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日立統合報告書2024
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2024中期経営計画 進捗発表
2024年3月期 連結決算の概要
Hitachi Investor Day 2024 CEO Remark
2025年3月期 第2四半期 (中間期) 決算短信〔IFRS〕(連結)
2025年3月期 第2四半期連結決算の概要
今回取り上げるのは、大手の総合電機メーカーとして知られている株式会社日立製作所です。
事業内容
それでは早速事業内容を見ていきましょう。
日立製作所の事業セグメントは以下の4つです(統合報告書2024 P15~20参照)。
デジタルソリューション(システムインテグレーション、コンサルティング、クラウドサービス)
ITプロダクツ(ストレージ、サーバ)
ソフトウェア、ATMなど
()内は売上構成比率(統合報告書2024 P17参照)1.鉄道BU(28%):鉄道車両、信号、保守運営など
2.パワーグリッドBU(62%):パワーグリッド(送配電関連)、オートメーションシステム、HVDC(高圧直流送電)など
3.原子力BU(6%):原子力関連
4.日立パワーソリューションズ(4%):風力発電ソリューション、分散電源ソリューションなど
()内は売上構成比率(統合報告書2024 P19参照)1.ビルシステム(30%):エレベータ、エスカレーターなど
2.日立グローバルライフソリューションズ(12%):家電・空調機器等
3.アドバンステクノロジー(23%):計測分析システム(半導体製造装置、医療分析装置)など
4.インダストリー(35%):産業・流通ソリューション・水・環境ソリューション・産業用機器など
ビルシステムや分析機器、産業機器などで分散した構成の事業です。
ITソリューションの提供やエネルギー関連、そして空調・家電やビルシステム、機械装置の提供など非常に多様な事業を展開している企業です。
それぞれの事業セグメント毎の売上収益と調整後EBITA(キャッシュを稼ぐ力)の構成比率は以下の通りです(統合報告書2024 P3参照)。
②グリーンエナジー&モビリティ:33%(23%)
③コネクティブインダストリーズ:33%(37%)
④その他:6%(1%)※()内は調整後EBITAの比率
主力の3事業で分散した構成で、ITソリューション関連や鉄道やパワーグリッド、ビルシステムや分析機器、産業機器など多様な分野の事業が重要な企業です。
調整後EBITAではデジタルシステム&サービス事業が最大となっていますし、近年は大規模な構造改革を進めソリューションビジネスを拡大していますから、そこについてはもう少し詳しく見ていきましょう。
強み
ITソリューションの分野での日立製作所の強みは、実際に多くの製品やサービスを自社で作り続け、さらにその稼働のオペレーションをしてきた点にあります(ホームページ/事例/生産現場の全体最適化 参照)。
例えば工場の最適化をとっても、自社で積極的に進めて来ましたから、その仕組みやソリューションを外販することも行っています。
その他にも、社会インフラでも多様な製品を作ってオペレーションしてきましたから、ITソリューションを提供する他社では参入が難しいような、鉄道やエネルギー関連などの分野でサービスが提供できるという強みがあります(2024中期経営計画 進捗発表P19参照)。
エネルギー分野ではHDVC(高圧の直流送電方式)の導入実績が150GWで世界トップ、日立製作所の鉄道サービスは年間のべ180億人が利用しています。実際に自社で多くの物を作って動かしてきたことが、他社には真似できない強みになっています。
現在は「IT×OT(オペレーションテクノロジー)×プロダクト」を通じて社会課題を解決するという「社会イノベーション」型のITソリューション事業拡大を進めています。デジタル上だけで動くシステムの構築というよりは、よりリアルな社会で使われる製品やそのオペレーションをITで解決するという点に強みがあり、積極的に取り組んでいます。
そして、こういった取り組みの中心がLumada(ルマーダ)というモデルです。2024年3月時点では売上が2.3兆円で27%、調整後EBITAが39%ほどを占める規模となっています(統合報告書2024 P13参照)。
Lumadaは概念的なもので、多様な事業を行ってきた日立製作所では、様々な分野で使える技術や知見が社内に膨大にある一方で、縦割り組織が長らく問題視されていて、技術や知見の共有が十分には進んでいませんでした。そうした中で社内の技術や知見を共有して、サービスを提供していこうというのが、このLumadaモデルです。
