業界再生へ緊急提言! 「造船」関連株が上昇

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株式市場で「造船」関連株が買われています。QUICKが選定する関連株の平均上昇率は9.9%と、東証株価指数(TOPIX、2.5%高)を上回りました(6月27日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します!

造船業再生に向けた提言

6月19日、自民党が「造船業再生のための緊急提言」を公表しました。造船業を「地方を創り、国を守り、世界を牽引する」重要な産業と位置づけ。国家戦略として自律性と優位性を確保しつつ再生を目指す方針を示しました。

世界経済の発展に伴い海上輸送量の増加が続くと見込まれます。その中、米国は中国建造船に対する入港料上乗せ措置を講じています。また、国際的な脱炭素化要請に伴うゼロエミッション船など次世代船舶が海運市場を席巻する見込みです。

それらを踏まえ、「緊急提言」では、中国造船業への依存脱却の潮流が日本造船業に構造的な需要増加をもたらす可能性があるとの見方を示しました。さらに、日本の造船業にとって「ゲームチェンジを巻き起こすチャンス」とも指摘しています。

強いエンジンメーカ-への回帰を目指す【赤阪鐵工所】

上昇率首位は船舶用大型ディーゼルエンジンメーカーの赤阪鐵工所 」です。舶用内燃機関および部分品の製造販売、修理工事などを手がけています。

新造船市場はコンテナやエネルギー、自動車などの輸送を主体に活発化しています。しかし、同社の主要顧客が多い内航海運分野では、船価高や船員不足、代替燃料の方向性が見えないことから新造船建造が低調でした。

一方、徐々に建造が回復傾向となっており、主機関の引き合いが増加傾向で積極的に受注活動を展開していく方針を打ち出しています。

2023年6月に公表した中期経営計画では、強いエンジンメーカーへの回帰を目標に掲げました。既存船用ディーゼルエンジンの高効率化と持続可能な燃料に対応した次世代エンジンの開発を進めます。

また、AI技術を活用した「AE-Dr.(Akasaka Engine Doctor)」の完成と、搭載船舶の拡大、自動運航対応機関でのシェア拡大を目指すとしています。加えて、次世代燃料関連における新規事業の確立、防音室・防音床等環境製品の販売拡大を図る方針です。

新規開発のばら積み運搬船を引き渡し【名村造船所】

上昇率2位は大手造船会社の名村造船所です。

6月26日、佐賀県の伊万里事業所で建造していた新規開発の載貨重量18.2万トン型ばら積み運搬船「GLOBAL FUTURE」を引き渡したと発表しました。仏ダンケルク港へ入港可能な最大船型「DUNKIRK MAX」を志向しており、独自開発の省エネフィンの採用で燃料消費量の低減を図っています。

また、外資系証券が「グローバルにおける日本造船業界の重要性の高まりを背景とした収益性の持続的な改善ストーリーを株式市場は十分に織り込んでいない」とのレポートを出したことも手掛かりとなったようです。

社名変更、中期経営計画などで注目

ダイハツインフィニアースは、船舶向け発電用エンジンの大手メーカーで5月に旧ダイハツディーゼルから商号変更しました。

「ダイハツ」ブランドを継承しながらも、環境意識の高まりやデジタル変革の進展を踏まえ、「Infinity(永遠・無限)」と「Earth(地球)」を組み合わせた造語の「インフィニアース」を採用しました。

三井E&S 」は、5月に公表した今後3カ年の中期経営計画「三井E&S Rolling Vision 2025」で経営環境の変化に柔軟に対応し企業価値のさらなる向上を目指すとしています。

最終年度となる2028年3月期に売上高3800億円、営業利益280億円(25年3月期実績は売上高3151億円、営業利益231億円)を目標に掲げています。

川崎重工業は、国内では液化石油ガス(LPG)運搬船や潜水艦などの高付加価値船を建造するとともに、中国では南通と大連で、ばら積み船・大型コンテナ船などを建造しています。また、脱炭素社会に向けて、液化水素運搬船の開発にも取り組んでいます。

日米関税交渉の材料に期待

日米関税交渉のなかで、日本側は自動車分野の投資拡大などに加え、造船分野の協力を進める「日米造船黄金時代計画」の策定を提案していると伝わっています。

トランプ米政権は、米国の商船の造船能力が中国に劣ることなどを問題視し米国第一主義の一環として米国の国家・経済安全保障の確保を目指しています。海事産業基盤の再建や労働力の強化に向けた包括的な取り組みが必要として、海事産業基盤再建の大統領令を発令しました。

日本は自国の造船技術を米国への協力カードとすることで、貿易問題における交渉を有利に進めることが期待されています。また、日本の造船業界は今治造船によるJMUの子会社化など再編が進んでおり、中韓メーカーへの対抗と並行して米国への技術協力が注目されそうです。

需要拡大が見込まれる次世代船舶の受注動向や技術開発にも目配りしていきたいですね(『業績安心感で見直し買い!「造船」関連株が上昇)