量子コンピューター 高速大規模計算でスパコンを凌駕か

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次世代コンピューターと期待される「量子コンピューター」の研究開発が世界で加速しています。複雑な問題を短時間で解けることから様々な分野で活用できそうです。実用化に挑む富士通を中心に各社の動向をご紹介します。

富士通、産学官連携で量子分野の開発を加速

富士通 」は1月、量子コンピューターの開発拠点となる「量子棟」の建設を発表しました。世界最大級となる1000量子ビットのコンピューターを設置し、2026年度中の公開を目指します。

量子コンピューターは量子力学と呼ばれる物理学の理論を応用しており、複雑な問題を短時間で解けることが特徴です。

従来のコンピューターは「0」か「1」のどちらかを使う「ビット」で計算するため、1つ1つの処理を順番に行うので膨大な計算工程が必要となります。

一方、量子コンピューターでは「0」と「1」を重ね合わせた「量子ビット」を使用するため、多くの情報を同時に扱えることから計算ステップが減り、短時間で処理できるのです。

量子コンピューターとは
【強み】
・従来のコンピューターに比べ計算工程を劇的に減らし、
複雑な問題も短い時間で計算できる
【弱み】
・周囲の熱などの影響でエラーを起こす
・極低温を保つための効率的な冷却技術の進展が必要

この特徴を活かし、膨大な化合物から最適な組み合わせを見つける必要がある新薬の開発や複雑なシミュレーションが求められる金融のほか、気候変動対策交通といった社会課題の解決にも応用が期待されています。

スーパーコンピューターでも解けなかった問題が量子コンピューターなら解決できる可能性もあります。

富士通は国の研究機関などと連携して実用化への動きを加速させています。20年に理化学研究所(理研)や東京大学などと共同研究を始め、23年には理研と共同で高速演算が可能な超伝導方式の量子コンピューターを開発しました。

同コンピューターは24年5月に産業技術総合研究所(産総研)への導入が決定。国内企業が商用量子コンピューターを受注した初のケースとなりました。

量子ビット研究も熾烈、生活分野にも

量子コンピューターの核となる量子ビットの研究開発も実用化を視野に熾烈さを増しています。

分子科学研究所(分子研)は24年2月、冷却原子(中性原子)方式の量子コンピューターの開発を目指し、富士通や「 日立製作所 」、「 浜松ホトニクス 」などの参画企業と事業化に向けた活動を始めました。

冷却原子方式は量子状態の安定性が高く、室温で動作し冷凍機を必要としない点などが特徴です。25年中の実用化が期待されています。

日本電子電話(NTT) 」は理研などと光方式の量子コンピューターを開発しました。光回路の中を移動する光パルスを量子ビットとして使う光方式では常温動作が可能で、消費電力も少なく、高速かつ大規模な計算ができるとされます。

そのほか、量子ビットには「超電導方式」や「シリコン方式」などもあります。

半導体大手の「 ソシオネクスト 」は今年2月、米グーグルと量子コンピューターに使用する半導体製品を共同開発すると発表しました。

身近な生活分野にも関わり始めています。「 コーセー 」は、量子コンピューターを用いて計算した化粧品処方により、毛穴の角栓への最適なアプローチを追求したクレンジング美容液を25年5月に発売します。

量子コンピューターがあらゆる現場の頭脳として活躍する日も近そうです。