小田急電鉄【9007】箱根など観光地を沿線にもつ鉄道会社は堅調な話

日興フロッギー版 妄想する決算/ 妄想する決算

カエル先生の一言

音声メディア「Voicy」で、「10分で決算が分かるラジオ」を毎日配信中の「妄想する決算さん」が、日経225・グロースコア・スタンダードコアの企業を1社ずつ取り上げる人気連載を日興フロッギー版としてスタート! 読むだけで、知らず知らずのうちに主要な株価指数に採用されている企業についてわかるようになる決算解説。日興フロッギー版ならサクっと5分でチェックできます!

統合報告書2024
2025年3月期 決算説明資料
2024年3月期決算説明資料
2024年3月期 説明会 経営ビジョンの実現にむけた中期経営計画(2024~2026年度)
2019年3月期 決算説明資料
2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
2025年3月期 説明会中期経営計画(2025~2026年度)

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、小田急電鉄株式会社の「統合報告書2024」「2025年3月期 決算説明資料」「2024年3月期決算説明資料」「2024年3月期 説明会 経営ビジョンの実現にむけた中期経営計画(2024~2026年度)」「2019年3月期 決算説明資料」「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」「2025年3月期 説明会中期経営計画(2025~2026年度)」より引用しています。
※統合報告書の参照につきましては、スライド番号ではなくページ番号を使用しています。

今回取り上げるのは新宿~小田原をつなぐ小田急線など、東京都と神奈川を中心に鉄道事業を展開している小田急電鉄株式会社です。

事業内容

小田急電鉄の事業セグメントは以下の3つです(統合報告書2024 P6~9参照)。

①交通業:鉄道を主力とする交通関連事業
・鉄道事業:小田急線や江ノ島電鉄などの鉄道事業
・バス事業:路線バスや高速バス
・その他:箱根登山鉄道、タクシーなど
②不動産業:鉄道沿線を中心に不動産分譲や賃貸が主力
③生活サービス業:小田急百貨店などの百貨店、スーパーマーケット、ホテル、レストランなどを展開

鉄道を中心に交通業を展開し、その沿線で不動産や、小売り、ホテル、レストランなども開発しています。

2025年3月期時点でのセグメント別の営業利益構成比率/営業利益額は以下の通りです(2025年3月期決算説明資料 P5参照)。

①交通業:40%/264億円
②不動産業:22%/158億円
③生活サービス業:38%/90億円
※営業利益構成比率は妄想する決算氏が算出。

交通業が主力ですが、各事業とも一定の規模を持ち、分散した構成になっています。

続いて、2025年3月期の交通業の詳細な営業利益額は以下の通りです(2025年3月期決算説明資料 P9参照)。

・鉄道業:213億円
・バス業:27億円
・その他:23億円

交通業の中では鉄道が主力です。

2025年3月期の生活サービス業の詳細な営業利益は以下の通りです(2025年3月期決算説明資料 P13参照)。

・百貨店:15億円
・ストア:18億円
・ホテル:29億円
・レストラン飲食:3億円
・その他:24億円

百貨店、ストア、ホテルで分散した構成となっています。

鉄道を主力とし、不動産、百貨店、ストア、ホテルなど、一定の規模を持つ事業を多数保有していることが分かります。しかし、鉄道沿線を中心に開発しているため、その周辺地域の移動需要や人口動態が重要な要素となっています。

業績の推移

事業内容について分かったところで、続いて業績の推移を見ていきましょう。

出所:妄想する決算氏作成

まず、2015年3月期から2024年3月期までの10年間の営業収益の推移を見ていくと、コロナ禍前は約5000億円で増減していましたが、コロナ禍以降は約1000億円減少した状況が続いています。2022年3月期を底に回復傾向にはありますが、依然として停滞が見られます。

※2022年3月期より「収益認識に関する会計基準」等を適用した影響により、2021年3月期以前よりも営業収益が減少しています。影響を控除した場合の営業収益は下記の通りです。なお、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益への影響は軽微です。

2022年3月期 425,657百万円、2023年3月期 457,776百万円、2024年3月期 458,330百万円

続いて営業利益の推移を見てみると、コロナ禍前は500億円前後で推移していましたが、コロナ禍では低迷しました。しかし、2024年3月期には以前と同水準に回復しています。

出所:妄想する決算氏作成

純利益(※ここでは親会社株主に帰属する当期純利益のこと)の推移を見ると、コロナ禍前は約300億円で横ばいでしたが、2021年3月期には赤字転落し苦戦しました。しかし、2022年3月期には黒字化し、2023年3月期からは2期連続で過去最高益を更新しています。営業収益は停滞しているものの、コロナ禍を経て収益性が向上し、純利益は非常に好調です。