例えば、これまではITソリューションを展開する際には個別の案件に対応してシステムの開発を行っていました。Lumadaの取り組みを始めて以降は、作ったシステムのIPを日立製作所が保有し、社内に貯めていくことで、他のソリューションを展開する際にも活用できるようになっています。
Lumadaはデジタルシステム&サービス事業だけの取り組みではなく、全事業においてLumada関連の売上収益は大きな規模を持っています(2024年3月期 連結決算の概要 P16参照)。
これまでは、コングロマリットで多数の事業を展開していることが日立製作所の弱みとなっていた部分もあります。しかし、その技術や知見の共有を進めることで、他社ではできないようなソリューションを展開できることが、今や強みとなっています。
実際に自社で多くの物を作って動かすことは、他の多くのITソリューションの企業では真似ができないため、今後も拡大が期待されます。
市場構成
続いて市場別の売上収益構成比率は以下の通りです(統合報告書2024 P3参照)。
②欧州:17%
③北米:15%
④中国:11%
⑤ASEAN・インド:9%
⑥その他:7%
日本市場が主力で、欧州や北米、中国でも一定の規模があります。日本市場の動向が重要ですが、海外比率も59%と規模が大きく、グローバルの動向が重要になります。
欧州や北米ではグリーンエナジー&モビリティソリューション(鉄道やパワーグリッド)が大半を占めていますので、こういったインフラ投資の動向が重要です。また、中国に関してはコネクティブインダストリーズが大半を占めています。ビルシステムで強みを持っていますので、建設市場停滞による影響が想定されますから、その点は注意が必要そうです。
業績の推移
続いて業績の推移を見ていきましょう(統合報告書2024 P5参照)。長期的な業績の推移を見ていくと、売上のピークは2008年3月期で11兆円を超えていました。ですがそれ以降は減少し、増減しながら推移し2024年3月期でも9.7兆円ほどです。
一方で純利益の推移を見てみると、売上のピークだった2008年3月期は赤字で、2009年3月期には7873億円もの赤字となるなど、苦戦しました。それ以降は、利益面は改善を続け、2024年3月期には5898億円の純利益を出せるほどになっています。近年は大きく収益性の改善が進んできたことが分かります。
構造改革
これは、2009年3月期に大赤字を計上して以降、積極的な構造改革を進めてきたためです。大規模な組織再編を進め、その中でも大きな取り組みは、22もあった上場子会社の売却や完全子会社化があります。低収益や成長が見込めない事業からは撤退を進め、その一方で高収益が見込める子会社は積極的な完全子会社化を進めることで、リソースの最適化や子会社の利益全体の取り込みを進めてきました。
数多くの取り組みを進めてきたので、例えば以前の主力事業の1つだった火力発電事業の売却や日立化成、日立金属という「日立御三家」と呼ばれてきたかつての中核企業も売却しています。
一方で、分析機器などを提供する日立ハイテクは5000億円以上かけて買収するなど大きな再編を進めています。さらに、こういった売却で得た資金を活用し、大型のM&Aも行っていて、こちらもかなり多数になります。
大きなところでは2020年にパワーグリッド(電力送配電)で大手のスイスのABB社からパワーグッド事業を総額1兆円以上かけて買収し、2024年5月末にもフランスのタレス社からは鉄道信号事業を、16億6000万ユーロをかけて買収を完了しています。
欧州市場では、グリーンエナジー&モビリティ事業が大きな規模を占めていましたが(統合報告書2024 P3参照)、それには、こういった大型買収も影響しています。さらに、2021年には1兆円をかけ製造業や医療などのデジタル化を行うアメリカのグローバルロジック社を買収しています。
近年は大型の買収も多数行ってきたことが分かると思います。こういった買収には、日立製作所が大きな構造改革で注力事業がはっきりしてきたことが影響しています。
グローバルトップ事業の育成
日立製作所はグローバルでも高いシェアを持つ製品やサービスを多数持ちつつも、なかなかトップの製品を持つことができていなかったため、グローバルトップの事業を確保するために動いていました。ABBからのパワーグリッド事業の買収により、変電所に使われる変圧器や直流送電システム、EAM(エンタープライズ・アセット・マネジメント)という運用ソフトで、現在日立製作所は世界トップになっています。
