米景気に黄色信号 想定される3つのシナリオ

日興フロッギーNEWS/ 日興フロッギー編集部

8月1日に公表された米雇用統計の下振れを受けて、同日のNY株式市場ではNYダウが542ドル安の4万3588ドル。その流れを受けて8月4日の日本株市場でも売りが先行し、日経平均は一時1000円近く下げる場面がありました(4日前場引け時点)。1年前の暴落が想起される中、今後想定される3つのシナリオをサクッとご紹介します。

米景気堅調に「黄色信号」

「相互関税の影響は軽微で米国の景気は雇用を中心にまだ堅調」そういう認識が市場に広がっていましたが、8月1日公表の米雇用統計の結果はそれを覆すものでした。7月分の非農業部門雇用者数は7.3万人増と市場予想の9.8万人増を下回りました。特に注目されたのは5月と6月分の下方修正です。

これまでは5月:12.5万人、6月:14.7万人と底堅さを示していましたが、それらが5月:1.9万人、6月:1.4万人と大幅に下方修正されたのです。

この結果を受けて、トランプ米大統領は政治的に操作されたと一方的に主張し、労働省の担当局長の解任を命じる事態にまで発展しています。一方で、この結果はトランプ米大統領が以前から主張する「利下げ」の追い風になるとみられ、目先は米金融政策の行方に注目が集まります。

ドル円は150円台→147円台に

米国では利下げ、日本では利上げと日米金利差が縮小する見方が市場を覆いつつあることから、為替市場では円高が進行しました。雇用統計発表前にドル円は150円台後半を付けていたものの、その後4日朝の時点では147円台まで円高が進行しています。

これを受けて4日の日本株市場でも売りが先行。日経平均は再び4万円割れの水準まで株安が進みました。

1年前との比較

今回の雇用統計下振れに端を発した円高株安を見て、ちょうど1年前の急落を思い出した方もいらっしゃるのではないでしょうか。米経済指標をきっかけにした点やバリュエーション面で言うとほぼ同じですが、他の点を見ると、少し状況は異なります。

まず日銀の金融政策に対するスタンスとその市場への折り込み具合です。1年前の急落時には日銀が利上げを実施し、さらに会合後の記者会見で植田日銀総裁が「0.5%を壁として特に意識していない」と発言したことが注目されました。追加利上げのさらに先を見据えた発言をしたことで、一部投資家からはタカ派(利上げなど引き締めに積極的)と見られ、円高株安になりました。

「1ドル=148円台に!日米金融政策で相場乱高下」を読む
「日経平均4451円安で歴代トップ!今後の反転の機会を探る」を読む

ただ、足元ではすでに日銀の年内利上げなどはマーケットで織り込まれており、足元の円高進行や相互関税による米景気悪化懸念等を考えれば、利上げを急がない可能性もあります。

一方で、米国のインフレ率はやや縮小したとはいえ、依然として高い水準を維持しています。雇用統計の悪化やトランプ大統領による「利下げ」催促があったとしても、利下げには慎重にならざるを得ない状況にあります。

今後想定される3つのシナリオ

こうした状況のもとで、今後想定される3つのシナリオは以下の通りです。

①米国:9月利下げ、日本:利上げ急がず
②米国:8月緊急利下げ
③米国:利下げ見送り、日本:利上げ

①米国:9月利下げ、日本:利上げ急がず

インフレ率がまだ高くても、もし9月の雇用統計も同じように芳しくない結果となれば、さらに利下げへの圧力が高まると考えられます。FRB(連邦準備制度理事会)は「物価」「雇用」について2つの使命を持っていますが、後者を優先せざるを得ない状況になります。

一方で、このような局面で日銀が利上げを実施すれば、日米金融政策の方向性の違いが明確となり、円高が進行すると想定されます。そうなると、企業業績への懸念から株安も想定され、日銀としては安易な利上げはしづらくなるのではないでしょうか。

②米国:8月緊急利下げ

もし今後マーケットが催促相場となり、かつトランプ大統領による利下げのプレッシャーなどが強まることになれば、緊急会合を開き、利下げを決定するということも可能性としてはあります。

また、今年の8月下旬に行われるジャクソンホールの議題は奇しくも「労働市場」についてとのこと。過去にはジャクソンホールにおける金融当局者の発言により相場が乱高下する場面がありました。今年はより一層注目が集まりそうです。

③米国:利下げ見送り、日本:利上げ

一方で、リスクとして考えておきたいのは、労働市場の弱さと同時に、関税によるインフレ率の上昇が発現してしまうことです。いわゆる「スタグフレーション」の状況となり、米国では利下げに踏み切れないというリスクです。

また、相対的に労働市場などがしっかりしている日本で、インフレ率が高止まりしてしまうと、日銀は利上げをせざるを得ない状況になることも想定されます。そうなると円高が進行し、株安に拍車がかかる可能性もあります。このケースは要注意と言えそうです。

今後のスケジュール

9月までの主なスケジュールを以下にまとめました。米国の雇用統計、インフレ率および日米金融政策決定会合などは押さえておきたいところです。

これを機会にご自身のリスク許容度を確認し、必要に応じて株の比率を下げたり、金などの資産への投資も検討してみてもよいかもしれません。