デンソー【6902】妄想する決算が、デンソーの沼田サステナ・IR課長を直撃取材!

日興フロッギー版 妄想する決算/ 妄想する決算

カエル先生の一言

人気連載「日興フロッギー版 妄想する決算」の妄想する決算さん(以下、敬称略)が、株式会社デンソーのサステナ・IR課長の沼田英人さんを直撃取材します!

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「デンソー【6902】自動車部品メーカーでも、好調で成長も期待されている理由

妄想:今日は自動車業界の市場動向や、デンソーが、今どんなことに取り組んでいるかなど、詳しくお聞きしたいです。直近では、合理化・インフレ対応力強化などの影響により業績は好調だと思いますが、どういった取り組みが進んでいるのでしょうか。今後もその好影響は続きますか。

デンソーのサステナ・ IR課長の沼田さんと妄想する決算さん

車の在り方が変わっても大切なのは、「環境」と「安心」

沼田課長:現在、弊社の経営における大きなテーマとして、「事業ポートフォリオの変革」があります。「環境」と「安心」という2つの軸に沿ってビジネスをしっかり伸ばし、事業収益を高めていくことがポイントとなります。クルマの電動化や、知能化により、クルマの付加価値はどんどん変化してきましたが、こうした急激な変化の中でも、市場ニーズに応える製品を生み出していくことが大事になってきます。移り変わりが激しい状況だからこそ、多様なニーズに応えられる豊富な品揃えと、合理化努力によって、さらに社会に貢献できる事業運営にすることで、収益性の向上を実現します。

妄想:ポートフォリオを変革していくとなると、一般的なイメージとしてはコストが肥大化していくのではないかというイメージがあります。

沼田課長:そうですね。固定費のコントロールは大事になってくると思います。環境と安心を軸として、注力すべき領域を見極め、リソースを集中投入することで収益を生み出し続けられる、より強靭な事業体質にしています。

デンソーの2030年長期方針

妄想:内燃機関製品も未だ市場には需要があり、収益性向上に繋がっている側面もあると思いますが、それでも内燃機関向けの投資は減らしていくんですね。内燃機関製品の売上は、どのぐらいの期間をかけてなくなっていくのでしょうか。

沼田課長:内燃機関向けのビジネスは、全社の売上の大体3割を占めていますが、電動化の進展により毎年大体10%位ずつ物量を減らしています。電動化や安全支援製品など、注力している”環境/安心”関係の売上を伸ばしていくのに伴い、今後も2035年ぐらいまでのスパンで、もう一段、内燃機関向けの売上比率は下がっていくと思いますが、この売上が0になるのはまだ当分先の話です。自動車のビジネスは一つ一つの製品ライフサイクルが非常に長く、顧客への供給責任も果たしていかねばなりません。事業ポートフォリオの変革との両立が求められるため、比較的息の長い活動になると思います。

妄想: EV(電気自動車)市場が停滞していますが、その影響や今後の見通しを教えてください。

沼田課長:各国でのEV化の進展度合いには濃淡がありますが、長い目で見れば、HEV(ハイブリッド車)や PHEV(外部から電源をつないで充電できるプラグインハイブリッド車)やBEV(バッテリー式電気自動車)といった、車両における電動化の動きはグローバルに進んでいくと見ています。デンソーは、HEV、PHEV、BEV向けのいずれの製品ラインナップも豊富に揃えているため、市場環境が変化し、BEVの普及が遅れたり、HEVが増え続けたりしても、ビジネスとしては影響を受けにくい事業構造になっています。ものづくりにおいても、HEV向け製品とBEV向け製品を共通ラインで流せるような設計とすることで、設備投資を抑制する工夫もしています。

妄想:業績にとっては、自動車の台数が伸びることが、いちばん重要なのでしょうか。

沼田課長:そうですね。生産台数が増えることはもちろん大事ですが、電動化によって内燃機関の車がBEV、HEV、PHEVに切り替わっていく局面では、我々の電動化やそれ以外の製品の搭載機会が増えていきます。例えばBEVの中で、電気を蓄えるバッテリーとタイヤを回すためのモーターを繋ぐインバーター※や、交通死亡事故を減らすためのADAS※製品も普及してきています。

