音声メディア「Voicy」で、「10分で決算が分かるラジオ」を毎日配信中の「妄想する決算さん」が、日経225・グロースコア・スタンダードコアの企業を1社ずつ取り上げる人気連載を日興フロッギー版としてスタート! 読むだけで、知らず知らずのうちに主要な株価指数に採用されている企業についてわかるようになる決算解説。日興フロッギー版ならサクっと5分でチェックできます!
2025年4月期 第3四半期決算説明資料
2025年4月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)
今回取り上げるのは、「にじさんじ」というVTuberグループを運営するANYCOLOR(エニーカラー)株式会社です。
事業内容
まずは、「そもそもVTuberってなに?」というところから見ていきたいと思います。
では、そのVTuberの事務所であるANYCOLORが、現在どのような状況なのかを見ていきましょう。
ANYCOLORのビジネスモデルの特徴は、何と言ってもIP※を保有していることです。
キャラクターのIPをANYCOLOR側が保有し、オーディションを通じて発掘した配信者に、それを利用してもらっています。 例えばYouTuberの事務所であれば、その権利はYouTuber側が持っているわけですが、権利をANYCOLOR保有しているということが大きな特徴で、強みです。
事業セグメントは、以下の4つです(2025年4月期第3四半期決算説明資料 P22参照)。
②コマース:グッズ/デジタルコンテンツの販売
③プロモーション:協賛手数料などを得る企業案件
④イベント:にじさんじフェス等のイベントのチケット販売など
この中で「コマース」は、特に重要な事業です。VTuberはデジタル商品と相性がよく、音声販売などが売れやすく利益率が高いです。ANYCOLORの場合は、IPも保有しているため主導権を持って、素早くグッズを展開できるという点も強みです。
収益源ごとの売上構成比率は下記の通りで、売上の6割を占めているのがコマースで、グッズの販売が主力です。
②コマース:59%
③プロモーション:18%
④イベント:6%
業績は拡大中ですが、近年は所属しているVTuberの数が横ばい傾向で、ライブストリーミングの収益も横ばいです。成長を支えているのは、コマースのグッズ販売です(2025年4月期 第3四半期決算説明資料 P23参照)。
ファン層を見ていくと、性別では男性が32%、女性が68%です。年齢層は、10代~20代がファンの8割ほどで、グッズ購入を中心に若い女性が支えになっています(2025年4月期 第3四半期決算説明資料 P26参照)。
市場環境を見ていくと、VTuberのマーケットシェアで、競合するもう1社カバー(人気グループのホロライブを有する)とANYCOLORで半数以上のシェアを占め、大手2つの事務所がインフラ面や既存のコミュニティを通して優位なポジションにあります(2025年4月期 第3四半期決算説明資料 P25参照)。このように、VTuberの業界では、事務所にファンが付いているという特徴があります。
そのような背景から、ANYCOLORでは、多くの所属VTuberが分散して稼いでいます(2025年4月期 第3四半期決算説明資料 P27参照)。デビュー年代で見ても2019年4月以前が約3割、2020年4月デビューが19%、2022年4月が15%、2023年4月が16%と分散した構成です。 VTuber当たりで見てもトップ5が大体売上の17~18%ほどで、トップだけが突出して稼いでいるといったわけではありません。
「にじさんじ」自体が人気のため、そこからデビューすると、デビュー時点で一定のフォロワーが獲得できるため、多くのVtuberが稼げるようになりやすいということです。
それこそ、人気男性アイドルが多数所属する大手事務所からデビューすると、その事務所の所属ということである程度人気が出る状況に近いと言えます。
YouTuberの事務所では、成長が停滞する中でUUUMも買収され、長期的に成長することができませんでした。その要因は、トップ層の収益に依存していたことにもあります。 権利もYouTuber側が持っていたため、収益が増えると事務所に所属するメリットが減り、所属者クリエイターの退所が増えてしまうビジネスモデルでした。
トップ層の人気に依存せずに事務所のブランド化に成功し、IPも保有して、退所が増えにくいANYCOLORのビジネスモデルは、UUUM的というよりは、大手男性アイドル事務所のモデルに近いと言えます。
