音声メディア「Voicy」で、「10分で決算が分かるラジオ」を毎日配信中の「妄想する決算さん」が、日経225・グロースコア・スタンダードコアの企業を1社ずつ取り上げる人気連載を日興フロッギー版としてスタート! 読むだけで、知らず知らずのうちに主要な株価指数に採用されている企業についてわかるようになる決算解説。日興フロッギー版ならサクっと5分でチェックできます!
2025年3月期 第3四半期決算説明
統合報告書2024
2024年3月期 決算説明会
ホームページ(財務ハイライト)
インド市場の現状とスズキの展望Japan Mobility Conference 2023
2030年度に向けた成長戦略説明会
インド事業Web説明会資料
2019年3月期 決算説明会
2023年3月期 決算説明会
2025年3月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕連結
今回取り上げるのは、自動車やバイクメーカーとしてよく知られているスズキ株式会社です。国内では2024年の軽自動車販売台数が37.9%のシェアを持つトップの企業です(2025年3月期 第3四半期決算説明 P8参照)。
2025年3月期に、多くの自動車メーカーが減益を予想する中で、スズキは増収増益の予想で上方修正も行っています。今回は、スズキはどのような会社で、なぜ好調なのかも含めて見ていきましょう。
事業内容
それではまずは事業内容です。
スズキの事業セグメントは以下の4つです(統合報告書2024 P79参照)。
②二輪車事業
③マリン事業:船外機(駆動装置・かじ・燃料タンクなどが一体となっている船を動かす機械)
④その他事業
四輪や二輪車を展開する他に、船外機も展開しています。
2024年3月期時点でのセグメント別の売上高と(営業利益)の構成は、以下の通りです(2024年3月期 決算説明会 P8参照)。
②二輪車事業:6.8%(8.4%)
③マリン事業:2.1%(5.4%)
④その他事業:0.2%(0.7%)
※()内は営業利益の構成比率。売上高、営業利益の構成比率は、妄想する決算が算出。
二輪車事業やマリン事業も一定の規模がありますが、主力事業は四輪車事業で、自動車市場の動向によって業績が左右されやすい企業です。今回は主力の四輪車を中心に見ていきましょう。
市場別売上高構成
2024年3月期時点の市場別の売上構成比率は、以下の通りです(ホームページ/財務ハイライト 参照)。
②インド:41.6%
③アジア:6.7%
④欧州:13.0%
⑤北米:2.0%
⑥その他:12.3%
インドが4割を占める主力市場で、国内も1/4ほどを占めています。スズキは2012年には北米、2018年には中国から撤退したことで現在のような売上高構成となり、国内やインド市場の動向に業績が左右されやすくなっています。
また、海外比率が高いこともあり為替の影響も大きいです(2024年3月期 決算説明会 P30参照)。2023年度の主要な通貨の1%の円安に対する営業利益への影響は以下の通りです。
インドルピー:+38億円
米ドル:+13億円
ユーロやインドルピーの影響を大きく受けますから、為替の動向には注目です。主力市場についてもう少し詳しく見ていきます。
日本市場の販売台数の構成比率は、以下の通りです(統合報告書2024 P81参照)。
②登録車(普通車):18.1%
※妄想する決算氏が、販売台数から構成比率を算出
軽自動車が8割を占め、国内は軽自動車の需要に業績が左右されやすいことが分かります。
続いてインド市場の主力車種は以下の通りです(統合報告書2024 P81参照)。
SUV:24.7%
Compact:46.2%
Mini:7.9%
近年はSUVが伸びて、大きな規模を持つようになっていますが、CompactやMiniで半分以上を占め、小型車に強みがあります。
また生産台数に関しても、インドが60.7%(妄想する決算氏が販売台数から構成比率を算出)を占める主力市場で、インド市場は生産面でも重要市場となっています(ホームページ/財務ハイライト参照)。
インド市場に強みを持つ理由
スズキのインド事業は歴史が長いです。インド政府は自国の自動車産業成長のために外国の技術力確保を進めていました。そういった中でスズキは1981年にインドの国営企業マルチ・ウドヨグと合弁会社を設立し、「マルチ・スズキ」という会社を設立しインド事業を開始しました。
インドに拠点を作り、ローカライズして商品を展開することで、大きく成長を遂げてきました。デザインはもちろん、例えば舗装があまりされていない道を走るために、車高の高い商品を作るなど、ローカライズを行ったそうです。その他の多くの自動車メーカーは、自動車が売れやすい所得水準の高い先進国向けに製品を作ってきましたから、こうしたローカライズが大きな強みとなりました。
さらに、スズキは日本でも軽自動車に強く低価格の小型車に強みがありますから、所得水準の低いインドにマッチして大きな成長を見せてきました。
その結果、マルチ・スズキは2023年度時点でのインド市場における販売台数では41.6%を占めるトップシェアの企業となっています(2024年3月期 決算説明会 P12参照)。
また、インド市場は今後も大きな成長が期待されています(インド市場の現状とスズキの展望Japan Mobility Conference 2023 P7参照)。人口が非常に多いですから、経済成長と共に自動車を購入する層が増加して市場の拡大が期待されます。またそれだけでなく、より高付加価値製品も売れるようになっていくことも期待されます。
実際にインド市場でも急速にSUVの構成比率が増加しています(インド市場の現状とスズキの展望Japan Mobility Conference 2023 P12参照)。SUV自体の人気が高まっている影響で、コンパクトカーから大型のSUVに需要が移行しています。販売台数に関しては、2022年度の乗用車市場は389万台でしたが、2030年度では600万台の市場になる事を見込んでいます(インド市場の現状とスズキの展望Japan Mobility Conference 2023 P16参照)。
