富士山の麓でサーモン 陸上で育つ新たな食材

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世界的な健康志向の高まりを背景にサーモンなどの魚の需要が増え、陸上養殖への注目度が高まっています。テクノロジーの活用で魚を安定生産でき、場所の制約が少ないなどのメリットがあるため、異業種の参入も相次ぎ、市場は盛り上がりを見せています。陸上養殖に力を入れる丸紅を中心に、各社の動向をご紹介します。

丸紅が陸上養殖アトランティックサーモンを販売開始

丸紅 」は2024年10月、ノルウェーのProximar Seafood(プロキシマーシーフード)が、富士山麓で陸上養殖するアトランティックサーモンの本格販売を開始したと発表しました。プロキシマーは静岡県にある日本最大級の陸上養殖施設で、地下水を使って育てたサーモンを「FUJI ATLANTIC SALMON(フジアトランティックサーモン)」の名前で売り出しています。丸紅は国内での独占販売権を持っています。

丸紅は2020年に、日本水産(「 ニッスイ 」)の子会社と共同でサーモンの陸上養殖を手掛けるデンマークのDanish Salmon(ダニッシュ・サーモン)に出資するなど、これまでも陸上養殖事業に取り組んできました。従来の海上養殖では海面に作った生け簀を使いますが、魚によって養殖に適した場所が限られることや、養殖魚の老廃物や餌の食べ残しによる海洋汚染のリスクが指摘されていました。

一方、閉鎖循環式と呼ばれる陸上養殖施設では、ろ過した水を循環させて使うため、飼育に使う水の量を抑えながら排水も管理し、環境汚染のリスクをゼロに近づけています。また閉鎖した環境で育つため、気候や環境の影響を受けにくく品質が安定します。

陸上養殖のメリット

・気候や環境の影響を受けにくく品質が安定
排水処理などの管理が可能
場所の制約がない

陸上養殖のデメリット

・停電のリスク
閉鎖空間でのウイルスや魚病の拡大リスク

電力会社も参入、敷地利用に活路

陸上養殖に着目する動きは異業種でも目立ちます。「 九州電 」の豊前発電所の敷地内にはサーモンの陸上養殖場があり、「みらいサーモン」が生産されています。九州電力は敷地の有効活用を検討した結果、養殖事業に乗り出しました。サーモンは九州電力などが共同出資する企業が育成しています。

同じく九州では、地元のテレビ局であるRKB毎日ホールディングスも関連会社を通じてサーモンの陸上養殖に取り組んでいます。

陸上養殖を技術面で支援する動きも活発です。「 岩谷産業 」は陸上養殖向けの水槽や酸素ガス、非常用発電機など関連商品を取り扱っています。陸上養殖分野の事業拡大に備え、研究所に新たな設備を導入するなど研究開発を強化しています。

日本電信電話(「 NTT 」)ではグループ企業のNTTグリーン&フードで陸上養殖に取り組むほか、NTTアクアでは陸上養殖システムを提供しています。メンテナンスが簡単なろ過装置や魚種に適した水温や水質などを確認できるICT(情報通信技術)プラットフォームを提供しており、未経験者でも魚の管理をしやすくしています。

魚が「陸」で育つのが当たり前の未来はそう遠くはないかもしれません。