IHI【7013】防衛予算増加で期待されるIHIは意外と安定収益の規模が大きい話

日興フロッギー版 妄想する決算/ 妄想する決算

カエル先生の一言

音声メディア「Voicy」で、「10分で決算が分かるラジオ」を毎日配信中の「妄想する決算さん」が、日経225・グロースコア・スタンダードコアの企業を1社ずつ取り上げる人気連載を日興フロッギー版としてスタート! 読むだけで、知らず知らずのうちに主要な株価指数に採用されている企業についてわかるようになる決算解説。日興フロッギー版ならサクっと5分でチェックできます!

IHI統合報告書2024
2024年度(2025年3月期)決算説明資料(IFRS)
2018年度(2019年3月期)決算説明資料
2022年度(2023年3月期)決算説明資料(IFRS)
2024年度(2025年3月期)決算説明会 経営概況
2023年度(2024年3月期)決算説明資料(IFRS)
2025年3月期決算短信〔IFRS〕(連結)

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、株式会社IHIの「IHI統合報告書2024」「2024年度(2025年3月期)決算説明資料(IFRS)」「2018年度(2019年3月期)決算説明資料」「2022年度(2023年3月期)決算説明資料(IFRS)」「2024年度(2025年3月期)決算説明会 経営概況」「2023年度(2024年3月期)決算説明資料(IFRS)」「2025年3月期決算短信〔IFRS〕(連結)」より引用しています。

今回取り上げるのは、航空エンジンやロケットなどで知られている大手の重工企業の株式会社IHIです。

事業内容

それでは早速事業内容から見ていきましょう。

IHIの事業は大きく4つに分かれています(統合報告書2024 P53~56参照)。

①資源・エネルギー・環境事業領域
・カーボンソリューション(41%):火力発電用の高効率ボイラ、燃料貯蔵設備、再エネプラント、その保守や運用など
・原動機(18%):陸用・船用原動機やガスタービンなど
・原子力(14%):圧力容器などの原子力機器の製造販売や廃炉関連など
・その他(27%)
ボイラ技術では世界トップレベル
②社会基盤事業領域
・橋梁・水門(59%)
・シールドシステム(10%):トンネル掘削機
・都市開発(10%):不動産賃貸など
・その他(22%):鉄道の交通システムなど
瀬戸大橋の施工を行うなど橋梁や水門に強みを持つ事業
③産業システム・汎用機械事業領域
・車両過給機(45%):エンジン車向けのターボチャージャー
・パーキング(12%):立体駐車場システムや自動車運搬システムなど
・回転機械(13%):圧縮機械や分離装置、船舶用過給機など
・熱表面処理(10%):工業用加熱装置の製造販売や表面処理の受託など
・物流・産業システム(8%):物流システム、産業機械
・運搬機械(7%):
・その他(6%)
④航空・宇宙・防衛事業
・民間向け航空エンジン(59%)
・防衛向け航空エンジン(29%)
・その他(11%):ロケットシステム・宇宙利用

日本のジェットエンジン生産の6~7割のシェアを持つ企業であり、防衛省向けの航空機エンジンの大半を担っています。さらに、航空機エンジンや宇宙関連事業のほか、エネルギー関連事業や橋梁、水門、車両過給機など多様な製品を展開し、社会インフラを支えています。

2025年3月期のセグメント別の構成比率は以下の通りです(2025年3月期決算説明資料 P29参照)。

売上収益構成
①資源・エネルギー・環境事業:26%
②社会基盤事業:9%
③産業システム・汎用機械事業:30%
④航空・宇宙・防衛事業:35%
EBITDA構成
①資源・エネルギー・環境事業:11%
②社会基盤事業:3%
③産業システム・汎用機械事業:11%
④航空・宇宙・防衛事業:75%

売上収益は分散した構成比率ですが、利益の大半を航空・宇宙・防衛で稼いでいます。防衛や民間向けの航空機のエンジンが主力ですから、航空機の需要や防衛予算が重要になります。

また、民間エンジン事業の売上構成比率は、以下の通りです(2025年3月期決算説明資料 P15参照)。

・本体:34%
・スペアパーツ:60%
・整備:6%

整備やスペアパーツが2/3を占めています。新規の飛行機需要だけでなく、飛行機がどれだけ稼働するかにも影響を受けやすい事業です。そして、本体は売ったら終わる事業ではなく、その後のアフターサービスで稼いでいるため、一定のストック収益が期待できます。

防衛向けの航空機エンジンも同様にストック収益があると思われ、主力事業にストック収益があることで安定した業績が期待できます。

続いて2025年3月期の地域別の売上収益構成比率は以下の通りです(2025年3月期決算説明資料 P30参照)。

①日本:46%
②アジア:16%
③中国:6%
④北米:25%
⑤中南米:0%
⑥欧州:6%
⑦その他:1%

日本を主力に北米やアジアでも一定の規模を持っています。グローバルでの航空機需要を中心に、インフラ投資の動向に左右されます。

また、海外比率も54%ほどあるため、為替の影響も受け、2026年3月期のドル円の1円の円安による営業利益への影響は+19億円となっています。営業利益は1500億円ほどを見込んでいますから、1円の変動で1.3%ほど営業利益が変動することになります。為替も変動の大きな状況が続いていますから、為替の変動にも注目です(2025年3月期決算説明資料 P12参照)。

