J.フロント リテイリング【3086】ラグジュアリー商品の売上倍増で好調な百貨店を解説

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カエル先生の一言

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価値共創リテイラーへ ~J.フロント リテイリングの挑戦(個人投資家向け会社説明資料)
統合報告書2024
2024年2月期 決算および2024~2026年度 中期経営計画 説明会
2023年2月期 決算説明会
2025年2月期 中間期決算説明会
2025年2月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)
2025年2月期 第3四半期決算

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、J.フロント リテイリング株式会社の「価値共創リテイラーへ ~J.フロント リテイリングの挑戦」「統合報告書2024」「2024年2月期 決算および2024~2026年度 中期経営計画 説明会」「2023年2月期 決算説明会」「2025年2月期 中間期決算説明会」「2025年2月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」「2025年2月期 第3四半期決算」より引用しています。

今回は、2007年に大丸と松坂屋が経営統合し、2020年にはPARCOの完全子会社化も行い、大丸、松坂屋とPARCOの運営を主軸とするJ.フロント リテイリング株式会社をとりあげます。

事業内容と業績のポイント

それでは早速事業内容を見ていきましょう。

J.フロント リテイリングの事業セグメントは以下の通りです(価値共創リテイラーへ ~J.フロント リテイリングの挑戦 P8参照)。

①百貨店事業:大丸・松坂屋の運営
②SC(ショッピングセンター)事業:PARCOの運営
③ディベロッパー事業:不動産ディベロッパーとしての事業、ザ・ランドマーク名古屋栄や心斎橋プロジェクトなどが進行中
④決済・金融事業:クレカなど
⑤その他

大丸や松坂屋といった百貨店やPARCOなどのSC(ショッピングセンター)の運営を行う他に、その商業施設の開発能力を活かしたディベロッパー事業や、金融事業も展開しています。

全国の主要都市を中心に、大丸、松坂屋が15店舗、PARCOは16店舗を展開しています。

ちなみに、百貨店とSC(ショッピングセンター)の違いは、小売業なのか、不動産業なのかという点です。百貨店は自社で商品を仕入れて売る(実際には売るのと同時に仕入れが発生する消化仕入れという方法が取られています)という小売業なのに対して、SCは商業施設内のテナントから賃料を受け取るモデルになっています。

また、SCは不動産業なので、そこで働く従業員は各テナントが雇用していますが、百貨店で働く従業員は、百貨店に雇用されています(統合報告書2024 P94参照)。百貨店は15店舗、PARCOは16店舗ありますが、従業員の構成を見てみると百貨店事業が4310名に対して、SC事業は609名です。

そういったこともあり、業績が比較的安定しているのはSCです。コロナ禍で集客が落ち込む中でも一定の賃料収入があり、人件費も少なく済んだので、百貨店に比べると業績は悪化しませんでした。とはいえ、SCでも基本的には固定賃料に加えて、売上に応じた歩合の賃料も受け取っていますので、どちらの業態でも商業施設内の販売面が重要という点には変わりはありません。

続いて、2024年2月期のセグメント別の売上収益と(営業利益)の構成は以下の通りです(価値共創リテイラーへ ~J.フロント リテイリングの挑戦 P8参照)。

①百貨店事業:58.8%(54.8%)
②SC(ショッピングセンター)事業:14.2%(21.9%)
③ディベロッパー事業:19.3%(17.3%)
④決済・金融事業:3.2%(6.0%)
⑤その他:12.8%(3.2%)

SC事業やディベロッパー事業も一定の規模がありますが、百貨店事業が売上収益、営業利益ともに半分以上を占めています。SCもそうですが、特に百貨店にとっては運営している商業施設の動向が重要で、国内の消費動向に左右されやすい企業です。

また、2024年2月期の百貨店の売上は外商が26.5%となっていて、1/4ほどを占めています(統合報告書2024 P95参照)。主力の百貨店においては、外商を活用する富裕層の動向が重要です。

また、インバウンドの売上比率も近年は高まっています

百貨店:9.8%
PARCO:8.9%

2024年2月期時点で、百貨店とPARCOは、インバウンドが1割弱を占める規模となっています。

現在のインバウンドの活況さを考えるとさらに上昇していることが考えられます。今、日本は世界で唯一、ハイブランドが売れる市場という特殊な状況です。理由は中国人のインバウンドです。中国国内のハイブランド消費は大きく落ち込んでいますが、過剰気味な円安を背景に、中国からのインバウンドで売れているという状況なのです。

円安が続く中で、インバウンドの動向も重要になっていますから、為替の動向にも注目する必要があります。

それでは事業内容が分かったところで、近年の業績の推移を見ていきましょう。

2007年度以降の利益面の推移を見ていくと、リーマン・ショック時や新型コロナ禍では、業績を大きく落としていますが、それ以外の時期は400億円台で推移しています(価値共創リテイラーへ ~J.フロント リテイリングの挑戦 P10参照)。そして、コロナ禍からの回復が進む中で、2024年2月期には利益面は400億円台に回復し、営業利益はコロナ以前の2020年2月期を上回っています。

