植物の光合成がヒント 「人工光合成」で薬の原料を開発

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植物の光合成のように太陽光を使って水素や化学物質を作る「人工光合成」。脱炭素技術の目玉の1つとして注目され、医薬品や日用品など産業分野への応用が期待されています。研究開発を進める三菱ケミカルグループを中心に各社の動向をご紹介します。

人工光合成の実用化へ進む研究開発

名古屋大学などの研究チームは2月、人工光合成の技術を応用して薬の原料の開発に成功したと発表しました。製造過程では二酸化炭素(CO2)を排出しない「グリーン水素」の生成にも成功しました。

研究チームは今回、水などの無機物を用いた研究から一歩進み、有機物を使った人工光合成に成功。これにより、医薬品やプラスチックなど高付加価値品の製造実現につながると期待されています。

人工光合成は、植物が太陽光と水、CO2からデンプンなどの有機物と酸素を生み出す「光合成」の仕組みをまねた技術です。太陽光エネルギーを用いて水とCO2で化学原料などを生成します。この過程を人工的に行うことから人工光合成と呼ばれています。

人口光合成とは
太陽光と光触媒を用いて、水を水素と酸素に分解
・発生した水素を分離
・触媒技術により水素と二酸化炭素を反応させてプラスチック原料などを製造

三菱ケミG、CO2とグリーン水素由来の化学製品開発へ

人工光合成は化石燃料の燃焼などで発生するCO2を資源として利用するため、CO2排出量の多い化学メーカーを中心に研究開発が進められています。

官民学の研究組織「人工光合成化学プロセス技術研究組合」の一員である「 三菱ケミカル 」は、これまで人工光合成プロジェクトに参画し、国内企業や大学の研究機関と共同で開発を進めてきました。

21年には「 富士フイルムHD 」傘下の富士フイルムや「 TOTO 」、東京大学などと共同で、光触媒を使って高純度な水素を取り出す実証試験に成功しました。

三菱ケミカルはアラブ首長国連邦(UAE)国営の再生可能エネルギー大手マスダールと「 INPEX 」との間で、CO2とグリーン水素を原料としたポリプロピレンの製造について事業化を検討しています。

食品容器など幅広い分野で使われるポリプロピレンの製品化が実現すれば、従来の化石資源由来の製品に比べてCO2排出量を大幅に減らすことが期待できそうです。

人工光合成の実用化は早くて2030年代となりそうですが、コスト面など克服すべき課題が多いほか、太陽光から有機エネルギーへの変換効率を高める技術の確立や高性能で安定した触媒の開発などが不可欠です。

住友金属鉱山 」は3月、京都大学と共同で従来に比べ30倍の効率でCO2をプラスチック原料となる一酸化炭素(CO)に変換できる光触媒技術を開発したと発表しました。

住宅分野での活用も検討されています。「 飯田グループHD 」は大阪市立大学と共同で、人工光合成技術を活用しエネルギーの自給自足を実現する住宅「IGパーフェクトエコハウス」を開発。4月に開幕した大阪・関西万博に人工光合成技術を展示しています。

石油に依存しない夢の生活の実現に向けて熾烈な開発競争は今後も続きそうです。