日本ガイシ【5333】EV普及が遅れる中で好調が期待できる

日興フロッギー版 妄想する決算/ 妄想する決算

カエル先生の一言

音声メディア「Voicy」で、「10分で決算が分かるラジオ」を毎日配信中の「妄想する決算さん」が、日経225・グロースコア・スタンダードコアの企業を1社ずつ取り上げる人気連載を日興フロッギー版としてスタート! 読むだけで、知らず知らずのうちに主要な株価指数に採用されている企業についてわかるようになる決算解説。日興フロッギー版ならサクっと5分でチェックできます!

日本ガイシ株式会社ホームページ
NGKレポート2024
2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
2024年3月期 決算説明会(ノート付き)
2023年3月期 決算説明会
2025年3月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)
2025年3月期 第2四半期 決算説明会

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、日本ガイシ株式会社の「ホームページ」「NGKレポート2024」「2024年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)」「2024年3月期 決算説明会(ノート付き)」「2023年3月期 決算説明会」「2025年3月期第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)」「2025年3月期第2四半期 決算説明会」より引用しています。

今回取り上げるのは日本ガイシ株式会社です。同社は、ノリタケやTOTO、日本特殊陶業などを抱える森村グループの企業の1つで、大手のセラミックス企業です(ホームページ/企業情報/森村グループ 参照)。

電柱の上にある電線を支えている白いものや、鉄塔についている白いそろばんの玉のようなものが「ガイシ」です。発電所で生まれた電気は、変電所で電圧を調整し、鉄塔から鉄塔へ、電柱から電柱へと送られています。鉄塔や電柱にガイシを使うことで、電気を漏らさず、電線を支えることができます。このように電柱や送電鉄塔、発電所や変電所などの電線が通る所には、ガイシが存在します(ホームページ/「がいし」とは 参照)。

事業内容と業績のポイント

それでは、事業内容を見ていきましょう。

日本ガイシの事業セグメントは、以下の3つです(NGKレポート2024 P17、18参照)。

①エンバイロメント事業:自動車の排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒担体や、粒子状物質(PM)を除去するフィルター製品(ディーゼル・パティキュレート・フィルター:DPF、ガソリン・パティキュレート・フィルター:GPF)、自動車排ガス中の窒素酸化物(NOx) 濃度を測定するNOxセンサーなどの提供

強み:材料技術、製品開発、量産技術、各国の法規制や地域特性、需要変動に対する柔軟な対応力、自動車会社への提案力、幅広い産業とのネットワーク、エンジニアリングを含む価値/ソリューション提供力

②デジタルソサエティ事業:半導体製造装置用セラミックス、データを読み書きする磁気ヘッドの精密な位置決めに必要な圧電マイクロアクチュエーター、電子機器の信頼性向上・小型化等を実現するベリリウム銅製品などの製造・販売

強み:独自の材料技術と製造プロセス技術で他社の追随が難しい分野を展開、高付加価値製品の開発

③エネルギー&インダストリー事業:がいしや配電用機器、メガワット級の大容量蓄電池「NAS電池」などの提供

強み:長期にわたるインフラ事業の知見を生かした提案力、NAS電池を活用したソリューション提供力、独自の高品質セラミックス製造技術力

自動車の排ガス浄化用の製品や半導体製造装置向けの製品など多様な製品を展開し、世界で競争力のある多くの製品を保有しています。現在は「がいし」に頼ることなく、多様な売上構成になっています。

2024年3月期のセグメント別の売上構成比率と(営業利益の額)は以下の通りです。

①エンバイロメント事業:67%(646億円)
②デジタルサイエンス事業:24%(23億円)
③エネルギー&インダストリー事業:9%(▲5億円)

