日本の消費税=関税? トランプ大統領 発言の真相とは

フロッギー版 お金で得するオタク会計士チャンネル/ 山田真哉

みなさんこんにちは! 公認会計士兼税理士の山田真哉です。

2025年2月のトランプ大統領のXへのポストが全世界的に話題になりました。今回は、このポストを見たネット住民が「トランプ大統領のおかげで日本の消費税が廃止されるのではないか」と盛り上がった内容を解説したいと思います。

お送りする内容は、以下の通りです。

・トランプ大統領のおかげで消費税廃止になるのか?
・「消費税は関税」発言の真相
・なぜアメリカには消費税が存在しないのか?

トランプ大統領のポストの内容とは?

トランプ大統領のポストを簡単に要約すると、「貿易はお互いフェアであるべきだ。しかし、消費税は実質関税みたいなものだし、むしろ関税よりも懲罰的で、障壁になっている。だから、消費税がある国々に対しては報復関税をかける。それが嫌であれば、関税を下げなさい」といった内容でした。

そうなると、欧州・中国だけでなく日本の消費税も関税とみなされてしまう。だとしたら、アメリカの主張を受け入れるためには、関税か消費税を引き下げなきゃいけないことになるわけです。

ここでいくつか疑問を持つと思います。そもそも消費税は関税なのか。そして日本は関税か消費税を下げなきゃいけないのか。そして、本当に消費税廃止につながるのか。これらについて、解き明かしていきたいと思います。

アメリカには消費税がない

まず、トランプ大統領が消費税を叩くということは「アメリカには消費税はないのか」という疑問が湧くと思います。そうなんです! アメリカには消費税がありません。そのかわり、売上税(小売売上税・Sales Tax)というものがあります。

そこで消費税と、アメリカが導入している売上税について比較してみます。

注:世界各国には消費税と似たVAT(付加価値税・Value Added Tax)があります。従来、日本の消費税と各国のVATは異なるという認識が持たれていましたが、その大きな違いはインボイス方式の有無でした。現在は日本もインボイス方式に変わりましたので、ほぼ同じ制度という前提で解説します。

消費税やVATは全世界150ヵ国以上で採用されています。この消費税の特徴は、すべての事業者が対象であることです。つまり、個人間のプライベートな取引以外のすべての商取引に税金をかける、これが消費税やVATです。その時の証拠となるのがインボイスです。インボイスがあることで、いくら消費税をもらって、払ったかがわかります。

一方、売上税を導入しているのは、アメリカとわずかな国々です。対象は小売業者のみです。ですので、売上税がかかるのは最終消費取引のみ。いわゆるBtoCの取引のみで、最後に消費者が買うタイミングに税金がかかります

そして、この消費税と売上税に違いがあるからこそ、トランプ大統領は目をつけたわけです。

消費税・VATと売上税との違い

消費税は、年間でもらった消費税(課税売上にかかる消費税額)から払った消費税(課税仕入等に係る消費税額/仕入税額控除)を差し引いた分を納める差額課税という考え方をします。

ですので、顧客や取引先に対して3万円売り上げて、仕入に1万円かかった場合、売上3万円に消費税(10%)3000円を足して、3万3000円請求します。ここで、インボイスを発行します。

かたや、仕入の1万円に対しても消費税(10%)を加えた1万1000円払い、仕入先からインボイスをもらいます。よってこの会社は、もらった消費税3000円から払った消費税1000円を引いた2000円を納めることになります。これが本則課税という消費税納税の原則的なやり方です。
一方、売上税は仕入先には消費税を払いません。最終的な消費者である顧客に対してのみ売上税(10%)3000円足して売ります。そして、その3000円をそのまま国に納めます。
このように、消費税は差額を納付するという考え方ですが、売上税は税をそのまま納付するという考え方です。このことにより非常に重要な違いが起きます。それは輸出した場合です。

輸出時の税金は、日米で全然違う

消費税も売上税も、輸出した時は輸出免税で税金をかけられない仕組みになってます。これは、消費した場所で税金をかける消費地課税という考え方をするからです。つまり日本からアメリカへ輸出すると、消費地は日本ではないので日本の税金はかけられない。逆にアメリカから日本に輸出したモノに関してはアメリカの税金はかけられない。その代わり、日本の関税と消費税をかけています。
先ほどの売上3万円、仕入1万円のケースで解説します。輸出する場合でも、仕入は国内ですから、消費税1000円を払い、インボイスをもらいます。しかし、海外に輸出する場合は、輸出免税のルールがありますので、消費税を足しません。この時は、相手国の関税のための商業インボイスを発行します。すると、もらった消費税はゼロ、払った消費税は1000円になるので、差し引きマイナス1000円になります。この場合、なんと消費税還付で1000円が戻ってくるんです。つまり、輸出をすればするほど、消費税が還付されるという仕組みになってます。消費税還付の額はかなり大きく、実際に自動車メーカーなどは年間総額2兆円もの消費税還付を受けています。
売上3万円の例を挙げましたが、これが2万円でも4万円でも消費税還付の額は変わりません。他の国内企業が消費税を負担する一方で、輸出企業は消費税の負担がないため、優位になります。