直流送電は再エネの普及にとって非常に重要な技術です。グリーン化を成長戦略の1つとする中で、世界トップの分野を作るために動いていたということです。またタレス社より鉄道信号事業を買収したことで、この分野でもグローバルでトップとなっています。鉄道関連でもグローバルで拡大していきたいということで、買収を進めたわけです。
課題:ITソリューションのグローバル展開
さらに、日立製作所はグローバルロジック社の獲得により、ITソリューション事業のグローバル展開も進めていこうとしています。
市場別の売上構成比率を見てみると、デジタルシステム&サービスの主力は国内で、海外市場では大きな規模を持てていません(統合報告書2024 P3参照)。この事業の海外展開は日立製作所にとっても課題の1つだったと考えられます。
そういった中で、グローバルロジックは2021年の買収時点では売上は1300億円ほどの企業でしたが、1兆円かけて買収を行い、人材や知見、顧客基盤の獲得を進めています。ちなみに2024年3月期時点ではグローバルロジックの売上高は2551億円で、円安の影響もありますが大きな成長を見せています。ITソリューション関連のグローバル展開は今の課題の1つと見られ、今後も注目です。
日立製作所が低収益事業からの積極的な撤退を進めた一方で、グローバルでの拡大や世界トップを取れる事業や分野の構築に大きく動いていたことが分かると思います。ちなみに、こういった大きな構造改革を進めた結果、売上がピークだった2000年代後半と現在では売上の30~50%ほどが入れ替わっているようです。
事業構造が大きく変化した事で、近年、売上はピークからは減少したものの利益面が大きく伸びました。
ポートフォリオの入れ替えを通じて収益性は高まっていますし、2024年3月期のセグメント別の売上と調整後EBITAを見ても、前期比で主力の3事業とも増加しています(2024年3月期 連結決算の概要 P19参照)。今後も期待ができる事業が中心で、堅調な業績が続くことが期待されます。
成長事業
全事業とも堅調な状況が期待できる日立ですが、特に成長が期待できそうな分野についてもう少し詳しく触れていきましょう。
もちろん、デジタルシステム&サービス事業は国内の積極的なDX投資や海外事業の成長も続く中で好調が見込まれますが、もう1つ大きな成長が見込まれる事業があります。それが、グリーンエナジー&モビリティ事業です。フランスのタレス社から鉄道信号事業の買収が完了したこともありますが、電力需要の拡大が起きていくことの影響が大きいです。
これまでは省エネ化によって、先進国の電力需要は下落トレンドとなっていて、それこそ日本では2007年をピークに電力需要の長期的な減少が続いていました。ですが、そのトレンドに転換を迎えたのがこの2024年です。
生成系AIの拡大や地政学リスクから、データセンターの建設や半導体工場の新設が相次ぐ中で、2024年度からは電力需要が増加することが見込まれています。再エネやオンサイト電源含め、発電設備の増加とそれに伴う送配電網の整備が見込まれますから、日立製作所でもパワーグリッド(送配電)関連の事業拡大が期待されます(Hitachi Investor Day 2024 CEO Remark P5、6参照)。
ABB社からパワーグリッド事業を買収し、電力関連で世界トップの分野を手に入れた日立製作所はかなり期待できる状況にいるのではないかと考えています。デジタルシステム&サービス事業やグリーンエナジー&モビリティ事業の成長には注目です。
ここまでのまとめ
・主力事業はデジタルシステム&サービス、グリーンエナジー&モビリティ、コネクティブインダストリーズ
・近年は大規模な構造改革を進めソリューションビジネスを拡大
・鉄道やエネルギー関連などの分野でのサービスが提供に強み
・「社会イノベーション」型のITソリューション事業拡大中
・Lumada関連の売上収益シェアが大きい
・日本市場が主力で、欧州や北米、中国でも一定の規模
・大きな構造改革が進み、注力事業が明確に
・ABBからのパワーグリッド事業の買収により、EAMで世界トップに
・タレス社から鉄道信号事業を買収したことでこの分野でもグローバルでトップ
・課題はITソリューション関連のグローバル展開
・デジタルシステム&サービス事業やグリーンエナジー&モビリティ事業の成長に注目
直近の業績
それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。今回取り上げるのは2025年3月期の第2四半期までの業績です(決算短信 参照)。
調整後営業利益:4047億円(+24.4%)
純利益:2923億円(+39.8%)
減収ながらも利益面は増益と好調です。