自動車関連のエンバイロメント事業が売上・利益ともに主力です。

さらに詳しい製品別の売上構成比率は以下の通りです(2024年3月期決算短信 P16参照)。

①エンバイロメント事業
(1)自動車排ガス浄化用部品:51%
(2)センサー:11%
(3)産業機器関連:5%
②デジタルソサエティ事業
(1)半導体製造装置用製品:15%
(2)電子部品:5%
(3)金属:4%
③エネルギー&インダストリー事業
(1)エナジーストレージ:0%
(2)がいし:8%
※構成比率は執筆者妄想する決算が算出

自動車排ガス浄化用部品が約半分を占める売上規模で、半導体製造装置用製品の規模も大きいです。エンジン車など内燃機関を活用した自動車の市場や半導体市場に業績が左右されやすい企業です。

その社名の通り、ガイシの大手であった日本ガイシは、以前はガイシ関連の事業が主力でしたが、送配電網などのインフラの整備も完了する中で、1990年代以降はガイシ関連の事業が伸び悩みました。ですが、その技術力を多様な分野に活用し、特に自動車関連の製品が拡大することで成長し、現在のような事業構成になっています(NGKレポート2024 P13参照)。

続いて市場別の売上構成比率を見てみると以下の通りです(NGKレポート2024 P17参照)。

①日本:23%
②欧州:24%
③北米:21%
④アジア:30%
⑤その他:2%

分散した構成で、グローバルでの自動車需要や半導体需要が重要になります。

また、海外比率は77%となっていて、為替の影響も受けます(2024年3月期 決算説明会(ノート付き)P6参照)。2025年3月期では為替が1円の円安による影響の見通しによる営業利益は以下の通りです。

ドル円:+5.6億円
ユーロ円:+0.9億円

営業利益の見通しが750億円ほどですから、ドル円とユーロ円がともに1円ほど円安に振れると約0.9%の影響があります。近年は為替の変動が大きな状況が続いていますので、為替の動向には注目です。

内燃機関を使った自動車の市場や半導体市場、為替の動向などに注目です。

近年の業績推移

事業内容が分かったところで、続いて近年の業績の推移を見ていきましょう。

2016年度以降の業績の推移を見てみると、売上高は2020年度までは横ばい傾向だったものの、2021年度以降は拡大傾向が続いています。

一方で利益面の推移を見てみると、2017年度以降では2020年度までは低迷傾向でしたが、2021年3月期は好調で、それ以降は改めて減益傾向の推移となっています(2024年3月期 決算説明会資料 P27参照)。

近年の利益面は以前と比べて低水準というわけではありませんが、売上は伸びたものの利益面は伸び悩み、低迷傾向です。

まず、近年の売上の増加要因を見ていくと、為替による影響が大きいです(2023年3月期決算説明会資料 P4、2024年3月期決算説明会資料 P4参照)。

続いて、利益面の低迷についてはセグメント別の営業利益の推移を見てみると、2023年3月期はエンバイロメント事業の業績が悪化、2024年3月期はデジタルソサエティ事業の業績が悪化しています。

具体的には2023年3月期は半導体の供給不足などがあり自動車生産が低調となったことでエンバイロメント事業が悪化(NGKレポート 2024 P37参照)。

そして2024年3月期では自動車生産は回復したものの、半導体市場の悪化を受けてデジタルソサエティ事業が悪化しました。

つまり、苦戦している市場があったため利益面が低迷したということです(2024年3月期決算説明会資料 P3参照)。

今後の業績を考えてみましょう。現在はEV化の進展に遅れが見られていて、ハイブリッドは好調です。内燃機関を活用した自動車生産は堅調な状況が続いていますから、エンバイロメント事業は堅調な状況が続くことが期待できます(2024年3月期決算説明会資料(ノート付き) P7参照)。

さらに半導体市場も2025年3月期以降で回復が期待されます。このためデジタルソサエティ事業も業績の回復が期待され、2025年3月期以降は一定の業績改善が期待できるでしょう(2024年3月期決算説明会資料 P9、10参照)。

しかしながら、ここ2年ほどの営業利益の変動要因を見ていくと、原燃料価格の上昇や開発・償却費の増加が重しとなっています。これはインフレなどのコスト高の影響も受けたものです。なお開発・償却費については、新規事業に力を入れていることが影響しています(2023年3月期決算説明会資料 P4、2024年3月期決算説明会資料 P4参照)。

