バイオマスレジスト 最先端半導体向けに開発加速

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AI(人工知能)の普及などで性能の向上を競う半導体。その製造工程で使用される「有機フッ素化合物(PFAS)」は人の健康に影響があると指摘されていて、規制する動きが出ています。

規制対応と高機能化の両立で注目されるのが、生物由来の資源を活用した新たな材料です。王子HDを中心に各社の取り組みをご紹介します。

王子HDが最先端半導体向け材料に参入、「バイオマスレジスト」を成長の柱に

王子HD 」は2ナノ(ナノは10億分の1)メートル世代以降の最先端半導体向けの材料「フォトレジスト(感光材)」を展開しています。2024年12月、王子HDは、2028年の事業化を目指し、30年代には年100億円の売上高を目指すことを明らかにしました。

フォトレジストは半導体ウエハー上に塗り、光と反応させて回路パターンを形成するための材料です。従来はポリマーと感光剤、溶剤で構成するのが主流でしたが、回路の微細化が進み技術的な限界があるとされてきました。

より細かな回路を描写する次世代のEUV(極端紫外線)露光装置を使った最先端半導体の市場投入が27年にも始まるとみられ、王子HDは木質由来の「バイオマスレジスト」を成長の柱としています。

王子ホールディングスのバイオマスレジストの強み
・木質由来のバイオマス原料で環境負荷を軽減
・人の健康に影響するとされるPFASを使わない
・次世代EUV露光装置にも対応可能な高解像度

王子HDのバイオマスレジストの特徴は、環境への配慮と高性能を両立できること。従来のフォトレジストはポリマーだけでは反応が十分でないため、PFASを含む感光剤を加えることが多いのが実情です。

PFASは近年、欧州を中心に使用規制が進んでいます。王子HDのバイオマスレジストはポリマー自体の光の分解度が従来品よりも高く、感光剤を必要としません。添加物を必要としないためレジスト膜内の成分濃度を均一に保ちやすく、解像度の高いパターンを描写できます。

他社でも森林由来の材料開発が進行中

森林由来の素材開発は他社でも進んでいます。

大王製紙 」は木材から得られる繊維を微細化したセルロースナノファイバー(CNF)が半導体特性を持つことに着目。東北大学や東京大学、産業技術総合研究所と共同で半導体材料の開発に乗り出し、現在の高価なシリコンやレアメタルに代わる材料としての可能性が期待されています。

日本製紙 」はCNFを使った蓄電体の研究を進めています。CNFを使った蓄電体は、従来の化学的蓄電池で使うリチウムやレアメタル、電解液が不要で劣化しにくいなどの優位性を持っています。

村田製作所 」は、熱を効率的に伝える放熱材料でシリコン樹脂をバイオマス樹脂に置き換えた製品を開発。従来品の課題だった接点不良の解消や軽量化につなげています。

ZACROS 」は環境対応製品として、バイオマス原料を配合した光学用粘着フィルムを展開しています。

化合物の独壇場だった電子材料分野で、バイオマス由来の材料が選択肢になる未来は近いかもしれません。