業績の推移

事業内容が分かった所で続いて、2015年3月期~2024年3月期までの10年間の業績の推移を見ていきましょう。

出所:妄想する決算氏作成

まず、売上収益の推移を見てみるとコロナ禍前は1.4~1.5兆円で推移していた売上がコロナ禍以降は低迷し2024年3月期でも1.3兆円台となっています。

出所:妄想する決算氏作成

一方で営業利益の推移を見ていくと、コロナ禍で2020年3月期~2021年3月期に悪化したものの、2022~2023年3月期はコロナ禍前の好調だった2019年3月期と同程度の水準に戻し、収益性が高くなり、早期に回復しています。また、2024年3月期は、701億円もの赤字に転落し、苦戦しています。

ではどうしてこのような推移となったのか、2019年3月期と2023年3月期のセグメント利益を比較してみます(2019年3月期決算説明資料 P6、2023年3月期決算資料 P7参照)。

①資源・エネルギー・環境事業:33億円→262億円
②社会基盤事業:142億円→170億円
③産業システム・汎用機械事業:231億円→180億円
④航空・宇宙・防衛事業:464億円→361億円

コロナ禍での移動需要の低迷を受けて、主力の航空・宇宙・防衛事業は低迷していますが、その一方で資源・エネルギー・環境事業が大幅増益となっています。円安による好影響もありましたし、以前のIHIは大型火力発電所など、大型案件の採算が悪く、それが低収益化の要因となっていた側面がありました。その採算が改善したことや、設備完成後の「点検・保守・更新」といったライフサイクルビジネスにも注力することで改善しています(2024年3月期決算説明資料 P7参照)。そういったこともあり、以前と比べて高収益が期待できる状況となっています。

また、2024年3月期は大きな赤字になっていましたが、これに影響していたのは、車両過給機事業による大型の減損です。EV化が進む中で、エンジン車向けの車両過給機は需要減少が見込まれるため、特にEV化の速い欧州事業の再編を行い、それによって大型の減損を行っています。

実態は、航空機需要の回復やコスト構造改革の好影響などもあり、減損の影響を除くと増益になっています。つまり、減損を除けばコロナ禍前を上回る利益水準となり、好調です。

民間では新興国の経済成長に伴い航空機需要の拡大が見込まれていますし、なにより日本は防衛予算の倍増を決めているため、防衛事業による拡大が見込まれます(2025年3月期決算説明会 経営概況 P19、20参照)。

さらに、ロケット含め宇宙向けも国が後押しする形で投資が拡大していますので、宇宙関連も成長が見込まれる領域です。

直近でも、衛星データの安全保障活用に向けて北欧の大手企業との提携が報道されていて、宇宙を活用した防衛も成長が見込まれます。2024年3月期時点では、すでに、航空・宇宙・防衛事業の受注高は、前期比で2069億円増加し、5797億円です。すでに大きな拡大が始まっていることが分かります(2024年3月期決算説明資料 P18参照)。

航空・宇宙・防衛事業は2030年には、売上収益8000億円、営業利益15%程度、2040年には売上1兆円、営業利益率15%以上の見通しを立てています。今後の大きな成長が期待されます(統合報告書2024 P61、62参照)。

また、現在のIHIは事業ポートフォリオを3つに分けています(統合報告書2024 P69参照)。成長事業に位置付けているのが航空・宇宙・防衛事業で、育成事業は燃料アンモニアのバリューチェーン事業、それ以外の事業は、中核事業として、構造改革を進めていこうとしています。

育成事業におけるアンモニアの活用がどのような事業か簡単に説明します。アンモニア(NH₃)は常温常圧で液化できるため、輸送や貯蔵が容易です。水素を含むため、発電に活用できるほか、水素を運ぶ媒体としても利用可能です。また、炭素を含まないため、燃焼してもCO₂を排出しません。燃焼時には既存の火力用ボイラ技術を使用できるため、脱炭素化の中での拡大を目指しています(2025年3月期決算説明会 経営概況 P15参照)。

国もGX(グリーントランスフォーメーション)戦略の中でアンモニア活用を掲げていますから、こうした支援も受けつつ、拡大が進むかに注目です。

また、原子力事業は成長を目指しています(2025年3月期決算説明会 経営概況 P17参照)。電力需要が増加する中で原子力の再稼働が見込まれていますので、原子力事業も成長が期待されます。

一方でその他多くの中核事業では、不採算事業の撤退も含めた構造改革を進めています(2025年3月期決算説明会 経営概況 P10参照)。

先ほど触れた車両過給機事業の欧州拠点の集約などの構造改革、その他にも汎用ボイラ事業の譲渡、運搬システムや芝草・芝生管理機器事業譲渡、コンクリート建材事業の譲渡など多くの事業譲渡なども進めています。さらに、資本効率化に向けて投資用不動産や政策保有株の売却といったアセットライト化も進めています(2025年3月期決算説明会 経営概況 P4参照)。