インバーター:電動車の主な部品として、電気を蓄えるバッテリー、タイヤを回すためのモーターに加え、インバーターが搭載されている。バッテリーからの直電流を、モーターを動かす交流電流に交換するための装置がインバーター

ADAS(先進運転支援システム):ドライバーが自動車を運転する際に、できるだけ事故を回避し、快適に目的地にたどりつけるよう支援する機能を充実させる、という発想

このように、我々が新しい価値を提供する場面が増えてきます。実際、世界で自動車の販売台数が伸び悩んでいるここ数年でも、弊社で電動化やADAS関連の製品を中心に扱っている事業グループの売上は順調に伸びています。

妄想:直近の業績では、内燃機関と電動化製品の両方が搭載されているHEVやPHEVが好調だということです。長期的な影響を考えた際には、今のHEV/PHEV人気の状況が続く方がいいのか、それともBEV化が進展していく方がいいのでしょうか。

沼田課長:基本的にはHEV向け製品は、我々にとっては生産の歴史が長く、経験も製品群も豊富にあるため、デンソーにとっては追い風になると思います。もちろんBEV向け製品も豊富に揃えていますし、内燃機関自動車が残ったとしても、研究開発費や設備投資の投入を最小化して効率を高めることで、収益を生み出すことができます。

妄想:自動運転や運転支援システムも普及して進歩していると思いますが、今のマーケット環境でいうと需要はどのぐらいあるのでしょうか。今後の見通しなども教えてください。

沼田課長:足元では、ADASの重要性は高まっています。デンソーが掲げる事業の軸である、”安心”は、交通事故死亡事故を0にすることが究極の目標です。その実現のためには、製品機能そのものを高めることも大事ですが、同時に普及させることについても考え抜く必要があります。一部の高いグレードの車だけにそういったシステムが付くというのではなく、街を走る様々な車種に搭載できる、手が届くものにすることが重要で、そういった製品開発をしっかり進めています。

自動運転の未来は?

妄想:今のマーケット環境において、電動化関連の製品と、自動運転、運転支援関連の製品ですと、どの需要が大きいという感触をお持ちですか。

沼田課長:規模感からすると、今は電動化関係製品の伸びが最も大きいです。ただ30年以降の中長期スパンで考えると、AD(自動運転)・ADAS(先進運転支援)も一緒に伸びてくるという感じですね。

妄想:御社のイメージとしては、自動運転などはいつ頃までにどの程度普及して、いつ頃から需要が本格化していくと見ているのでしょうか。

沼田課長:ここは色々見方があって難しいところですが、おそらく2035年という時間軸で見ても、自動運転の車はまだ世の中の道路を埋め尽くしてはおらず、普及するのはもう少し先かなと思います。我々としては、まず足元のADASのビジネスで交通事故死亡者の低減に着実に貢献することが必要だと思っています。

車やモビリティから広がる新たなビジネス?!

妄想:今後しばらくは新興国の成長などで自動車のマーケットは伸びていくと予想しますが、その一方で、自動運転になるとMaaS※化などで自動車1台当たりの稼働率が上がって、もしかしたら新車マーケット自体は小さくなるんじゃないかとも思うのですが、長期的にはどう見ていますか。

MaaS(マース:Mobility as a Service):地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス

沼田課長:クルマの事業、市場が成長するスピードは、長期的に見ればいずれ減速するだろうと思います。それに対する取り組みとして、モビリティだけでなく新たな事業領域でのビジネスに今から着手しています。クルマで培った技術は、社会の様々な場面で活かすことができます。例えば、「エネルギー」や「食農」※といった事業領域です。施設園芸に我々の技術を織り込み、社会課題の解決に貢献すべく、取り組んでいます。

デンソーが考える「食農」:人々の暮らしの根幹である食生活を支え、世界中の誰もが、いつも、いつまでも、安心・安全な“食”を教授できる未来

デンソーの新価値創造「食農」

妄想:今いくつかご紹介いただきましたが、具体的に取り組みが始まっていて、今後展開が見られそうなものはありますか。

沼田課長:色々ありますが、例えば食農においては、空調制御技術を活用した生産効率の向上や、農業の人手不足においても、生産量を確保するための収穫ロボットを作ったりもしています。また我々は本来食物を育成するノウハウを持ち合わせていなかったので、オランダのセルトンという会社を買収し、パートナーと共に着実な成長を歩み始めています。

