ブルーカーボンで進む脱炭素社会への航海

未来を変える!サステナブル投資/ 日興フロッギー編集部岡田 丈

今年もまた、海水浴シーズンがやってきます。今回は、海が身近になるこの時期に、海の脱炭素に関わる「ブルーカーボン」に注目します。

今、海で何が起きている?

長らく庶民の魚として食されていたサケやサンマですが年々漁獲量が減少。ここ5年で倍近くに価格が上昇し、今では気軽に食べられるものではなくなっています。

こうした漁獲量減少の要因の一つとしては、地球温暖化による海水温度の上昇が挙げられます。気象庁によれば日本近海における平均海面温度はここ100年で+1.33℃上昇。世界でも同様で、ここ10年の海面温度の上昇ペースが、過去の4倍近いペースに加速しているとの報告もあります。

海水温度の上昇により、海洋生物の分布の変化や回遊行動の乱れ、海藻が著しく衰退・消滅してしまう海の砂漠化とも言われる「磯焼け」が引き起こされています。これにより今まで日本近海で獲れていたものが取れなくなったり、これまでの産地とは別のところで獲れるようになっています。

こうした魚介類の漁獲量の減少・生息域の変化やそれに伴う価格の上昇は、レストランなどの提供物や我々の消費行動に影響を与えることとなります。

海も森林のように二酸化炭素を吸収している

地球温暖化は、大気中の二酸化炭素(CO₂)濃度が高くなることが主因ですが、CO₂は水にも溶ける性質があります。つまり大気中のCO₂は海に溶け込んでいます。地球の表面の約7割は海のため、海のCO₂吸収量は森林のCO₂吸収量の約10倍とも言われています。

逆に、大気中のCO₂濃度が低い場合は、CO₂が海から放出されるという性質もあります。海は、大気中のCO₂を吸収・排出することで大気中のCO₂濃度をある程度一定に保つ機能を持ちます。

しかし、海のCO₂吸収能力にも限界があります。吸収しきれない分が大気中に蓄積された結果、温暖化が加速しています。そして、地球温暖化は海の温暖化も含めた様々な問題を引き起こします。

ブルーカーボンとは

空気中のCO₂を減らすために必要なのはCO₂排出量の削減、そしてCO₂吸収量の増加も重要なポイントです。植物が光合成によりCO₂を吸収しますが、その際に取り込まれ貯留される炭素は「グリーンカーボン」と呼ばれています。また、海藻など海の植物によって海中や海底に吸収・埋没されるCO₂のことは「ブルーカーボン」と呼ばれています。ブルーカーボンを蓄積する海藻藻場やマングローブ林は、海の豊かな生態系を育成するだけでなく、大気中のCO₂を捕捉する吸収源の一つとも考えられています。

周囲を海に囲まれた海洋国家である日本は、CO₂吸収力のポテンシャルが高く、ブルーカーボンの取組みで世界に先行している状況です。国内の各企業は、ブルーカーボンへの取組を加速していて、近年は新たな地球温暖化対策の新手法として世界からも注目を集めています。

藻場(もば)の再生・造成

各企業の特色を活かしたブルーカーボンの取組みが、全国各地で拡大しています。「 日本製鉄 」は、鉄や鋼を製造する際に副産物として発生する、石灰とシリカなどの鉄以外の成分が溶融・結合した「鉄鋼スラグ」を活用した取組みを行っています。特に、磯焼けにより不毛となった海底の藻場再生を「海の森づくり」と命名し、全国44ヵ所で実施しています。

そのうちの北海道増毛町・泊村・千葉県君津市での3地域での取組みでは、2023年に吸収・固定化されたCO₂が33.3トン(t-CO₂)となり国の機関から認められました。

電源開発 」は、自社で開発した「Jブルーコンクリート」を用いた取組みを行っています。

Jブルーコンクリートとは、火力発電所から出る石炭灰と、銅の精錬過程で出る銅スラグを配合したコンクリートで、一般的なコンクリートと比較して生産時に発生するCO₂が67%程少なく、2割安い、環境に優しく低コストな製品です。さらに、表面の凸凹の工夫などにより、海藻が付着しやすい特徴があります。このJブルーコンクリートを自社事業所の近海に設置し、藻場を造成しています。

Jブルーコンクリートの設置の様子と表面の様子(出所:電源開発)