日立製作所2025年度2Q決算資料より
売上収益は減少していますが、これは自動車部品などを展開している日立Astemoの組織再編による影響で、主力の3事業は以下の通りで増収です。
①デジタルシステム&サービス:+10%
②グリーンエナジー&モビリティ:+33%
③コネクティブインダストリーズ:+2%
また、セグメント別の調整後EBITA(キャッシュを稼ぐ力)の前期比は以下の通りです。
②グリーンエナジー&モビリティ:+732億円
③コネクティブインダストリーズ:+213億円
組織再編が続いていて、その影響で売上は減少していますが事業自体は好調です。

日立製作所2025年度2Q決算資料より
では、どうして好調だったのかというと、デジタルシステム&サービス事業では国内のDX投資が堅調な影響が大きいです。

日立製作所2025年度2Q決算資料より
一方で第2四半期単体の地域別の売上の推移を見てみると中国や欧州が減収です。景気停滞を受けて欧州や中国ではデジタル投資の抑制が起きて、その影響を受けています。日立製作所の北米事業は伸びていますが、北米でも市場全体としては投資の抑制が起きているため注意が必要です。
成長を進めたい海外市況の停滞は日立製作所にとっても課題になっていますが、事業全体では主力の国内の旺盛なDX投資は続いていて、今後も堅調な業績が期待されます。

日立製作所2025年度2Q決算資料より
続いて、グリーンエナジー&モビリティ事業では、パワーグリッド関連の日立エナジーが、受注増に伴う増産体制整備による成長、さらに売り上げ増加に伴って生産効率が向上して好調です。鉄道システムもタレス社買収の影響などがあり拡大しています。電力需要拡大の中で、日立エナジーが大きく伸びていて今後も好調が期待されます。

日立製作所2025年度2Q決算資料より
第2四半期時点の受注残に関しても、デジタルシステム&サービスが1.6兆円、グリーンエナジー&モビリティは12.0兆円と多額です。さらに、データセンター需要やNVIDIAのAIテクノロジーを活用した鉄道関連の事業拡大など新たな事業機会の獲得も進んでいます。受注面も好調で、新たな需要も捉えていて今後も好業績が期待されます。

日立製作所2025年度2Q決算資料より

日立製作所2025年度2Q決算資料より
通期予想に関してもAstemoの組織再編で減収を見込むものの、増益が続く見込みで、Astemoを除いた売上収益や調整後EBITAは上方修正をしています。為替に関してはドル円の想定レートが140円で、第3四半期〜第4四半期の為替感応度は調整EBITAで5億円となっています。石破政権となって以降は、円安方向に推移しているため、為替面から想定以上の業績となる可能性もありますので為替面には注目です。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。