そういった中で、スズキは市場拡大に対応するために、2022年度比で約2倍となる400万台の生産能力確保に向けて投資を進めています(インド市場の現状とスズキの展望Japan Mobility Conference 2023 P17参照)。市場が拡大する中で、生産能力を増加することで成長が期待できる状況と考えられます。その一方で、競合環境の激化が考えられます。まずは、自動車の輸出大国となった中国企業の進出があります。実際に東南アジア市場では、中国メーカーはかなり力を入れて大幅な値下げもしつつ展開を進めています。
舗装された道路が増えたり、また経済成長により高単価の自動車が売れやすくなればなるほど、スズキの戦略であるローカライズと低価格の強みが弱まる点や、他の大手企業の参入が容易になることが考えられます。
といっても、インドはインフラ整備も遅れていますし、経済成長が進んでいるといっても低価格の製品需要は大きいため、マーケット拡大と共にスズキの成長は続くことが期待されます。ただし、競合の動向には注意が必要です。
また、同社はインドにローカライズし、舗装の悪い道でも走りやすい低価格の製品を作ってきたことで、実はインドだけでなく多くの新興国で市場トップシェアをとっています(2030年度に向けた成長戦略説明会 P8参照)。
例えば市場シェアが44.5%あるパキスタンは人口が世界5位です。新興国では人口増加が続いている国や人口の多い国が多数あります(統合報告書2024 P83参照)。こういった国でも経済成長が進む中で、需要の拡大が期待できそうです(2030年度に向けた成長戦略説明会 P10参照)。
また、先進国市場ではEV化が進んでいくことが予想されますが、新興国ではその進捗は遅く、2030年でもインド市場では内燃機関の自動車のシェアが60%を維持する見通しです(統合報告書2024 P18参照)。日本の自動車企業の強みである内燃機関を維持できる、というのもマーケットシェアの維持に役立つでしょう。
業績の推移
事業内容が分かった所で、近年の業績の推移を見ていきましょう。
まず、売上高の推移です。2019年3月期までは拡大傾向が続いていますが、そこから2022年3月期までは低迷し、2023年3月期以降は大きな成長を見せています。
営業利益の推移は、2018年3月期までは成長が続いていますが、2019年3月期は若干の減益となり、そこからは2022年3月期まで大きく低迷しています。ですが、売上同様に2023年3月期以降は回復し、2024年3月期は過去最高を更新しています。コロナ禍での停滞から回復し、ここ2年間は好調です。
インドの金融市場には注意
2020年3月期はコロナの影響が少ないながらも苦戦していました。これには主力のインド市場が影響しています。この時期のインド経済の成長が停滞したことや、シャドーバンキング※が提供していた資金の流動性縮小による影響も大きいです。
2022年4~9月時点のインド市場は、ローンの利用率が80.9%で、金融市場の影響も受けたため(インド事業Web説明会資料 P13参照)、金融市場が縮小すると自動車販売に影響が出ました。そんな中で2018年にシャドーバンキング大手企業が不正疑惑によって破綻し、資金調達コストが増加する中で多くのシャドーバンキングの流動性が縮小し、自動車販売は落ち込んでいました。2024年の10月17日にも、インドの中央銀行がシャドーバンキングのリスク抑制のために、顧客への高利払い請求を理由にMUFG(三菱UFJ)が出資する企業も含め、新規融資の承認停止を命じたことがニュースとなっています。
また、2023年3月期以降は好調でした。コロナ以前の2019年3月期→2024年3月期の販売台数を比較してみると以下の通りです(2019年3月期決算説明会 P15、2024年3月期決算説明会 P9参照)。
②欧州:27.8万→23.6万台
③インド:175.4万→179.4万台
④アジア(除インド):38.4万→17.8万台
⑤その他:18.6万→28.6万台
実はインド以外は販売台数では2019年3月期を下回っていましたが、円安によって好調でした。それに加えて値上げも進みましたし、インド市場ではSUV比率の上昇による単価上昇もありました。
2024年3月期には日本市場でも、スペーシアカスタム、スイフトなどの上級グレード車が売れることによる好影響も出ています(2024年3月期決算説明会 P11参照)。
2022年3月期から2024年3月期までの営業利益の変動要因を見ると、為替の影響が計1834億円、値上げ等に伴う売上構成の変化などの改善による影響が計2002億円ありました(2023年3月期 決算説明会 P6、2024年3月期決算説明会 P7参照)。
また、好調の要因はそれだけでなく、2024年3月期は国内で軽自動車の販売が大幅に伸び好調でした(2024年3月期 決算説明会 P11参照)。特に第4四半期(2024年1~3月)で大きく売上が伸びています。
これにはダイハツがエンジンの型式認証不正の問題によって、2023年12月~2024年5月まで工場の稼働を停止した影響が出ています。こうした影響もあり、2023年度はスズキが軽自動車の販売台数でダイハツを抜き18年ぶりのトップとなっています。この影響は2025年3月期でも出ていますから好調が続くことが期待されます。
ここまでのまとめ
・主力事業は四輪車事業で、二輪車事業やマリン事業も一定の規模がある
・市場はインドが4割で、国内シェアも全体の1/4シェア
・国内の販売台数は軽自動車が8割、インド市場でも小型車の販売に強み
・インドでは、今後も販売台数の増加と高付加価値製品の比率上昇による成長が期待できる。一方で金融市場は不安定
・パキスタンなど多くの新興国市場で強みがある
・全体の販売台数に関しては、コロナ禍以降は停滞した状況が続いているものの、為替やより高付加価値製品が売れるようになって好調
・今後も為替と販売面の回復に注目
・軽自動車の販売が好調
直近の業績
続いて直近の業績を見ていきましょう。今回取り上げるのは2025年3月期の第3四半期までの業績です(決算短信より)。
営業利益:4797億円(+29.2%)
純利益:3117億円(+31.5%)
増収で大幅増益と好調が続いています。

