新NISA、どう使う? 会計士・山田さんの 投資ルール大公開 後編

フロッギー版 お金で得するオタク会計士チャンネル/ 山田真哉日興フロッギー編集部

チャンネル登録者数100万人超えの税理士・会計士YouTuberである山田真哉さんへインタビューするスペシャル企画、後編をお届けします! 前編では、NISA制度の使いこなし術から投資スタイル、銘柄選びの考え方、これから伸びる業界を教えてもらいました。後編では、山田さんの投資ルールや19倍になった銘柄、決算のチェックポイント、さらにトランプ関税で揺れ動く今、投資をするならどうすればよいか、カエルくんが深堀りしていきます!

「新NISA、どう使う? 会計士・山田さんの 投資ルール大公開 前編」を読む

※本記事に登場する株価などは特に断りがない限り、いずれも2025年5月1日時点です。

全体がプラスなら気にしない、山田さんの投資ルール


前編で「長期投資が精神的にラク」とおっしゃっていた山田さんですが、NISAに限らず長期で保有している銘柄はありますか?


そうですね。「 日本製鉄 」や「 三菱UFJフィンシャル・グループ 」はリーマン・ショック前から持っていますね。一時は何分の1なんだろうと思うほど値下がりしましたが、戻ってきています。


下がっても持ち続けられるってすごいですね。それほど下がったら、売ってしまおうとする人も多いと思います。


その考え方も分かりますが、僕は、全体で含み益だったら売らないというルールを持っているんです。「マージンミックス」という考え方です。


マージンミックス?


ビジネスにおいて、異なる価格帯や利益率を持つ商品を組み合わせることによって、全体の利益を最大化する戦略のことです。


ちょっと難しいかも……。具体的に、その戦略を取り入れている会社の例があったら、教えてください!


例えば、僕が社内監査役をしている「 ブシロード 」には、カードゲーム、音楽、スマホゲーム、新日本プロレス事業とバラバラなジャンルの事業があります。カードゲームが落ち込んだ時期でも事業を切らずにいたら、コロナ禍の時にプロレスや音楽事業はダメになった一方でカードゲームが売れて救ってくれた、ということがあったんです。


なるほど。分散投資が効いたんですね。


まさに投資の格言「卵は一つの籠に盛るな」ですよね。ですので、投資でもリスク分散できるポートフォリオが重要だと考えています。


1つの会社の中でも、色々な事業でリスクを分散することが大事なんですね。


ちなみに、損が出ている株を損切りして、利益が伸びている株を買い増しするというやり方はポートフォリオではありません。ポートフォリオの大事な考え方は、リスクを分散して長期的にプラスになることです。だから、今の損に固執しすぎず、長期で判断するようにしています。

25万円が500万円に! 株式投資には夢がある


山田さんが保有し続けている銘柄で、これは成功だったな、と思うものはありますか?


東映アニメーション 」ですね。もともとアニメ好きだったこともあり、20年ほど前に買いました。そのときは、ほぼワンピースとプリキュアだけの会社だったのですが、今はだいぶ上がっています。168円で買って、現在の株価は3390円になっているので、19倍です。


19倍! テンバガー(株価が10倍以上に成長した株)以上じゃないですか! 今はワンピース、プリキュア以外にもたくさんIPを持ってますもんね。

IPとは、ゲームやアニメなどのコンテンツとそのキャラクターに関わる権利のことです。


東映アニメーションは1500株持っていて、約25万円で買ったものが500万円になりました。株式投資って夢があると実感しました。


すごい、大成功ですね。憧れます! 普通だったら10倍になったあたりで売ってしまいそうですが、途中で売ろうと思わなかったんですか?


お金に困ってなければ売りません。東映アニメーションと同時期に買った「 トヨタ自動車 」も持ち続けた結果、1400円台から2700円台と約2倍になっています。


トヨタのような大企業でも、長期で持つと倍になるんですね。

長期保有派の山田さんが売りを考える時は?