妄想:直近のマーケット環境ではヨーロッパ向けが伸び悩んでいらっしゃいますね。

沼田課長:今年度は欧州系の自動車車両メーカーの販売不振の影響を受けておりまして、いくつか我々のお付き合いの深い農建機向けの販売不振が一部あるなど、いくつか理由はありますが、こういった物量の変動にも対応していくため、徹底的なの固定費の徹底的な削減には着手しています。

中国市場をどう攻略する?

妄想:中国の自動車市場については、BYDなど自国の自動車メーカーが台頭して、外資系が軒並みシェアを落としている状況だと思います。御社としては、今後の中国市場に対する見通しや今の市場環境についてどのようにお考えですか。

沼田課長:中国市場は移り変わりが激しく、スピード感を持った舵取りを求められる市場です。中国の地場系のメーカーとのビジネスを拡大していくことは、重要なポイントとなります。足元では、市場成長が見込まれる中、日系の自動車メーカーは販売台数の拡大に苦戦しています。日系のビジネスだけに頼らず、中国地場のビジネスと戦って、シェアを取っていけるかが重要になってきます。

我々もすでに中国の地場のメーカーと合弁会社を作って、現地流のものづくりや仕事の進め方、商習慣等を学びながらビジネスをしています。現地の部品会社を買収したこともありまして、中国地場の自動車メーカーへの販売ルートの開拓など、進めています。我々は技術で勝負する会社だと思っていますので、一時的に売上を伸ばすためにたたき売りする気はなく、末永く我々の技術を認めてもらえる自動車メーカーとしっかり手を組んで、事業を拡大していくことを目指しています。

妄想:中国でマーケットを拡大するには、中国に工場を作らないとなかなか難しいということでしょうか。日本や海外で作ったものを中国に輸出することで拡大することはできないのでしょうか。

沼田課長:中国で作られている部品を上手く使って、品質を担保しつつ、現地のリソースを使いながらビジネスをすることは、重要です。中国側としても、国産化の期待値は高く、現地生産の優遇施策などもあるので、中国以外で作ったものでビジネスをするのはなかなか難しいと思います。域外からの輸入だけでは、多分中国では戦っていけないと思います。現地の部品や労働力を活かして、中国流の戦い方も取り入れることが重要です。

注目は電動化とADAS

妄想:今伸びている製品、期待している製品についても教えてください。

沼田課長:やはり、まずは電動化製品とADASですね。我々の事業ポートフォリオ変革の核になる部分です。また、これら製品の競争力を支えるのが、半導体やソフトウェアです。クルマがネットワークを介して社会と繋がり、クルマ自体の制御もどんどん高度化していく中、クルマに搭載したセンサーでデータを集め、それを解析し、クルマをどのように動かすかを判断する車載ECU※の役割は、重要になってきます。

ECU:Electronic Control Unitの略称で、車両のあらゆるシステムを制御する装置の総称

ECUには当然その頭脳となる半導体が積まれていますので、より良い半導体を作る必要があります。そしてそれを実際に動かすのがソフトウェアです。クルマは色々な情報を集め、解析・判断するので、一瞬の遅れもなく、スムーズに物を動かす必要があります。もう少し分かりやすく言うと、パソコンや携帯電話を使う際、「今日はパソコンの調子が悪くて動作が遅い」とか、「携帯電話の電源が突然落ちた」というような話をよく耳にしますが、車でそれをやると本当に大事故に繋がってしまいます。そのため、クルマの制御では、反射的に判断し、多種多様な外部条件の元でも影響を受けずに、セキュリティも担保しながら正しく動かさなければなりません。これを実行するソフトウェアには大きなノウハウが必要で、新規参入してくるITベンダーには、簡単に真似できることではありません。