スズキ 2025年度3Qの決算資料より
営業利益の変動要因を見ていくと、為替に加えて売上構成の変化による好影響が続いています。前期からの値上げや高価格帯モデルの販売などの取り組みの成果が見られます。

スズキ 2025年度3Qの決算資料より
続いて、販売台数の推移は以下の通りです。
①日本:+4.7万台(+10.1%)
②欧州:▲2千台(▲1.4%)
③インド:▲3千台(▲0.2%)
④アジア:+7千台(+5.6%)
⑥その他:+3万1千台(+14.5%)
インドと欧州は減少していますが、それ以外の地域では伸びていて、特に日本市場が大きな成長を見せています。

スズキ 2025年度3Qの決算資料より
アジア市場ではパキスタンが+2.1万台と好調でした。パキスタンの主力の輸出品には小麦や果物、野菜などの一次産業がありますが、それらが豊作だったことにより個人需要が旺盛でした。パキスタン市場では、一次産業の動向にも注目です。

スズキ 2025年度3Qの決算資料より
また、日本市場が伸びた大きな理由は、軽自動車の増加です。新型スペーシアなど新製品が好調でした。インフレで軽自動車人気が高まっていたことも影響していると考えられます。さらに、先述したように、ダイハツがエンジン認証不正によって生産が停滞した影響があり、2024年の暦年の軽自動車の占有率は37.9%まで上昇しました。

スズキ 2025年度3Qの決算資料より

スズキ 2025年度3Qの決算資料より
インドでは販売台数が減少し生産調整を行った時期もありましたが、マルチ・スズキは現地通貨建てでも業績自体は増収増益となっています。マルチ・スズキは輸出もしていますから、それによる好影響もあって、SUVの販売は拡大し、高付加価値製品の拡大による好調が続いていると考えられます。さらに、2024年12月に関してはインドの四輪車の販売台数は過去最高の25.3万台となり、市場占有率も50.2%と大きく伸びて好調です。市況の改善が進むことで、今後も好調が期待できそうです。
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※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。