ここまでお聞きして、山田さんは基本的に株を長期保有されている印象です。どんな時に株を手放すんですか?


もうダメだな、と思う会社は売ります。成長を期待できなくなったと思う銘柄があると、保有する銘柄の20%分は切ることにしています。500株持ってたら400株は売るなど、保有株数を減らすこともあります。実際、鉄鋼株は徐々に減らしています。


鉄鋼業界自体に伸び代を感じられなくなった、ということですか?


そうです。日本の鉄鋼は、どうしても世界の価格競争に負けてしまう。


ちなみに売るタイミングは、決算の数字を見て判断しますか? それとも、長い目で見た予測のもとですか?


長い目で見た予測のもとですね。自分のポートフォリオを見直す際に、保有株の棚卸しをします。伸び代のない株は売って、その資金で新しい銘柄を買います。


見直しはどのくらいの頻度でされていますか?


きちんと決めてないですが、だいたい1年に1回ですね。12月時点で含み損があれば、損を確定して確定申告をした方がいいのかな、と考えます。だから税金を気にしなくて良いNISAで買ってる株はほぼ売ってない。ひたすら買い増しています。よほどダメな会社でない限り、ずっと持っていますね。


確かに。確定申告の観点で言えば、NISAで投資した株は、売る必要がないですね。

山田さんが「高配当株」に惹かれないワケ


山田さんは、長期的に成長性を感じる会社に投資していますが、一般的に人気がある優待株や配当株には関心がないのでしょうか?


優待株も持っていますよ。むしろ、優待+業界トップというのが一番好きですね。よく行くお店の優待をもらえると二重でオトクなので、スシローを運営する「 FOOD&LIFE COMPANIES 」、「 吉野家HD 」、丸亀製麺を運営する「 トリドールHD 」を持ってます。


普段から利用しているお店で使える優待券って、もらえると嬉しいですよね。配当を目的として買うことはありませんか?


配当利回りに魅力を感じて「 日本郵政 」を買ったこともあります。ただ、株主優待よりも、配当の方が変動が激しいと思っていて……。


配当の方が変動が激しい、というのはどういう意味ですか?


株主優待は改悪されたとしても、実は数パーセントの差だったりします。でも、配当株として定評があった「 東京電力HD 」は、東日本大震災以降、配当がゼロになりました。そういう経験をしてきたので、高配当をどこまで信じていいのか、疑問があります。しかも、高配当が出せるということは、業界自体がもう成熟してしまっているので、伸び代は期待できないと思っています


確かに、配当余力がある銘柄は、成熟している企業が多いですね。


そういう背景があるので、そもそも高配当株はそこまで魅力に感じないことが多いかもしれない。もちろん配当がもらえたら、嬉しいです。もう少し歳を取ったら、年金代わりに配当がもらえる高配当株へシフトしているかもしれないですね。

「四季報で十分!」山田さん流・決算のチェックポイント


話がだいぶさかのぼりますが、前編で「 スカパーJSATHD 」のキャッシュフローがプラスで安定しているとおっしゃっていましたよね。会計士の山田さんから見た、決算書のポイントなども伺いたいです。投資初心者は何を参考にすると良いでしょうか?


会社四季報ですね。僕は投資判断をするための情報としては、四季報で十分だと思っているんです。証券会社のサービスで見れたりしますよね?


はい、フロッギーにログインすると最新の四季報レポート、日興イージートレードにログインすると、個別銘柄情報から四季報の情報が見られます。


僕がとくに注目している箇所は、キャッシュフローです。キャッシュフローには、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローがあります。


キャッシュフローは、日興イージートレードで見ることができます。それぞれがどんな意味を持つのか、一つずつ、詳しく知りたいです……!


まず、営業キャッシュフローは本業で1年間に稼いだ金額です。スカパーの場合は、プラスなので、本業で年間424億円稼いでます。投資キャッシュフローは年間153億円のマイナスです。マイナスということは、投資をたくさんしているということなのでOK。そして、財務キャッシュフローがマイナスなのは、借りたお金を返しているということです。


なるほど。財務キャッシュフローがプラスの場合は、どうなんでしょう?


