カーボンニュートラルを実現するためには、CO2を可能な限り削減していくことが必要です。航空機を例にすると、航空機はジェット燃料を大量に消費することから、飛ぶときに排出されるCO2の削減が課題の一つとなっています。そんな中、航空機に使われるジェット燃料を、CO2削減効果のある燃料のSAF(Sustainable Aviation Fuel:サフ)に置き換えて行くことが現在期待されています。今回は、このSAFにかかわる企業とその取り組みを見ていきます。
そもそもSAFとは
国土交通省によると、乗客1人が1km移動する際に排出されるCO2の排出量は、鉄道20g、バスが71gなのに対して航空機は101gです。航空機は他の交通機関と比較して多いというデータから、空の交通における脱炭素化は急務です。そのため、航空業界では「新しい技術」と「運航方式の改善」そして「SAF」を組み合わせて取り組んでいく見通しとなっています。
「新しい技術」としては電動化、水素航空機などの技術の導入。「運航方式の改善」としては航空交通全体の最適化などが検討されています。
そして、「SAF」の活用が航空業界における脱炭素施策の切り札とされています。SAFの供給が未来の空をつくる、と言われています。
SAFとは、微細藻類、木くず、サトウキビ、古紙や飲食店から出た廃食用油などを主な原料とした次世代の航空燃料です。従来の化石燃料は、地中に溜まっている原油を取り出して燃焼するため、使用すればするほど大気中のCO2が増加します。一方、SAFは木材や木くず、廃食用油などを活用したものです。しかも木材や木くずの原料となる樹木は、光合成でCO2を吸収します。つまり、SAFの生成は既に排出された炭素が循環する仕組みとなっています。このためSAFを燃焼させても、全体の炭素排出量は増加しないことになります。
政府や航空業界は、2030年までに国内航空会社による燃料使用量の10%(約170万kL)を SAF に置き換えるという目標を掲げ、国際競争力のある国産SAFの開発・製造の推進や、SAFの供給網の構築等に力を入れています。
大手石油会社における取り組み
化石燃料からの脱却を社会課題として求められる中、大手石油会社の競争軸は、石油の販売シェアから「いかに早く脱炭素の燃料を収益化できるか」に移っています。
コスモエネルギーホールディングスは、国内初となる廃食用油を原料とした国産SAFの大規模生産実証設備の建設を行っています。2024年12月には製造装置が完工、2025年1月からは試運転を開始していて、2025年4月よりエアライン、大阪・関西万博などにSAFの供給が順次行われる予定です。また、同社はガソリンスタンドやショッピングモールで家庭から出る廃食用油の回収を始めています。2025年の国内初SAF量産設備運転開始に向け、順調に進捗しています。

完工したSAF製造装置(コスモ石油堺製油所構内)(出所:コスモ石油)

ガソリンスタンド内の廃油回収ボックス(出所:コスモ石油)
石油元売りの最大手の「 ENEOSホールディングス 」は、現在SAFの仕入れ販売を主としていますが、「国内最大の供給体制」の確立のため、国産SAFの製造も予定しています。
国産SAF製造に関しては、2023年に稼働を停止した和歌山製油所を脱炭素拠点として衣替えを行い、2028年度以降を目途にSAFの生産を開始する予定です。
また、原料となる廃食用油を調達するため、イトーヨーカドーが展開する廃食用油回収事業に参画したほか、サントリーと取引関係にある約8万店に及ぶ飲食店や食品工場などから出た廃食用油を回収し、SAFの原料として活用する方針です。

ENEOS和歌山製造所(出所:ENEOSホールディングス)

家庭系廃食用油回収専用ボトル(出所:ENEOSホールディングス)
「 出光興産 」は、「2030年までに年間50万kLの国内SAF供給体制を構築する」という目標を掲げ、重点事業の一つとして、SAFプロジェクトを推進しています。長期的・安定的にSAFを供給するために、オーストラリアにおける非可食油原料樹「ポンガミア」の試験植林など、植物原料の確保も含めた供給網の構築に取り組んでいます。
また、国内供給体制の構築を進めていて、2028年度から千葉事業所と徳山事業所でSAFの製造を開始する見込みです。

ポンガミアの種子と圧搾して得られた油(出所:出光興産)
独自のSAF供給網の構築
SAFは廃棄物が原料となるため、日本国内でも原料を調達することが可能です。従って、原料の調達を含めた供給網が構築されれば、SAFの国内生産も可能となり、海外の社会情勢の影響を受けずに航空燃料を着実に供給できるようになると考えられています。
2024年4月、「 星野リゾート 」「 日揮ホールディングス 」レボインターナショナル※、合同会社SAFFAIRE SKY ENERGYの4社は、廃食用油をSAFへと再資源化する仕組みの運用を始めました。石油元売り以外にもこうした独自のSAF供給網構築の動きが出てきています。
星野リゾートをはじめとする廃食用油をSAF等へ再資源化する仕組みの概要図

(出所:星野リゾート)
航空会社によるSAFの活用
航空会社によるSAFの活用も始まっています。
例えば、「 ANAホールディングス 」は、2020年より国際線定期便へ恒常的にSAFを搭載するとともに、2022年11月にサステナビリティをテーマとした特別塗装機「ANA Future Promise Jet」国内専用機にSAFを搭載し就航しました。
国内線の定期便としては、初めて商業規模で生産されたSAFを使用しています。

ANA Future Promise Jet(出所:ANAホールディングス)
既存燃料との価格差が普及への壁
SAFの普及への最大の壁は、従来の化石燃料との価格差です。国際航空運送協会(IATA)によると、2024年時点でSAFの価格は既存のジェット燃料の3.1倍に上ると算出しています。
この点に関しては、2024年に成立した産業競争力強化法等の改正により、SAFの国内生産・販売量に応じた税額控除を行う制度も創設され、普及の後押しが始まろうとしています。
ご紹介した石油元売り等の動きと併せて考えると、2020年代後半からSAFの存在感が増すと考えられます。
今後、飛行機に乗る際や、空を飛ぶ飛行機を目にした時に、脱炭素に貢献するSAFが使われていることが思い浮かびそうですね。そしてそのたびに、サステナブルな未来がより身近に感じられるかもしれませんね。
なお、日興フロッギーでは過去にもSAFを取り上げています。
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