京王電鉄【9008】鉄道に頼らない成長をみせている現状

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カエル先生の一言

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統合報告書2024
2023年度 決算説明会資料
2025年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)
2024年度第3四半期 決算補足説明資料

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、京王電鉄株式会社の「統合報告書2024」「2023年度 決算説明会資料」「2025年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」「2024年度第3四半期 決算補足説明資料」より引用しています。

今回取り上げるのは京王電鉄株式会社です。京王線や相模原線、井の頭線など都内中心に展開している鉄道企業で、年間の輸送人員数は5~6億人の規模を持っています(統合報告書2024 P3参照)。

事業内容

それでは事業内容から見ていきましょう。
京王電鉄の事業セグメントは以下の5つです(統合報告書2024 P5参照)。

①運輸業:京王線や相模原線、井の頭線などの鉄道事業やバス事業、タクシー事業など
②流通業:京王百貨店や京王ストアなどの小売関連事業
③不動産業:沿線を中心とした不動産開発、不動産賃貸や販売など
④レジャー・サービス業:京王プラザホテルや京王プレッソインなどのホテル業や旅行業、広告代理店業など
⑤その他

2024年3月期のセグメント別の売上と(利益)の構成は以下の通りです(統合報告書2024 P5参照)。

①運輸業:27.4%(29.5%)
②流通業:24.6%(12.5%)
③不動産業:14.5%(26.8%)
④レジャー・サービス業:16.1%(18.6%)
⑤その他:17.4%(12.6%)

鉄道事業が売上・利益ともに主力ですが、分散した構成となっています。鉄道会社は運輸業を主力とする企業が多いですが、京王電鉄は流通、不動産、レジャーと分散した構成の企業であることが分かります。

流通業は百貨店やスーパーマーケットなどが主力で、レジャー・サービス業はホテル事業が主力です。京王電鉄は、移動需要や不動産市場に加えて、国内消費の動向やホテル業界などの影響も受ける企業となっています。

業績の推移

事業内容が分かった所で、続いて2015~2024年3月期の業績の推移を見ていきましょう。

売上高
売上の推移を見ていくと、コロナ禍で2021年3月期に悪化し、以降の回復は続くものの2024年3月期でもコロナ禍前を下回っています。

営業利益
続いて営業利益の推移を見ていくと、こちらは2021年3月期に大きな赤字となって以降は回復が続き、2024年3月期にはコロナ禍前を上回っています。直近では収益性が高くなっていて、利益面が好調です。多くの鉄道企業はコロナ禍前を下回って推移していますから、京王電鉄は比較的堅調な企業だと分かります。

それはどうしてか、セグメント別の営業利益を2018年度と2023年度で比較してみましょう(2023年度 決算説明会資料 P23参照)。

①運輸業:▲15億円
②流通業:+4億円
③不動産業:+25億円
④レジャー・サービス業:+13億円
⑤その他:+3億円

運輸業は減益ですが、それ以外の事業が軒並み増益になっています。運輸業を中心とする鉄道会社が苦戦する中で、京王電鉄は運輸業に依存しない分散した構成のため好調です。各事業の状況についてもう少し詳しく見ていきましょう。

コロナ禍前と比べて、最も伸びているのは不動産事業です(統合報告書2024 P68参照)。近年の投資を見ても、その半分が不動産で、沿線の開発へ積極的な投資を続けています(2023年度 決算説明会資料 P33参照)。なかでも近年はリノベーション物件などが伸びているようです。今後も開発の拡大を続けていく計画を立てていますので、首都圏の不動産価格の上昇が続く中で、今後も活況な不動産相場による好調が期待されます(2023年度 決算説明会資料 P5、6参照)。

また、流通業は値上げなどが進んだこともあり、スーパーマーケットなどのストア事業が好調です。百貨店はコロナ禍前を下回る推移ですが、回復傾向は続いていますし、直近ではインバウンドの影響などもあります。百貨店業界は過去最高益を達成するような好業績の企業も増えていますので、今後は一定の業績改善が期待されます(2023年度 決算説明会資料 P44参照)。