財務キャッシュフローがプラスであれば、お金を借りている状態ですが、投資に回していれば問題ないです。なのでプラスでもマイナスでもOK。僕は、営業キャッシュフローはプラス、投資と財務がマイナスというのが一番良い会社だと見ています。


そういう考え方なんですね。分かりやすいです!


さらにスカパーは、現金等が1143億円あるので、相当キャッシュリッチな会社です。さらに、2025年3月期の売上高予想は1240億円(会社予想)だから、年間の売上と同じぐらいキャッシュがあるわけですね。

1240億円は、会社四季報2025年2集に記載されている、2025年2月5日に会社が発表した営業収益予想です。その後、スカパーJSATHDは、4月25日の決算短信で2025年3月期の営業収益が1237.21億円、2026年3月期の営業収益予想を1276億円と発表しています。


スカパーって、キャッシュリッチな会社なんですね。


だから、安全性も高いと思えるじゃないですか。


確かに。財務が健全な会社は、安心して投資できますね。

歴史の転換期は「50年ごと」に来ている


せっかくなので、最近のマーケットについても伺いたいです。トランプさんの関連の話題でもよく取り沙汰されますが、関税について、今後はどのようになっていくと考えていますか?


今が歴史の転換点だと思ってます。トランプさんの関税がきっかけで、新しい貿易体制が生まれるかもしれないですね。


トランプさんの発言に振り回されている、というよりは、もっと根本的な話なんでしょうか?


貿易の歴史をざっくり理解すると良いかもしれません。だいぶさかのぼりますが、16〜18世紀のヨーロッパでは、「重商主義」という経済思想が主流でした。各国がそれぞれ黒字になればいいという考え方です。そうすると最終的に植民地が多い方が有利なので、植民地戦争が起きたんです。


16世紀……だいぶさかのぼりましたね!


そこから、各国が自由に貿易をすることでうまくいくという「自由主義」になります。その結果、貧富の差が激しくなってしまいました。それは良くないので、国がある程度管理しようという「社会主義」が生まれ、その後、公共事業で雇用だけはなんとかしようという「修正資本主義」になります。


知らなかった……。貿易の考え方って、時代とともにどんどん変わっているんですね。


そうなんです。しかし、国営企業ばかりだと非効率だということで、「新自由主義」となるわけです。そして、国営企業を民営化しようという流れになりました。日本も国鉄がJRになったり、郵便局が日本郵政になりました。


JRや日本郵政というと、ここ近年の話ですね。


この新自由主義は自由貿易が前提なので、関税がどんどんなくなっていきました。それに対する反発が、今回のトランプさんです。このトランプさんの考え方に比較的近いのは「重商主義」です。トランプさんはアメリカが貿易黒字になればいいんだと言って、関税を上げようとしている。


元に戻ってきた感じですね。


ただ、以前の重商主義と少し違っていて、政府の無駄遣いを効率化して、削ろうともしています。小さい政府を目指しているという意味では自由主義に近いかもしれません。とはいえ、これまでのような自由主義がずっと続くとは思えません。


というと?


「修正資本主義」が1920~30年代以降で、「新自由主義」が1970~80年代以降。今が2020年以降だとすると、ちょうど50年周期で考え方が変わる転換点を迎えていて、これから別の時代が来ると思います


なるほど。50年周期で貿易の考え方が変わっているんですね。


そうなると、アメリカのトップ企業を集めたS&P500がこれからも投資対象として良いのかどうか分からないですし、人気のオルカン(オールカントリー)だって、これまでのように全部の国を買えるのかどうか分からない。だからS&P500やオールカントリーが永遠不滅なわけではない、と思ったりします。


時代の大きな転換点を迎えている感じがしますね。今は「S&P500やオルカンに投資していれば大丈夫」という風潮がありますが、歴史を知ると違う見方も出てきますね。


10年後20年後に見たら、今回のトランプ関税が次の時代を生むきっかけになるのかもしれません。


単純にトランプさんの発言に振り回されている、という話では収まらない感じですね。


そうですね。トランプさんのバックボーンにある考えは、自由主義が行き過ぎると自国の産業がダメになるという危機感から生まれています。このような考え方や政治潮流が、日本や他国でも生まれる可能性はあるのではないでしょうか。

エンタメに関税はかからない


そうなると今後、市場の変化の影響を受けずに済みそうな業界はどこでしょうか?