マングローブ林の保護

ブルーカーボンに関わる生態系の中で、マングローブ林の減少が顕著と言われています。マングローブとは、熱帯や亜熱帯地域の河口付近の真水と海水が混ざり合う汽水域に生息する樹木です。

ブルーカーボンに携わる国際団体であるThe Blue Carbon Initiativeによると、森林伐採や沿岸開発により、過去50年で世界中のマングローブ林の30~50%が失われ、現在も毎年2%の割合で消失しているとの報告もあります。

マングローブの働きはCO₂を取込み、炭素を蓄えるだけではありません。マングローブは「命のゆりかご」と呼ばれていて、マングローブを保護することは共に生きる生物の多様性を守ることに繋がります。

海運大手の「 商船三井 」は、パートナー企業と共同でインドネシアのスマトラ州のマングローブ林の保全活動に取り組んでいます。対象となっているマングローブ林は東京都23区の約3分の1にあたる23,500haのエリアで、30年間で約1,100万トンのCO₂の吸収・削減に貢献することを目指しています。

インドネシアにおけるマングローブ林(出所:商船三井)

ブルーカーボンの側面的支援に取組む企業

また、藻場形成を側面から支援する取組みも盛んです。

日立製作所 」は、多数の納入実績を有する下水処理場の制御システムをさらに高度化し、気候変動抑制と海洋生態系保全を目的とする「下水道ブルーカーボン構想」の実現に向けて取組んでいます。

下水道ブルーカーボン構想では、下水処理場から放流される処理水に含まれる栄養塩の濃度を適切に管理することによる藻場造成の促進を目指しています。

産官学連合が技術を結集し、2023年秋から実海域でのワカメの生育試験を開始して実証データを蓄積しています。

分析のため採取したワカメと計測等を行う様子(出所:日立製作所 )

KDDI 」は、全国各地の自治体や地域企業、地元学術機関などと連携しながら、ICTやIoTを活用した、漁業をはじめとする第一次産業の作業効率化や事業開発の取組みを行っています。

ブルーカーボンの自動計測システム開発を行い、漁船に取り付けた水中カメラで撮影した画像から、機械学習を用いて藻の種類や体積、位置を識別することでブルーカーボンの貯留量を自動計測します。ブルーカーボンの定量化や、藻場保全活動の活性化等が期待されています。

藻類種判別映像からのキャプチャ画像 担当:鳥羽商船高等専門学校(出所:KDDI)

カーボンニュートラルポートとブルーカーボン

最後に、国の取組みを一つをご紹介します。

島国の日本では、輸出入貨物の99.6%が港湾を経由します。そして、港湾地域にはCO₂排出量の約6割を占める発電、鉄鋼、化学工業など多くが立地していてCO₂削減の余地が大きい地域と言えます。

そこで国は、港湾におけるCO₂の排出を全体としてゼロにすることを目指すカーボンニュートラルポートを形成し、2050年までに港湾におけるカーボンニュートラルの実現を目指しています。その取組みの一環として、ブルーカーボンによるCO₂削減についても取組みも進められています。

具体的には、藻場の造成や人工干潟の整備、多様な海洋生物の定着を促す構造物の設置といった取組みが行われています。

なお、このカーボンニュートラルポートに関しては、2025年4月現在、全国98港湾で港湾脱炭素化推進協議会等が設置済、46港湾で港湾脱炭素化推進計画が作成済です。

これらの港湾地域を利用・拠点を置く企業もカーボンニュートラルポートに関わっています。地域により関与する企業は様々ですが、ガス・石油・電力・船舶・倉庫・商社・自動車等の企業が名を連ねています。興味のわいた方はお住いの地域の港湾のカーボンニュートラルポートについて調べてみてください。

ブルーカーボンがもたらすサステナブルな未来

ブルーカーボンは、CO₂吸収源としての機能以外に、水産資源の活性化や生物多様性の保護といった役割を果たします。世界銀行の報告書では海藻養殖市場が2030年迄に最大で約1.7兆円(118億ドル)に成長するとされ、今後の成長も期待できる市場です。日本における技術が世界の海も変えていき、ひいては地球温暖化対応に貢献できることが期待されます。

なお、日興フロッギーでは過去にもブルーカーボンを取り上げています。こちらの記事もご覧ください。

海の脱炭素「ブルーカーボン」活発化
https://froggy.smbcnikko.co.jp/56602/
ブルーカーボン推進で温暖化防止へ
https://froggy.smbcnikko.co.jp/49058/