傘下の富士レビオ・ホールディングスはバイオジェンなどと患者の脳内のタウの蓄積レベルを測定する血液バイオマーカーを活用した新たな検査試薬の開発で提携を発表しています。
また血液検査機器大手の「 シスメックス 」はアミロイドβの蓄積量を微量の血液から調べて病気の兆候を診断する試薬を開発。今後はタウも候補に入れ、認知症関連検査の拡充を目指しています。
創薬ベンチャーでも取り組みが進みます。「 ファンペップ 」は大阪大学大学院とタウの広がりを抑えるペプチドの研究開発でアルツハイマー病の根本治療薬の開発を目指しています。
「 ケイファーマ 」はタウ遺伝子に変異を持つ患者由来のiPS細胞を使ったタウ関連疾患モデルの製造方法で特許を取得し、将来的には知見の活用で治療薬の開発につなげることも見据えています。
新薬開発の進展で、認知症が「治る」未来への期待が高まっています。