株式市場で「防衛」関連株が買われています。QUICKが選定する関連銘柄の平均上昇率は15.7%と、東証株価指数(TOPIX、1.0%)を大きく上回りました(3月7日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します!
ウクライナ情勢緊迫、米国の日本への防衛費増額要求で思惑
上昇のきっかけの1つはウクライナ情勢の緊迫化です。2月28日に開かれた同国のゼレンスキー大統領とトランプ米大統領の首脳会談が決裂し、米国がウクライナへの武器供与を一時停止しました。
また、今月6日には、欧州連合(EU)が、トランプ米政権による防衛増強の要求に応じる形で、「再軍備計画」を推進すると大筋で合意。この計画では、各国が国防予算積み増しを可能にするためのルールが緩和されます。
さらに、ドイツは国防費の増強に向けて厳格な債務抑制策を緩和します。
2つ目は日本の防衛費が増えるとの思惑です。米国防総省の国防次官(政策担当)に就く見通しのエルブリッジ・コルビー氏が4日、日本の防衛費について「国内総生産(GDP)比で3%まで引き上げるべきだ」と指摘しました。
トランプ氏も6日、「米国は日本を守らなければならないが、日本はどんなことがあっても米国を守る必要がない」などと日米安全保障条約に不満を示しました。
欧州各国や日本の国防費が増額されれば、防衛事業はウクライナ支援にとどまらない長期的な需要拡大につながります。相場全体は不安定でしたが、関連銘柄に資金が向かいました。
防衛装備庁との契約額トップ【三菱重工業】
上昇率首位の「 三菱重工業 」は防衛が主力事業の一つで、自衛隊向けの戦闘機や艦艇、防空用の迎撃ミサイル「パトリオット」向けの誘導機器などを製造しています。
2023年度の防衛装備庁との契約額は関連企業でトップの1兆6803億円と、2位に4倍超もの大差を付けました。同社は英国やイタリアの政府や企業と共同で次期戦闘機の開発にも取り組んでいます。
防衛の売上高2.5倍へ【IHI】
上昇率2位の「 IHI 」は防衛用のロケットモーターや艦艇のガスタービン、防衛省向けの航空機エンジンなどを手掛けています。
同社は防衛事業の売上高を31年3月期までに2500億円と、23年3月期比で2.5倍に拡大する目標を掲げています。防衛省が掲げる「防衛力の抜本的強化」に沿った事業展開を進めます
大砲や小銃メーカーも上昇率上位に
「 東京計器 」は戦闘機のパイロットに警報を与える「レーダー警戒装置」や艦艇向けのコンパスなどの防衛製品を手掛けています。
「 日本製鋼所 」は自衛隊向けの大砲やミサイル発射装置などを製造しています。
「 豊和工業 」は小銃メーカーで、防衛省や自衛隊向けの製品を手掛けています。
日本の防衛費増額は安全保障上重要なことと考えられ、関連企業にとっては国策に沿った事業拡大といえるでしょう。
日本が防衛費をさらに拡大するかは不透明
激変する国際情勢に対応しようと政府が22年末に策定した計画で防衛費を拡大する方針を示したのもあり、防衛は注目されやすいテーマです。過去にも米戦闘機の国内整備を拡大するとの報道などをきっかけに物色されました。(『国際情勢に対応し整備を強化 「防衛」関連株が上昇』)
ただ、米国からの防衛費の増額要求に、日本が実際に防衛費のさらなる拡大に応じるかは不透明です。石破茂首相は「防衛費は日本が決めるもので、他国に言われて決めるものではない」と従来の姿勢を繰り返しました。トランプ氏は安全保障を交渉の材料にしているとみられ、発言内容が二転三転する可能性もあります。交渉の動向をきちんと見極めたうえで投資判断をしていきたいですね。