純利益が好調であった理由は、コロナ禍で業績が低迷する中、体質変革の取り組みを進めたことが影響しています。保有不動産を1400億円売却し、政策保有株式を200億円分売却するなど、その売却益が一時的な要因となり純利益を押し上げました。また、事業構造改革によって約140億円の効果が出て、根本的な収益性の改善も進んでいます。

次に、営業収益はコロナ禍前と比べて減少していたものの、営業利益は以前の水準まで回復していますので、営業利益率が上昇した要因についても見ていきましょう。

2019年3月期→2024年3月期のセグメント別の業績の変化は以下の通りです(2024年3月期決算説明資料 P2、2019年3月期決算説明資料 P2参照)。

営業収益(2019/3→2024/3)
・運輸業:1792億円→1703億円
※2025年3月期より「交通業」に名称変更
・流通業:2106億円→875億円※
※「収益認識に関する会計基準」等適用の影響を控除した場合:1,385億円
※「流通業」は2025年3月期からホテル業などを加えて「生活サービス業」に再編
・不動産業:690億円→793億円
営業利益(2019/3→2024/3)
・運輸業:292億円→255億円
・流通業:29億円→19億円
・不動産業:137億円→171億円

営業収益が大きく減少した要因は流通業にあることが分かります。一方で、利益面への影響は▲10億円と小さいです。また、運輸業は若干の減収減益の状況であり、不動産業は増収増益となっています。この2つの事業を合計すると、利益面では横ばいです。つまり、流通業の利益率の変化が収益性に大きく影響を与えていたということです。

ではどうして流通業の営業収益がこれだけ大きく減少したのかというと、その最大の要因は2022年3月期より「収益認識に関する会計基準」等を適用したためです。加えて、北欧トーキョーの事業譲渡や、新宿駅西口地区開発計画の工事に伴う、小田急百貨店新宿店の営業規模縮小も影響しています(2024年3月期決算説明資料 P7参照)。

現在は小田急電鉄と東京メトロ、東急不動産の3社合同で、小田急百貨店新宿本館だった場所に48階建て複合施設を建設しています。2029年度の竣工に向けて開発を進めている状況で、竣工後は商業・オフィスといった、主に不動産事業として展開していくことになります(2025年3月期説明会中期経営計画 P19、20参照)。

竣工後には不動産業の拡大は期待されますが、生活サービス業(旧流通業)としては業績への貢献が限定的ということです。とはいえ、生活サービス業の業績の低迷が続くことが予想されるのかというと、そうではありません。2025年3月期からは事業セグメントの再編で、以前はその他事業扱いだったホテル事業が加わりました

ホテル単価は高騰が続き、ホテル事業を展開する企業は非常に好調ですので、ホテル事業からの成長が期待されます。さらに、百貨店ではインバウンド需要が円安を背景に高級品の積極的な購入に繋がっていて、百貨店業界にも好調な企業が多く見られます。生活サービス業では、2019年度以前の水準と比較すると、営業収益が減少する状況が続くと考えられますが、利益面では拡大の可能性が十分にあります。

続いて、以前と比べて減益になっていた運輸業について、もう少し詳しく見ていきましょう。

運輸業のより詳細な2019年3月期→2024年3月期での営業利益の変化は、以下の通りです(2024年3月期決算説明資料 P5、2019年3月期決算説明資料 P5参照)。

・鉄道業:268億円→222億円
・バス業:17億円→18億円
・その他:12億円→16億円

箱根ロープウェイや箱根海賊船など箱根を主力とするその他事業が、活況なインバウンドなど旅行需要の増加を受けて増益となっていますし、バス事業も増益を達成しています。

一方で主力の鉄道業が十分な回復に至っていません。輸送収入の2019年3月期→2024年3月期での変化は以下の通りです(2024年3月期決算説明資料 P6、2019年3月期決算説明資料 P6参照)。

①定期:477億円→415億円
・通勤定期:410億円→356億円
・通学定期:67億円→59億円
②定期外:718億円→714億円

2023年3月より、1乗車につき10円を加算する鉄道駅バリアフリー料金制度の適用を開始したことに加え、定期外は、運賃の改定を進めたことや、旅行需要や外出需要の回復を受けてコロナ禍前の水準まで回復していますが、テレワーク化などが浸透する中で定期収入の減少が続いています。

箱根などの人気の観光地を沿線に抱え、その他事業やバス事業なども堅調な状況が見込めますから(2025年3月期説明会中期経営計画 P15参照)、一定の業績回復が進む可能性が高いです。しかし人件費や償却費、修繕費といったコスト増加も見込んでいますので、そういった側面から考えても、交通業は一定の回復は期待されるものの、今後の拡大は難しい状況でしょう。

また、長期的には少子化に伴う沿線人口の減少も見込まれ、価格改定や効率化などの取り組みで収益性の改善が期待されますが、大きな成長は難しい状況です(統合報告書2024 P14参照)。