多くの事業譲渡を含めた構造改革や保有資産の売却を進めていますから、そういった一時要因で業績が左右される状況が続く可能性があるものの、構造改革による収益性改善や航空・宇宙・防衛や原子力といった成長事業の拡大による成長が期待できる状況です。

ここまでのまとめ

・事業領域は、資源・エネルギー・環境事業、社会基盤事業、産業システム・汎用機械事業、航空・宇宙・防衛事業の4事業に分かれる
・利益の大半は航空・宇宙・防衛からで、業績は安定
・売上の46%は日本、25%は北米に依存しているため、為替の影響も受ける
・近年は、主力の航空機がコロナ禍の需要低迷によって苦戦していたものの、資源・エネルギー・環境事業は収益性が改善したことで堅調
・航空需要回復や防衛予算増加で成長期待
・航空・宇宙・防衛を成長事業に位置付け、構造改革を進行中

直近の業績

続いて直近の2025年3月期の業績を見ていきましょう(決算短信より)。

売上収益:1兆6268億円(+23.0%)
営業利益:▲701億円→1435億円
親会社の所有者に帰属する当期利益:▲682億円→1127億円
営業利益(特別要因の除く):1435億円(+14.1%)※2025年3月期決算説明資料 P5営業利益参照

営業利益、純利益も過去最高を達成し、特別要因を除いた営業利益も成長が続き、好調です。

特別要因を除いたセグメント別の営業利益(前期比)は以下の通りです(2025年3月期決算説明資料  P21参照)。

①資源・エネルギー・環境事業:161億円(▲162億円)
②社会基盤事業:▲42億円(▲91億円)
③産業システム・汎用機械事業:108億円(▲19億円)
④航空・宇宙・防衛事業:1227億円(+659億円)

航空・宇宙・防衛事業が大幅な増益になっています。

IHI 2025年3月期決算説明資料より

IHI 2025年3月期決算説明資料より

航空・宇宙・防衛事業が好調となったのは、移動需要が大きく回復する中で、スペアパーツの需要が好調に推移していることに加え、防衛事業の収益性改善もあったためです。整備期間の長期化による費用発生の遅れといった要因もありましたが、全体として堅調な状況です。

航空・宇宙・防衛事業では受注残高も+1549億円で6059億円と、受注面も好調ですから今後も堅調な業績が期待されます(2025年3月期決算説明資料 P21参照)。

続いて、その他の事業の状況も見ていきます。

資源・エネルギー・環境事業は、▲162億円もの大幅減益でした(2025年3月期決算説明資料 P21参照)。これは、アメリカのプロセスプラントで、工事遅延に関する訴訟の影響が前期にあった影響が大きく、実質的な利益としては、海外子会社の収益性悪化や品質対応によるコストでの▲16億円にとどまっています。一方でカーボンソリューションを中心に受注高は大幅に増加し、翌期以降の業績改善を見込んでいます(2025年3月期決算説明資料P25参照)。電力需要が拡大する中で、火力発電用ボイラなども需要が増加しています。

社会基盤事業では、構造改革費用があったため、赤字転落となっています。売上収益も縮小し、低迷傾向ではありますが、翌期以降は構造改革費用の反動やその効果によって業績改善が見込まれます(2025年3月期決算説明資料 P26参照)。

産業システム・汎用機械は、車両過給機の価格転嫁交渉の遅れや、事業構造改革費用によって減益となったものの、2026年3月期には車両過給機の価格転嫁が進んだことで収益性の改善を見込んでいます(2025年3月期決算説明資料 P27参照)。

構造改革の中で、一時要因によって業績が左右されやすい状況は続いていますが、今後は堅調な業績が期待される事業が多いことが分かります。

2026年3月期の通期予想でも、増収増益を見込んでいます(2025年3月期決算説明資料 P12参照)。

IHI 2025年3月期決算説明資料より

トランプ関税の影響や、構造改革の影響、さらに、為替の悪化を見込みつつも、事業の拡大による成長が続くことを見込んでいます。

ちなみに、トランプ関税による影響としては、直接的なものがいくつかあります。民間航空エンジンについては、アメリカのGEやプラット・アンド・ホイットニー社と共同開発を行っていて、アメリカの事業パートナーへの部品供給に影響が出る可能性があります。また、車両過給機ではアメリカ市場で国内向けの製品を製造・販売しているため、アメリカから国内への輸入に影響が見込まれます。もちろん、それ以外にも景気低迷や原材料コストの上昇など、影響が出てくる可能性がありますので、注意が必要です。

とはいえ、基本的には成長が期待されるため、事業の拡大と構造改革がしっかり進んでいるかに注目したいところです。

また、為替に関してはドル円で140円を見込んでいます。先ほど見たように1円の円安で1.3%ほど好影響がありますので、為替相場次第では、さらなる好調が期待されます。

為替やトランプ関税の動向など、市場環境の変化にも注目です。

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」を日興フロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
IHI