もちろん、中小企業でも海外売上が多い場合は、消費税還付を受けることができます。昨今多かった例では、YouTubeの広告収入も、アメリカやシンガポールといった海外のGoogleから収入が入ってくるので、海外売上になります。ですので、広告収入が多いYouTuberは日本のYouTube事務所に所属するよりも、自分たちで直接Googleと取引した方が消費税がたくさん還付されます。事務所に入ったYouTuberがどんどん辞めていった理由は、事務所に中間マージンを取られるだけではなく、消費税還付を自分で受けたいというのも大きかったのだと思います。

話を戻しますと、アメリカの売上税も、輸出の時には売上税はかかりません。仕入の段階でも税がかかっていませんので、収支はゼロとなります。ということは、消費税がある国は輸出すればするほど消費税還付があるけれども、アメリカは還付がない。「これってズルくないですか?」とトランプ大統領は言っているわけです。

ではなぜ、諸外国とアメリカでこのような違いになったのかについて、最後にお話ししたいと思います。

なぜアメリカには消費税が存在しないのか?

ここまで消費税・VATと売上税について見てきましたが、一番の違いは輸出の時に還付金があるかないかです。そんなVATを発明したのは1954年のフランスです。当時のフランスは第二次世界大戦でナチスドイツに占領され、復興を頑張らなければならない時期でした。国を立て直すために輸出産業を支えようと、輸出企業に多額の補助金を出していました。しかし、その後まもなくGATT(関税および貿易に関する一般協定)を世界各国と結ばなければならなくなります。その中に「輸出企業に補助金を出すのは貿易戦争になるからやめよう」という取り決めがあったのです。今までのように補助金は出せなくなって編み出されたのが、このVATなんです。

VATは輸出すればするほど消費税の還付を受けられます。これは、国が直接補助金を出すわけではなく、下請け会社などが払い続けてきた消費税を輸出企業が総取りでもらえる仕組みです。つまり、事実上の輸出補助金のようなものであり、抜け道となっているわけです。そこで各国も次々とマネをし始めて、最終的に日本もマネをしたのが、消費税の歴史です。
では、なぜアメリカはVATを導入しなかったのか。これには、いくつか理由があるのですが、1つ目はアメリカは各州の力が強いからです。なので、売上税も各州で税率を決めています。売上税は州の中の「市」とか「郡」もそれぞれかけています。ロサンゼルスは最大約10%らしいですが、売上税がゼロの州もあったりします。これだけバラバラだと、多くの人は安い州で買おうとします。実際、今でも州や市、郡ごとに売上税が違うので、一般消費者は「越境ショッピング」を行ってます。

この売上税を、そのまま消費税に変えてもいいじゃないかと思うかもしれませんが、州ごとに消費税が違っていたらどうでしょう。

消費税にすると、対象はすべての事業者になります。あらゆる企業が仕入先をより安い州にしようとするでしょう。混乱しますし、事務も煩雑です。そのようなこともあって、アメリカは導入できませんでした。

そして理由の2つ目。「とにかく増税はイヤ、小さな政府がいい」というアメリカの伝統的な考え方の影響です。日本以上に増税に対しての反発が厳しいので、消費税・VATは導入されないまま今に至りました。

その結果、「アメリカの輸出企業には消費税的な補助金はないのだから、他の国に関税をかけるのがフェアだ」というトランプ大統領の主張には一定の正しさがあるともいえます。

では、日本はどういう手段を取るのか。おそらく関税を下げるのでしょう。全世界的に輸出補助金的な性質を持っている消費税を下げることはないと思います。輸出企業には大企業が多いので、還付が減ることへ猛反対するでしょう。だから、財務省的にも消費税よりは関税を下げるほうが、まだやりやすいという選択になるかと思われます。

では、日本の一般国民になんの影響もないのでしょうか。まあ、そういうわけでもなくて当然アメリカの輸入品は増えてくるでしょうし、なによりも消費税は上げづらくなりました。消費税を上げると、その分アメリカの関税も上がるわけですから。そういう意味で、日本国民にも少しは良いことがあるのかもしれません。

というわけで、トランプ大統領の動きは日本の税制にも色々と関わってきそうですので、また取り上げていきたいと思います。

今回は2025年2月24日時点の情報でした。
よかったら今後ともごひいきに。ば~い、ば~い!