現在の主力である内燃機関の自動車向けの製品を中心とするエンバイロメント事業では、EV化の進捗と共に需要の減少が想定されます(2024年3月期決算説明会資料 P8参照)。

内燃機関向けの売上は、長期的には大きな減少を想定され、それ以外の事業の拡大を進めていく方向で積極的な投資も進めています。

堅調な自動車関連の需要や半導体市況の改善は期待されるものの、今後も積極的な研究開発費などの投資継続を見込み、コストの高止まりが想定されます。短期的には、コスト増加の影響をどれだけ打ち返せているかが、今後の業績を見る際のポイントになりそうです(2024年3月期決算説明会資料 P19、20参照)。

そして中長期的には、重要なポイントは新規事業です。主力の内燃機関向けの製品の需要が減少していく可能性が高い状況ですから、当然新規事業が重要になります。そんな中で、今後拡大を目指しているのはカーボンニュートラルやデジタル社会に貢献するような新製品です(2024年3月期決算説明会資料 P16、17参照)。

大気中から直接CO2を回収するダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)やEV用のパワー半導体向けの絶縁放熱回路基板、その他諸々と多様な新製品の開発を進めています(2024年3月期決算説明会資料 P18参照)。

現在はまだ規模が小さいものばかりですが、新事業の売上目標を1000億円(2030年)としていますから、この中で拡大を見せられる新規事業があるのかに注目です。

ここまでのまとめ

・日本ガイシは内燃機関の自動車向けの製品が主力で、半導体関連の製品も大きな規模を持つ
・内燃機関の自動車市場や半導体市場の動向が重要な企業
・2023年3月期は自動車生産の停滞、2024年3月期は半導体市場の停滞で一定の苦戦
・2025年3月期以降ではハイブリッド車人気による堅調な自動車生産に加えて、半導体市場の回復が進むことが期待され、業績の回復が期待できる
・近年はコスト高や投資の拡大も進める中で、利益面へは一定の影響が続く可能性があり、その打ち返しに注目

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。今回見ていくのは2025年3月期の第2四半期の業績です(2025年3月期第2四半期 決算短信 参照)。

売上高:2984億円(+5.5%)
営業利益:397億円(+22.2%)
経常利益:384億円(+32.6%)
純利益:259億円(+42.3%)

増収増益で業績の改善が進んだことが分かります。

日本ガイシ 2025年3月期2Q 決算説明会資料より

エンバイロメント事業では、自動車関連の製品が中国市場や東南アジアの需要減速によって減収となったものの、円安や費用発生の遅れで増益。

デジタルソサエティ事業では、旺盛なデータセンター投資など半導体製造装置の市況回復によって増収増益になったとしています。自動車は停滞したものの、為替の好影響や半導体市況の回復を受けて好調でした。

日本ガイシ 2025年3月期2Q 決算説明会資料より

日本ガイシ 2025年3月期2Q 決算説明会資料より

そして通期予想は、円安が想定以上です。デジタルソサエティ事業では、データセンター需要などが旺盛で、上方修正していて、増収増益を見込んでいます。エンバイロメント事業は、想定を下回る見通しではありますが、それでも前期比では増益を見込んでいます。

日本ガイシ 2025年3月期2Q 決算説明会資料より

中国や東南アジアの市況は停滞しているものの、EV化の遅れによる需要増加はあるとしていますので、一定程度堅調な業績は期待できそうです。

日本ガイシ 2025年3月期2Q 決算説明会資料より

また、為替も円安方向への修正をしましたが、それでも下期の想定レートはドル円が140円など、円高水準の想定です。石破政権になって以降の円安傾向が続けば、為替面からのさらなる上方修正も期待できるでしょう。

中国景気など自動車市況には注意が必要ですが、基本的には好調が期待されます。

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」を日興フロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
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