米中関税90日の猶予へ NYダウ1160ドル高

日興フロッギーNEWS/ 日興フロッギー編集部

5月12日、米国と中国の両政府が100%を超える高関税の応酬を一時停止することを発表しました。これを受けてNYダウは1160ドルの上昇。13日の日本株市場でも買いが優勢となっています。株高の背景と今後の見通しをサクッと解説します。

米中が関税115%引き下げへ

ベッセント米財務長官は記者会見で「どちら側もデカップリング(分断)を望んでいないという点で一致した」と述べ、中国商務省も「両国の生産者と消費者の期待だけでなく、両国と世界の利益にも合致する」との報道官談話を出しました。

これにより、米中双方で91%の追加関税を撤廃、24%分を90日間停止することになりました。

NYダウは相互関税発表前水準を回復

米中の行き過ぎた相互関税の回避により、5月12日の米国株式市場でNYダウは前営業日比1160ドル高の4万2410ドルで取引を終えました。これでトランプ米大統領が相互関税を発表する前の水準(4月2日終値4万2225ドル)を上回ったかたちとなりました。

また、投資家の不安心理を表すとされるVIX指数も18.39ポイントと、3月26日以来の水準にまで低下。相互関税を巡る過度な不安については払しょくされたと言えそうです。

米中歩み寄りの背景

米中両政府による今回の歩み寄りの背景にはどんなことが考えられるでしょうか。主に2つの要因があると思われます。

①米国トリプル安
②実態経済への影響

①米国トリプル安

相互関税の発表以降、続いていたのが「米株安」「米債券安(金利上昇)」「ドル安」です。単なる景気後退懸念だけでなく、安全資産の1つとされる債券からも資金が逃避することで、米国から資金が逃げている状況が生まれました。

順次相互関税の凍結を発表したり、パウエル米FRB議長の解任要求を取り下げるなど、政策を転換することで市場の懸念は徐々に払しょくされました。しかし、一時的とはいえ、トリプル安が現実となったことを米政府は懸念しているとみられ、中国との高関税に関してもなにかしら手を打つ必要があると判断する材料の1つになったとみられます。

②実体経済への影響

全米小売業協会(NRF)は、5月の全米の主要コンテナ港での輸入貨物量が1年半ぶりに前年比で減少に転じると分析・発表しました。既に小売業者の多くが中国などからの仕入れを停止し始めたことが浮き彫りになりました。

景気への影響が早くも出始めたことから、トランプ政権の支持層の中からも一部で不満が出始めたものと見られ、相互関税を見直す動きが強まったものと考えられます。

ただ、交渉は90日では終わらない可能性が十分にあることには注意が必要です。2018年の第一次トランプ政権の際も米中間で貿易交渉が行われましたが、合意までに1年半以上かかりました。今回も長期戦になることを視野に入れておきたいところです。

目線は日米交渉と米金融政策へ

米中間の前代未聞の高関税がいったん回避されたことに伴い、リスクオンの状況になりました。過去の米中交渉などからしても、交渉の長期化や個別での関税追加などの可能性は残っているものの、しばらくは「最悪事態の回避」を歓迎する相場が続きそうです。

一方で、マーケットの目線は「日米交渉」と「米金融政策」に移るものと考えられます。日米間では、12日に造船分野の協力について交渉準備を加速させるとの報道がありました。自動車分野や農産物分野では具体的な進展は公表されておらず、今後どの程度歩み寄ることができるかに注目が集まります。

また、米金融政策では、引き続きトランプ米大統領からFRB(連邦準備制度理事会)への利下げ圧力が続くものと考えられます。米中間の高関税が回避されたとはいえ、スタグフレーション(高インフレと景気減速)への懸念はくすぶり続けており、米政策金利の動向が再びマーケットの焦点になるのではないでしょうか。

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