レジャー・サービス業が増益となったのは、ホテル客室単価上昇による影響です。稼働率に関しては、コロナ禍前を下回った状況が続いているものの単価が上昇し、売上はコロナ禍前と同水準まで回復しています。コロナ禍で苦戦したホテル企業は、オペレーション改善も進めていたため、好調です。ホテル客室単価の上昇は続いているため、2024年10月にはホテルの客室単価が過去最高を更新しています(2023年度 決算説明会資料 P47、62参照)。そういった中で今後も業績の改善が期待できそうです。

また、運輸業は唯一苦戦していましたが、その要因は輸送人員の減少です。2024年3月時点でも2018年度比で▲16.3%という状況で、通勤、通学の定期収入が特に減少しています。テレワーク化などの影響が出ていて、今後も一定の停滞が考えられます(2023年度 決算説明会資料 P41、42参照)。とはいえ、運輸収入に関しては、2023年10月以降大きく増加しています。これには2023年10月に鉄道運賃の改定を行ったことが影響しています(2023年度 決算説明会資料 P11参照)。今後も定期収入の減少などで一定の苦戦は考えられるものの、運賃改定によって業績の改善は期待されます。

ここまでのまとめ

・鉄道事業が売上・利益ともに主力
・流通、不動産、レジャーと分散した事業構成
・不動産業、流通業、レジャー・サービス業務は今後も好調が期待され、運輸業も輸送人員の減少はあるものの、鉄道運賃の改定を行い、業績は改善の見込み
・事業全体を見ても改善が期待され、業績の好調に期待

直近の業績

続いて直近の業績を見ていきましょう。今回取り上げるのは2025年3月期の第3四半期の業績です(決算短信より)。

売上高:3349億円(+13.9%)
営業利益:496億円(+25.5%)
経常利益:491億円(+24.7%)
純利益:392億円(+54.5%)

増収で大幅増益と好調が続いています。

京王電鉄 2025年3Q決算説明会資料より

セグメント別の営業利益の前期比を見ていくと以下の通りです。

①運輸業:+48億円
②流通業:+0億円
③不動産業:+36億円
④レジャー・サービス業:+23億円
⑤その他:▲5億円

その他事業以外の全てが増益で好調です。

京王電鉄 2025年3Q決算説明会資料より

京王電鉄 2025年3Q決算説明会資料より

運輸業は外出需要の増加や、出社の増加などで通勤定期収入の増加があり、輸送人員数も+1.8%と若干増加しました。運賃改定の効果もあって大幅な増収増益となっています。コロナ禍前を下回った状況が続くことは予想されるものの、業績の改善が続くことが期待されます。

京王電鉄 2025年3Q決算説明会資料より

流通業は商品の値上げなどがあり、売上は拡大していますが、インフレによる仕入れ価格や人件費などのコストアップで利益面は横ばいです。百貨店業界では他社で絶好調な企業もありますが、京王百貨店に関しては、横ばいとなっていて成長は見られていません。インバウンドの拡大による好影響はあったようですが、百貨店業界の中では苦戦している印象です。インフレによるコストアップの影響もありますから、大きな成長は難しい状況だと考えられます。とはいえ、インバウンドも堅調ですし一定の堅調な業績は期待されます。

京王電鉄 2025年3Q決算説明会資料より

不動産業は、高価格帯リノベーション物件や投資用マンションの販売など、不動産販売業のけん引によって増益を達成しています。不動産相場の高騰による好影響が出ていますので、今後も好調が期待されます。不動産相場には注目です。

京王電鉄 2025年3Q決算説明会資料より

京王電鉄 2025年3Q決算説明会資料より

レジャー・サービス業は、ホテル客室単価の上昇が続き好調です。現在もホテル客室単価は高止まりを見せていますし、インバウンドも活況が続いていますから、今後も好調が期待できそうです。

京王電鉄 2025年3Q決算説明会資料より

直近は好調な事業が多く、今後も好調が期待できる事業が多いことから、通期予想に関しても増収増益を見込み、想定を上回った進捗です。

京王電鉄 2025年3Q決算説明会資料より

セグメント別の営業利益の2023年度比の予想は以下の通りです。

①運輸業:+31億円
②流通業:+5億円
③不動産業:+56億円
④レジャー・サービス業:+21億円
⑤その他:0

運輸業や不動産業、レジャー・サービス業などの好調が続く見通しです。第3四半期時点では想定を上回る進捗となっていますから、これを上回るような成長を見せられるかに注目です。

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」を日興フロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
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