高層ビルに木造ブーム 技術革新で弱点克服 CO2削減にも寄与

フォーカス!押さえておきたいテーマと企業/ QUICK

高層ビルに木造ブームの波が来ています。これまで揺れやすい、燃えやすい、腐りやすいといった弱点からビルの建築材としては不向きと見なされてきた木材ですが、耐火性能強化など技術革新もあって建材としての可能性が改めて注目されています。東京海上ホールディングスと東京海上日動火災保険の新・本店ビルの設計を手掛けた三菱地所を中心に各社の動向をご紹介します。

東京・丸の内に高さ100メートルの「木の本店ビル」が着工

世界的な建築家が率いる設計事務所(Renzo Piano Building Workshop)と「 三菱地所 」のグループ会社が共同で設計を担当した東京・丸の内の「 東京海上ホールディングス 」グループの新たな本店ビルが今年3月に着工しました。

構造は鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、木造のハイブリッド構造ですが、デザイン上の重要な役割を担ったのが木材です。木の使用量は世界最大規模で、新・本店ビルの高さは実に100メートルです。構造部材の柱や床に国産木材をふんだんに使い、木造柱には芯材を束ね、床にはCLT(直交集成板)と呼ばれるコンクリートに匹敵する強度の高い木材を採用。高層建築物に必要な強度を確保しながら、建物内部は木のぬくもりを感じられる雰囲気を目指した造りになっています。

日本では第二次世界大戦で多くの木造建築物が火災で焼失した経験から、木造ではなく鉄骨や鉄筋コンクリート(RC)で戦後の街づくりを進めてきました。しかし、1980年代以降、木造建築に関する規制緩和や利用促進が段階的に進み、耐火性能の向上や耐震技術の開発も進歩したことで改めて木材が見直されつつあります。

木材はその生育過程で二酸化炭素(CO2)を吸収することから、CO2削減の観点でも建築材料として世界的に注目されています。東京海上の新・本店ビルでは国産木材の大量使用で一般的なビルに比べ建築時のCO2排出量を3割程度削減できるそうです。

また、戦後植林された多くの樹木は利用期を迎え、国産木材の使い道が課題となっています。高層ビル建築で国産木材を大量に用いることで、国内の林業の活性化につなげる狙いも込められています。

木造高層建築が増えている背景

・耐火や耐久性などの技術向上
・法規制の緩和
・二酸化炭素(CO2)排出削減の機運の高まり
・国産木材の需要創出

三井不動産は新たな木造建築ブランドを展開

高層ビルを含むあらゆる建築物への木材活用の動きは他の企業にも広がっています。

三井不動産 」は4月、新たな木造建築ブランドの名称を「&forest」に決定したと発表し、東京・日本橋に建設中の木造賃貸オフィスビルを同ブランド第1号物件として着工しました。日本橋に2棟目の建設計画も推進するなど、木材を使った魅力的な街づくりに向けた取り組みを加速しています。

住友林業 」は6月、中央部分にRC造、両端に木造を配置した平面混構造6階建ての社宅を茨城県つくば市に建設しました。

平面混構造は、地震の影響などで発生する水平力を全てRC造に集中させることで木造部分の負担を軽減できるのが特徴。独自開発の構法や部材、耐火構造部材なども導入し、建設コスト削減と工期短縮を実現しました。同物件を中・大規模集合住宅のモデルケースと位置付け、普及につなげる計画です。

鹿島 」は5月、同社の東北支店ビルを木造建築に建て替える計画を発表しました。独自開発した木造制震構造を使い、超高層ビルと同等の耐震設計基準を満たす木造フラッグシップビルで、2028年度内の竣工を目指します。鹿島では社有林を積極的に活用することで森林の適正管理や再生にもつなげようとしており、使用する木材には一部自社保有林の産出材を使う予定です。

商業施設にも木材を取り入れる機運が高まっています。「 丸井グループ 」は「渋谷マルイ」を2022年に一時休業し、日本初の本格的な木造商業施設として26年の営業再開に向けて建て替えを進めています。耐火木材などを構造の約6割に木材を使うなど、環境負荷の軽減を通じた社会貢献の象徴と位置付けています。

高層ビルから商業施設に至るまで木材の活用がさらに広がれば、街の風景も大きく変わりそうです。