また、2025年2月期では過去最高の業績を見込んでいて、コロナ禍からの回復が進んだだけではなく、近年は以前を上回るほど好調です。

百貨店は各社とも好調で、三越伊勢丹などは2024年2月期時点ですでに過去最高益を達成しています。

2024年2月期の既存店の2019年度比の売上は以下の通りです(2024年2月期 決算および2024~2026年度 中期経営計画 説明会 P7、11参照)。

百貨店:+5.3%
PARCO:▲2.1%

主力の百貨店が好調です。2024年2月期の利益の増加要因を見ても、百貨店は外商顧客を中心に富裕層の消費が好調で、ラグジュアリー消費が活発でした。さらにインバウンド売上は第3四半期、第4四半期が好調で、過去最高の721億円でした(2024年2月期 決算および2024~2026年度 中期経営計画 説明会 P6参照)。

免税売上の推移を見てみると、2024年2月期では、上期は移動需要が十分に回復していない中で停滞していますが、特に下期にかけてはコロナ禍前を大きく上回り好調です(2024年2月期 決算および2024~2026年度 中期経営計画 説明会 P9参照)。

ラグジュアリー売上に関しては2019年度比で+97%で、富裕層の消費活発化や、円安でラグジュアリー商品が割安となっているインバウンドからの消費が増えることで、ラグジュアリー商品が売れやすくなっていることが業績に好影響を与えています(2024年2月期 決算および2024~2026年度 中期経営計画 説明会 P23参照)。

近年は外商に力を入れていますし、今後の取り組みとしても外商の拡大や高質・高揚消費層へのコンテンツ拡充として、ラグジュアリーの強化など、富裕層やインバウンドの拡大に力を入れていくとしています(2024年2月期 決算および2024~2026年度 中期経営計画 説明会 P35参照)。

コロナ禍を経て百貨店は富裕層向けの事業により大きく転換した姿勢が鮮明に表れています。

インフレが続く中で実質賃金の低下など、国内全体の消費では停滞感も見られますが、そういった影響を受けにくい富裕層や、円安でむしろ活況なインバウンドといった後押しを受け好調ということなので、今後もインフレなどが続く中でも百貨店は好調が期待されます。

年齢層別の売上を見てみると20~40代の比較的若い層の比率が2020年度では24.4%でしたが、2022年度には29.5%まで上昇しています(2023年2月期 決算説明会 P32参照)。

消費が旺盛な若い層の取り込みに成功しています。

外商の具体的な審査基準は明かされていないのですが、近年は様々な百貨店で外商顧客の入会基準が、納税額による基準から金融資産による基準に変わったとされています。コロナ禍の大規模な金融緩和で資産を大きく増やした方は多いです。

そういった中で、これまでは所得の多い企業役員や経営者などが主要顧客でしたが、投資などで金融資産を増やした比較的若い層を含む購買意欲の高い層の外商利用が増えています。こういった変化もあり好調だったということです。

その他にも、若年層への取り込みとしては「GINZA SIX」も重要です。この施設に関しては、20〜30代の売上が47%を占めています。百貨店と比べて顧客層が若い、ラグジュアリー商品を扱う施設です(統合報告書2024 P45参照)。若年富裕層との新しい接点として重要な施設であり、その動向には注目です。

また、もう1つ今後の業績のために重要な取り組みだと考えられるのは海外顧客の固定化です。

多言語対応のアプリなどを通じて顧客との接点拡大に努めています(2025年2月期 中間期決算説明会 P38参照)。これまでは、インバウンド顧客はその場での売り切りとなることが多かったわけですが、複数回、定期的に日本に訪れるような顧客もたくさんいますから、そういった層の接点を長期的に持つための取り組みを進めています(2025年2月期 中間期決算説明会 P39参照)。

海外在住顧客のアプリ会員は2024年2月期→8月の6か月で4万200→6万900まで増加し、成果を見せています(2025年2月期 中間期決算説明会 P38参照)。

好調の要因は富裕層やインバウンドだけではありません。コロナ禍で大きく苦戦した百貨店は大規模な構造改革を進めていました。結果として151億円の固定費削減に成功していますし、不採算事業からの撤退も進めています(2024年2月期 決算および2024~2026年度 中期経営計画 説明会 P23参照)。

さらに、投資余力も生まれ、店舗の改装にも積極的に取り組んでいます。松坂屋名古屋では、大幅なショップの入れ替えや展開面積を拡大する事で年間30億円の増益効果を見込んでいます(2025年2月期 中間期決算説明会 P31参照)。ラグジュアリー商品を売るためにも、店舗への投資は好影響が期待されます。

