京都大学で証券投資を教える著者の株式投資の本質論。投資信託以外もやりたい、個別株に興味はあるけど「ちょっと怖い」ーーそんな読者の背中を押してくれます。
大ケガとは無縁、怖くない個別株投資
「株式投資で損をすることは当然ありうる。だが、欲さえかかなければ大ケガとは無縁、何も怖くない」。バブル期を含む60年以上に渡り、市場と付き合ってきた著者の結論です。個別株といえば短期売買をイメージする方もいるかもしれませんが、それは投機だと著者は言います。誰かが大儲けすれば誰かが大損する「ゼロサムゲーム」だからです。
一方、本書の根幹となる考えは「優れた企業の株式を長期保有すること」。全員で企業成長の利益を享受する、いわば「プラスサム」な投資を豊富な図表とともに学んでいく一冊です。
優れた株を探すことは難しいのでは? という声が聞こえてきそうですが、まずは自分が良いと思える企業を挙げてみる。その上で次の3つをチェックする。①売上高が伸びているかどうか(日本の経済成長率である年2~3%以上で!) ②売上高あたりの利益率はどうか(目安は10%) ③業績が安定的に伸びているか(大きな増減はないか)ーー。
今のように経済が低迷している場面では企業の選別は特に大事で、過去10年間は遡ってみる。結果「これ!」と思える企業を見つけたのなら買いのタイミングは気にしすぎない、が著者の体感なのだそう。長期運用が前提なら「株価は経済成長に応じて上昇する」ためです。
著者は時間を分散しての投資には懐疑的で「購入局面ごとに景気動向を読むなど、毎度新たな判断が求められるのはどうなの?」とも。同じ分散ならば、通貨を分散することを薦めています。
株の本としては珍しく「儲けた」「損した」などの煽りがないのもいいところ。京大的金融リテラシーの上品さもありつつ、人気講義の片鱗を伺える金融コラムも面白い。
「インサイダー取引で事件になった村上ファンドは、一方で『株式の買占めは悪』という空気を変えた。日本企業のぬるま湯体質に発破をかけ、以降のM&Aブームの呼び水となった」等々。なるほど、当時を知らない学生でも流れが見えてきそうな解説です。