ドイツ経済の鏡 DAX40

あなたの知らない「インデックスの世界」/ おせちーず須山 奈津希

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今回ご紹介するのは、ドイツの株式指数です。ドイツはヨーロッパ最大の経済規模を持ちます。普段、マーケットと言えば日本と米国、インド、中国に目が向きがちですが、ドイツを忘れてはいけません。実はあなたの身近な場所に、ドイツのモノやサービスがあります。

東西冷戦時に生まれたDAX40

ドイツの代表的株式指数はDAX40です。DAXは” Deutscher Aktien Index”の略で、” Deutscher”がドイツ語で「ドイツ」、” Aktien”が「株式」を意味します。つまり” Deutscher Aktien Index”は「ドイツ株式指数」という意味になります。
DAX40は、フランクフルト証券取引所で取引されるドイツの主要40銘柄で構成される時価総額加重平均型の株式指数です。1987年12月30日を1,000として1988年7月1日から算出開始されています。

1988年、ドイツはまだ西ドイツと東ドイツに分かれていました。いわゆる東西冷戦状態だったのです。1988年の西ドイツは経済成長と政治的安定を享受し、欧州の経済大国として繁栄していました。一方、東ドイツは共産主義体制下で経済的・政治的制約に直面し、国民の不満が蓄積していました。そんな中、当時のソ連のゴルバチョフの改革や東欧の変化が、翌年のベルリンの壁崩壊と統一への道を開く契機となりました。東西ドイツの統一は1990年10月のことでした。

DAXはそのようなドイツの歴史的変化の渦中に算出開始された株式指数です。算出開始以来30銘柄で構成される株式指数でしたが、2020年11月に指数改革実施が発表され、2021年9月20日より銘柄数が40に変更されています。

DAX40の銘柄選定ルール

DAX40に採用される条件は以下の通りです。

・フランクフルト証券取引所の規制市場に上場している
・Xetra®で継続的に取引されていること
・最低10%の浮動株があること
・法的な本社または事業本部がドイツにあること
・監査済の各種財務報告書を適時に発行していること
・新規採用銘柄については、直近2年分の通期決算でEBITDAが黒字であること
・適度な流動性があること

「フランクフルト証券取引所規制市場」は、東証になぞらえるなら「プライム市場」ぐらいに理解すればいいです。Xetra®は「クセトラ」と読み、株式現物取引システムの名前です。ドイツ以外のいくつかの株式市場でも採用されています。EBITDAは「イービットディーエー」または「イービットダー」と読み、”Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization”の略で、財務用語です。一般的には税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される値で、本業の収益力を示す値と理解すればいいでしょう。会計上の利益である純利益に関係する税率や、借入金利、減価償却費の扱いは国によって異なるため、国際的な企業価値を比較したり評価したりする場合EBITDAを使うことが多いです。

DAX40に採用されるからには最低2期はEBITDAがプラスになっていてくださいねということです。プラチナカードの入会資格のような敷居を設けているとでも理解すればいいでしょう。米国株式指数のS&P500にもEPS(1株当たり純利益)が4四半期連続でプラスという似たような採用条件がありましたね。

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構成銘柄の見直しは3の倍数月に実施されます。1銘柄当たりのウエイトの上限が15%と定められており、3の倍数月の見直し時に超えている銘柄があれば、リバランスが実施されます。

上位10銘柄を確認

では、DAX40のウエイト上位10銘柄を確認しましょう。
1位のSAPはソフトウェアベンダーです。SAPが導入されている企業で働いている方もいらっしゃると思います。SAPはDAX40のウエイトの上限である15%程度を占めます。2位のシーメンスはドイツを代表する多国籍企業で、インフラ、エネルギー、ヘルスケアなど他分野のビジネスを営んでいます。3位のドイツテレコムは通信サービス企業です。日本でいうならNTT(9432)です。4位のアリアンツは保険・金融サービス企業です。5位のエアバスは航空・宇宙企業です。本社はオランダに存在していますが、主要な事業拠点がドイツで、ドイツに約4万人の従業員がいます。この5銘柄でDAX40の約半分程度を占めます。S&P500と比較すると銘柄数が少ないので、特定の銘柄の値動きの影響を受けやすい傾向があることは知っておいた方がいいでしょう。

上位10位にはランクインしていませんが、BMWやメルセデス・ベンツといった自動車メーカー、スポーツ用品のアディダスもDAX40採用銘柄です。「あー、BMWやベンツなら知ってる!」という声が聞こえてきそうです。

2025年は好調続く

DAX40の直近1年のチャートです。比較のためにS&P500とTOPIXを入れてみました。2024年夏までは低迷していましたが、2025年に入ってから相対的に好調です。
ドイツでは2025年5月に首相指名選挙が行われ、キリスト教民主同盟(CDU)党首のフリードリヒ・メルツ氏が2回目の投票で過半数を得て、新首相に選出されました。政権が代わったことで、景気回復が期待されていることがDAX40の値にも反映されているようです。

足下のDAX40は非常に好調で、2025年5月に史上最高値を更新しました。2022年のロシアのウクライナ侵攻以降、天然ガスの供給停止によるエネルギー価格の高騰が製造業の競争力を奪い、ドイツの実質GDPは2023、2024年2年連続で縮小し景気が低迷していました。しかし2025年第1四半期にGDPが前四半期比で0.2%成長し、回復の兆しが見えてきています。2025年3月にはドイツとEU(欧州連合)がそれぞれ財政拡張策を打ち出しています。財政拡張策が出たことで景気拡大への期待が生まれ、企業業績の拡大期待も強まってきたことがDAX40の好調の背景と考えられます。

DAX40に連動する東証ETF

東証にはDAX40に連動するETFが上場しています。「 NEXT FUNDS ドイツ株式・DAX(為替ヘッジあり)連動型上場投信 」などです。ドイツの個別株を取引するのは敷居が高いなぁという方でも、株価指数連動ETFであれば試しやすいでしょう。

※NEXT FUNDS ドイツ株式・DAX(為替ヘッジあり)連動型上場投信(2860)は、記事執筆時点で証券金融会社の注意喚起銘柄に指定されています。