続いて、2024〜2026年度の投資計画を見ていきます。百貨店やSCへの積極的な投資だけでなく、最大の投資を見込んでいるのがディベロッパー事業です(2024年2月期 決算および2024~2026年度 中期経営計画 説明会 P55参照)。

ザ・ランドマーク名古屋栄、心斎橋プロジェクト、天神でのプロジェクトなど多くのパイプラインを抱えていて、今後の拡大が期待されます(2025年2月期 中間期決算説明会 P36参照)。

とはいえ懸念点がないわけではありません、それが為替です。円高方向に推移するとインバウンドの好影響が薄れる可能性がありますので、その点は注意が必要です。

ここまでのまとめ

・J.フロント リテイリングは国内の消費の動向が重要で、特に富裕層やインバウンドの影響、為替の影響を受けやすい企業
・移動需要が正常化したことに加えて、外商を通じた富裕層の消費が好調で、インバウンドの売上も好調
・2025年2月期以降はさらなる好調が期待される
・今後の長期的な業績を考える上で、若年層の取り込みに注目
・海外顧客の固定化の取り組みに注目
・コロナ禍で構造改革が進み、固定費削減の取り組みにより、生まれた投資余力で店舗改装等が進む
・大きな投資が必要なディベロッパー事業でも拡大が期待される
・為替に注意が必要

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回取り上げるのは2025年2月期の第3四半期までの業績です(決算短信より)。

売上高:3160億円(+10.3%)
事業利益:448億円(+46.1%)
営業利益:511億円(+66.7%)
純利益:370億円(+71.4%)

増収増益で過去最高益を達成と好調が続いています。事業利益以上に営業利益が大きく伸びていますが、これは株式段階取得差益が85億円あったという一時要因が影響しています。

とはいえ、それを除いた事業利益も46%もの増益で過去最高と好調です。さらに通期でも過去最高益を達成し、2026年度の目標としていた事業利益520億円も2年の前倒しで達成する見通しとなっています(2025年2月期 中間期決算説明会 P26、25参照)。

J.フロント リテイリング 2025年2月期3Q 決算説明会資料より

では、どうして好調だったのかを見ていきましょう。セグメント別の事業利益の前期比は以下の通りです。

①百貨店事業:+88.8億円(+49.1%)
②SC事業:+41.5億円(+53.5%)
③ディベロッパー事業:+33.6億円(+111.2%)
④決済・金融事業:▲4.6億円(▲21.1%)

金融事業は減益となったものの、百貨店事業の好調が続き、大きく伸びたことや、SC事業、さらに投資の拡大を進めていたディベロッパー事業も拡大していることが影響しています。

J.フロント リテイリング 2025年2月期3Q 決算説明会資料より

それぞれの事業の増減要因は以下の通りです。

①百貨店事業:富裕層やインバウンド消費拡大によってラグジュアリー消費の拡大、若年富裕層の外商売上の拡大などで、外商や免税売上が好調

J.フロント リテイリング 2025年2月期3Q 決算説明会資料より

②SC事業:インバウンドの支持拡大や店舗改装効果もあり、国内・免税取扱高が伸びて好調

J.フロント リテイリング 2025年2月期3Q 決算説明会資料より

③ディベロッパー事業:保有資産の売却益やホテル内装、百貨店内装工事などで好調

J.フロント リテイリング 2025年2月期3Q 決算説明会資料より

④決済・金融事業:取扱高は増えたものの、ポイント費用や採用強化などを進め減益

J.フロント リテイリング 2025年2月期3Q 決算説明会資料より

J.フロント リテイリング 2025年2月期3Q 決算説明会資料より

また、既存店のコロナ前の2018年度第3四半期比での売上は以下の通りです。

百貨店:+11.4%
PARCO:+5.9%

百貨店が好調なだけでなく、PARCOに関してもコロナ禍前を上回る状況となっています。富裕層とインバウンドの活況な消費が続き、消費が旺盛な若年層の取り込みも進んでいますし、さらに店舗の改装も効果が出ていて、想定通り好循環に入り好調だったことが分かります。

J.フロント リテイリング 2025年2月期3Q 決算説明会資料より

一方で、インバウンドの好調には為替が影響していますから、円高方向に推移した第3四半期は免税売上の停滞が見られています。石破政権となって以降は、改めて円安方向へ推移し、2025年1月現在でも円安が続いていますから第4四半期の免税売上は期待できそうですが、為替の影響を受けることが見て取れますので、今後も注意が必要そうです。

通期予想は、増収増益を見込んでいて第2四半期時点では上方修正も行っています(2025年2月期 中間期決算説明会 P13参照)。先行費用や構造改革費用を織り込む中で、下期だけでの利益は前期比で減益を見込んでいます。事業自体は好調が見込まれるものの、純粋な業績としては一時費用によって停滞が予想されるということですので、その点は注目です。

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」を日興フロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
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