我々は何十年もの間、クルマのECUやソフトウェアを開発してきていて、ノウハウを蓄積してきました。クルマの機能が高度化していく中で、ソフトウェアや半導体をうまく使いこなすためのノウハウを、様々な部品の開発・生産を通して学んできました。我々のような総合システムサプライヤーにしかできないことは多いと思います。こうした取り組みを通して、自動車メーカーやエンドユーザーに信頼される製品開発をしていきます。

妄想:今の自動車メーカーは部品の部分でも内製化の動きは進んでいく流れでしょうか。それとも水平分業の流れが一般的なのでしょうか。

沼田課長:部品の種類や、自動車メーカーの考え方にもよると思いますが、例えばテスラやBYDは、内製化を進めて、部品の付加価値をどんどん取り込んでいます。しかし、クルマの高度化が進むにつれ、ソフトウェアなどの開発には莫大なリソースが必要になります。我々はこれまでも様々なECUを作ってきたので、たくさんの開発資産をもっています。自動車メーカー側で抱えきれないソフトウェアの開発を、必ず支えることができると思います。

車の動かし方、制御連動を知り尽くしているデンソーに勝機アリ

妄想:競合他社が数多くあると思いますが、今の環境で言うと、どういった点が御社の競争力の源泉になっているのでしょうか。

沼田課長:これからますます重要になってくる、クルマの頭脳であるECUやソフトウェアの部分でしょうか。様々な部品を作ってきたサプライヤーは、より高付加価値な機能提案ができるため、単品のビジネスではなく、システムとして製品を作れるようになってきます。つながるクルマやADASの浸透に伴って、車両の制御が複雑になるにつれ、車両全体を把握し、価値を提案できる当社の競争力が高まっています。

妄想:今後の競合環境としてはある程度数が絞られていくと思うのですが、最終的に何社ぐらいでの争いになるようなイメージを持たれていますか。

沼田課長:特殊なセンサーを作るなど特定の機能に特化した会社は残ると思いますが、多くの機能は電子化され、統合・集約化されていくと思います。

妄想:多数の部品メーカーがある日本でもそういった集約や統合が進むと思いますが、そういった中で御社はどういった立場や役割を目指しているのでしょうか。

沼田課長:クルマがより高度な制御を必要とする中、クルマを安定して機能させるためには、ECUやソフトを通し、我々がこれまで培ったノウハウを着実に安全に車両に実装していく必要があります。

我々にはトヨタ、海外メーカーを含め沢山の顧客がいます。様々な自動車メーカーに対してソリューションを提供してきましたし、これからも提供し続けなければならないと思っています。自動車メーカーのニーズに合わせて、システムであったり、コアとなる部品であったり、ソフトウェアのみであったり、様々な形で柔軟にクルマの進化に貢献していかねばなりません。色々な製品の品揃えによって、自動車メーカーと共に発展していける関係を築いています。

妄想:これまで各自動車メーカーさんは部材を系列メーカーで作ってきたと思いますが、それをデンソーさんに切り替えるというのは現実的な話なのでしょうか。

沼田課長:クルマのサプライチェーンは、大変裾野が広いことが特徴です。急激なサプライチェーンの変化は、元々それをつくっていた部品メーカーの経営状況に多大な影響を与えることになります。これによって、1つでも部品が作れなくなると、途端に車が作れなくなってしまうリスクがあります。自動車メーカーとしてもサプライヤーの経営状況も見ながら、切り替えを進めています。ですので、一気に流れが変わるというより、徐々に徐々にサプライチェーンは変化していくのだと思います。

妄想:ありがとうございました。

妄想する決算の取材後記(まとめ)

自動車の複雑化、高度化が進む中でクルマ全体の知見を持った部品メーカーの必要性が増し、一定の統廃合が進んでいく業界ということで、豊富な製品ラインナップを保有し、多くの知見を持って事業を展開できている点は、今後も大きな強みになると考えられます。
そういった変化の中で、まずは電動化やADAS関連製品の拡大をどこまで進められるかがポイントです。
そして、自動車が高度化やソフトウェア化する中で培った技術で、長期的には自動車に限らない成長を目指していくとのことですから、新規事業の成長にも注目です。

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