そういった状況の中で、今後拡大を目指しているのは生活サービス事業や不動産事業です。沿線の開発を積極的に進めていこうとしています(2025年3月期説明会中期経営計画 P10、35参照)。

新宿という大都市と箱根や江の島といった観光地を抱えている強みを活かし、不動産開発やインバウンドを含めた観光需要を取り込むことで、多様な形態での開発を進めています(2025年3月期説明会中期経営計画 P16、22参照)。

不動産業では、賃貸・分譲共に開発中のパイプラインが多数ありますので、まずは新宿の開発を含めた進捗に注目です。

ここまでのまとめ

・鉄道を中心に交通業を展開し、その沿線で不動産や、小売り、ホテル、レストランなども開発
・営業利益はコロナ禍前の500億円水準に2024年には回復
・純利益は2023年から過去最高益を更新
・体質変革により、保有不動産や政策保有株式の売却が純利益を押し上げ
・流通業の営業収益減少は小田急百貨店新宿本館の閉店などの影響
・不動産業は増収増益、交通業は定期収入の減少が懸念されるが、生活サービス業はホテル事業の成長が期待され、業績の拡大が見込まれる

直近の業績

直近の2025年3月期の業績を見ていきましょう(決算短信より)。

営業収益:4227億円(+3.1%)
営業利益:514億円(+1.3%)
経常利益:505億円(▲0.4%)
純利益:520億円(▲36.3%)

増収で営業利益は増益ながらも経常利益は微減で、純利益は大幅な減益となっています。

小田急電鉄 2025年3月期決算説明資料より

純利益が大幅減益となったのは、前期の固定資産(小田急センチュリービル)の売却益の反動です。今期も関係会社株式および投資有価証券の売却益が256億円分ありましたが、前期の特別利益があまりに大きく、減益となっています。とはいえ一時要因ですから事業面は堅調な状況が続いていることが分かります。

セグメント別の営業利益の前期比は以下の通りです(2025年3月期決算説明資料 P5参照)。

①交通業:+6億円
②不動産業:▲19億円
③生活サービス業:+20億円

不動産業は減益となりましたが、それ以外の事業は増益となり堅調です。各事業の状況についてもう少し詳しく見ていきましょう。

交通業の詳細な営業利益の前期比は以下の通りです(2025年3月期決算説明資料 P9参照)。

・鉄道業:▲9億円
・バス業:+10億円
・その他:+4億円

実は伸びたのはバス業で、鉄道業は設備更新費の増加などを受けて減益となっています。

小田急電鉄 2025年3月期決算説明資料より

鉄道業に関しても運輸収入は増加していますから、需要の回復は進んだもののコストの増加を受けていたことが分かります。また、営業収益は鉄道やバスも好調でしたが、それには運賃改定に加えて箱根などの観光収益の増加が影響しています。

活況なインバウンド・旅行需要がありますので、観光地で事業を展開出来ている強みによって、バスを中心に事業が拡大しているということです。

小田急電鉄 2025年3月期決算説明資料より

不動産事業では、不動産賃貸が水道光熱費の増加により減益となり、分譲事業も前期の高利益率物件売却の反動で減益です。ただし、不動産分譲はマンション価格の上昇により営業収益が増加し、不動産賃貸も商業施設の賃料収入やオフィスの稼働率の向上によって増収しています。堅調な市場環境の中で、今後は高収益物件の売買動向に左右されるものの、安定した業績が期待されます。

小田急電鉄 2025年3月期決算説明資料より

最後に生活サービス業の詳細な営業利益の前期比は以下の通りです。

・百貨店:+15億円
・ストア:▲0.4億円
・ホテル:▲1億円
・レストラン飲食:+2億円
・その他:+5億円

百貨店が好調だったことで増益を達成しています。これには、小田急百貨店の決算期を2月から3月に変更したため、13ヵ月の決算となったことも影響していますが、百貨店自体も円安によるインバウンドの販売増などがあり、業態として堅調に推移しています。また、ホテル事業は若干の減益となりましたが、これは沿線外のホテルを多数運営していた子会社を連結除外したことが影響しています。既存のホテル自体は客室単価や稼働率が上昇しているため、堅調な状況だと考えられます。ホテル単価は高止まりを続け、今後も好調が続くことが期待されます。このように、活況なインバウンドを受けて交通業や生活サービス業は堅調であり、観光地を沿線に持つ強みを活かして、今後も安定した業績が期待されます。

小田急電鉄 2025年3月期決算説明資料より

そんな中で2026年3月期の業績は、純利益こそ2025年3月期の株式の売却益による反動で減益を見込むものの、増収で営業利益や経常利益は増益を見込んでいます

小田急電鉄 2025年3月期決算説明資料より

交通業や生活サービス業で堅調な状況が続くことが見込まれるため、事業の進捗に注目です。

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」を日興フロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
小田急電鉄