VTuber業界自体の人気が今後どうなるか次第ですが、企業としては好調が長く続く可能性が高いと考えられます。
続いて、市場規模の推移を見ても基本的には拡大中で、2020年度の国内市場は144億円でしたが、2023年度時点では800億円まで拡大することを見込んでいました。さらに、グローバルでも拡大が見込まれ、2023年には10億8270万ドルだったマーケットが2029年には40億4433万ドルに達すると予測しています(2025年4月期 第3四半期決算説明資料 P24参照)。

※ANYCOLOR 2025年4月期3Qの決算資料 P21参照
作成:日興フロッギー編集部
業績の推移を見ていくと、2017年の創業以来、拡大が続き、2024年4月期には売上高が320億円、営業利益は123億円です。営業利益率も高く、創業からわずか数年で123億円もの営業利益を出すほどの規模になっています(2025年4月期 第3四半期決算説明資料 P5参照)。
ここまでのまとめ
・「にじさんじ」というVTuberグループを運営している
・自社でIPを保有していることが強味
・収益はグッズ/デジタルコンテンツの販売のコマース事業
・VTuberの市場では優位なポジション
・YouTuber事務所が衰退していく一方で、大手男性アイドル事務所のビジネスモデルを踏襲して、事業拡大中
直近の業績
2025年4月期 第3四半期の業績を見ると、売上高は24.2%増の289億円、営業利益は21.3% 増の109億円(2025年4月期 第3四半期決算説明資料 P5参照)、純利益は 20.9%増の75億円増収増益で、20%程度の成長が続いています(2025年4月期 第3四半期決算短信 P1参照)。
さらに、第3四半期単体で見ていくと、売上高が 48.5%増116億円、営業利益は64.3%増の42億で、第3四半期は特に拡大しています。では、何が拡大したのかというと、プロモーションも16.8%増と伸びています。VTuberへの認知が高まっていますので、プロモーションも伸びてきたことが分かります(2025年4月期 第3四半期決算説明資料 P6参照)。

※ANYCOLOR 2025年4月期3Qの決算資料 P4参照
作成:日興フロッギー編集部
最も拡大したのは主力のコマースで、66.1%増と大きく成長しました。 そして、コマースの見通しでは売上高は55億円から58億円と見積もっていましたが、実績では72億円と想定を大きく上回って好調です。
最近ではインフレも進み、節約志向が強いと思いますが、推し活需要は活況だと分かります。ファン層は10~20代が主力で、インフレの影響を受けやすいと考えられますが、それでも趣味や推し活にはしっかりお金を投資するという状況のようです。
コマースが66.1%伸びた一方で、ライブストリーミングは2.1%の伸びにとどまっています。配信からの収益はそこまで伸びていないものの、グッズを購入するよりコアなファンが増加しているということです。
これにはユニット化も影響していると考えられます。 以前は個人としての活動が多かったのが、最近はユニットを作っての活動を増やしています(2025年4月期 第3四半期決算説明資料 P34参照)。個人と活動する時とは異なったファン基盤の開拓に繋がり、新たなファン層に向けたユニットとして、グッズ販売の拡大などに繋がっているようです(2025年4月期 第3四半期決算説明資料 P35参照)。
もともとファンだった誰か1人を起点にして、ユニットの活動を見てもらえれば、いつの間にかユニット内の複数人のファンになってもらうことができますので、そうなればグッズの販売に繋がりやすいということです。
アイドル業界を見ても、昔は例えば郷ひろみさんや松田聖子さんのように単独で活動するアイドルが多かったと思いますが、最近のアイドルはグループが基本になっていますから、同じような流れが進んでいると考えられます。
さらに、イベント売上も92.6%増と伸びていて、力を入れています。 音楽にも力を入れていますし(2025年4月期 第3四半期決算説明資料 P11参照)、ユニット化によってイベントの集客力向上も見込めますので今後はイベントの拡大も期待できそうです。
マーケットの拡大も予想される中で、今後も成長が続くことが期待されます。
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※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。