ひとつはやはりエンタメです。エンタメは関税がかからないんです。ソフトだけ輸出して、グッズなどの製造はアメリカで作ればいい。

5月4日、トランプ大統領は、外国で製作された映画に100%の関税を課す方針をSNSで表明しています。今後、映画に関税がかけられる可能性があります。


ここでエンタメにつながるんですね! 関税という面でも、エンタメ業界はメリットがあるんですね。


エンタメには関税がかからないだけでなく、国家資源でもないので、半導体や自動車に比べて規制されにくく、自由度が高いんです。例えば、ブシロードの「BanG Dream!」は、今、中国で非常に人気があります。日本と中国の関係がどうであれ、エンタメは交流がありますから。

「BanG Dream!(バンドリ!)」とは、ブシロードが制作した、次世代ガールズバンドをテーマにしたプロジェクトです。アニメ、ゲーム、声優によるリアルライブなどを展開しています。


確かに、日本のコンテンツは中国でも人気がある印象です。


それと漫画の版権などを持っている会社も、電子化することで、海外でも展開できるようになった。そのおかげで一気に海外市場が伸びて「 KADOKAWA 」や「 スクウェア・エニックス・HD 」は、株価が大きく上がっています。


エンタメ産業、勢いがありますね……! ちなみに、エンタメ系以外にも有望な産業はありますか?


経済ブロックが作られる中で重要視されるのは、安全保障です。となると、軍事系はこれまで以上に注目されるでしょう。そして、宇宙です。ウクライナ戦争でも衛星電話を使った情報のやりとりが大事ですし、安全保障の面からも宇宙を制することは重要です。アメリカが軍事力を背景に各国と交渉をしているのを見て、軍事力=経済力だと思う国々は当然出てくるでしょうね。


なるほど。ここで宇宙が再び出てくるわけですね。面白い! エンタメ、軍事、宇宙は今後も伸び代がありそうですね。

「投資=人類愛」! 煽りに乗らずにマイルールを持つ


たくさんお話を聞かせていただいてありがとうございます! 最後に、フロッギー読者に向けて、アドバイスをもらえますか?


前編の内容とも重複しますが、3つあります。①ボラティリティ(変動率)の幅は30%ぐらいで考えた方が良い②事業ごとのプラスマイナスにはあまりこだわらずに、企業全体でプラスだったら良しとする③長期投資で見た方が気が楽、といったところですね。


やっぱり、考え方が大事なんですね。


つまるところ、投資って考え方やメンタルが、とても大事なジャンルだと思います。ある程度、自分自身の投資に対する考え方や方針を固めたほうがいい。そうしないと、暴落のニュースに惑わされてしまいます。マスコミもYouTuber も、基本的に煽るものです。その煽りに乗らない人の方がうまくいっている気がします。


世の中の煽りに乗らずに、自分の考えやマイルールをしっかり決めて投資することが大切なんですね。


そうですね。自分に合ったスタンスを決めて、あくまでもウェブサイトやYouTubeの情報は参考程度で。人類の歴史を見れば、世界経済は成長していくので、そこに乗ろうぐらいの心持ちでいいと思います。


分かりました!


だから、人類を信じるかどうかですね。人類に対して絶望していたら投資はしない方がいいし、地球がなくなるまでは大丈夫って思えば投資すればいい。極論すれば、「投資は人類愛」ですね。


人類愛! 最後は壮大な話になりました(笑)。山田さん、本日は貴重なお話を聞かせてくださり、ありがとうございました!