投資や資産形成をもっと楽しくするためにピッタリの書籍を、著者の方とともにご紹介する本連載。今回は、投資における「テクニカル派」「ファンダメンタルズ派」「インデックス派」という3つの「流派」のうち、「インデックス派」について、マネーコンサルタントの頼藤太希さんと見ていきます。[PR]
投資には大きく分けて、3つの流派がある
完璧な投資方法というものは存在しませんが、株式投資で利益を得るための方法は、古来多くの人が研究してきました。その研究結果は、大きく3つの「流派」に分類できます。それぞれ一言でまとめると、次のようになります。
①テクニカル派……チャートや指標からタイミングをとらえて投資
②ファンダメンタルズ派……業績や財務情報などから投資先を選んで投資
③インデックス派……当たり外れをなくした平均点を狙う投資
各流派が重視するポイントはそれぞれ異なり、世にあまたある投資本も、どの流派の人が書いたかによって主張が異なります。ときには、他の流派を否定するような内容もあります。投資初心者は、何が正解なのかがわからなくなってしまうかもしれません。

テクニカル派が参照する株価のチャートや指標は、過去の値動きの動向を読み取るのには役立つのですが、未来の動向を読むツールとしては不完全と言えます。ファンダメンタルズ派が注目する、企業の業績をはじめとする政治・経済・国際情勢などのさまざまな情報は、将来の値上がりを示唆しますが、自分で調べて投資の判断をするには時間と手間がかかりますし、それも完璧ではありません。また、テクニカルでもファンダメンタルズでも、感情が最大の敵です。
投資の面白さを追求するなら、テクニカル派やファンダメンタルズ派の手法がよいかもしれません。しかし、投資の目的が着実にお金を増やすことなのであれば、難しいことはせず、感情に左右されずに、平均点を取れる方法が良いのではないでしょうか。その目的でいうと、株式市場全体に広く投資できるインデックスファンドに長期間投資をすることがおすすめと言えます。
そこでこの記事では、「インデックス派」の投資の考え方について、少し細かく解説していきます。
インデックスファンドの利点
難しいことはせずに、平均点が取れればいい投資方法。それは、「株式市場全体に広く投資できるインデックスファンドに長期間投資をすること」です。
市場全体への投資が正しい理由は、「ファイナンス理論」という研究が進むにつれて明らかになってきました。この先駆者として名高い米国の経済学者、ハリー・マーコウィッツ氏が提唱した理論に「現代ポートフォリオ理論」があります。
金融商品には、株、債券、不動産、金など、さまざまな種類があり、それぞれリスクが異なります。投資のリスクとは、「投資の結果(リターン)のブレ幅」のことで、何に投資するかで、その可能性が異なります。投資家は、リターンが同じであれば、なるべくリスクを下げたいと考え、リスクが同じであればなるべくリターンを高くしたいと考えるでしょう。
縦軸に各金融商品から今後得られる期待リターン、横軸に各金融商品のリスクを取ったグラフを作ります。リスクとリターンには比例の関係がありますから、おおむね左下から右上に向かってプロットされたものができます。また、各金融商品の値動きのタイミングは異なる傾向があり、たとえば株と債券は逆の相関関係にあります。
期待リターン・リスク・相関係数の異なる資産を組み合わせたさまざまなポートフォリオを作ると、「同じリターンでリスクが最も小さい」資産配分や、「同じリスクで最もリターンが高い」資産配分の組み合わせができることがわかりました。このポートフォリオをつないだ線を「効率的フロンティア」といいます。

米国の経済学者ウィリアム・シャープ氏はCAPM(キャップエム:資本資産価格モデル)という理論を考案しました。簡単にいうと、個別株と市場全体の値動きを結びつけて、その株を買ったらいくら儲かるかを計算する方法です。
効率的フロンティアのグラフは、株や債券といった値動きのある金融商品(リスク資産)に投資した場合を仮定しています。この効率的フロンティアに、預金のようなリターンの安定している資産(無リスク資産)を加えることを考えます。
無リスク資産はリスクがないので、期待リターンはグラフの縦軸上にプロットされます。この点から、リスク資産の効率的フロンティアに向かって直線を引いたときの接点を「マーケットポートフォリオ(接点ポートフォリオ)」といいます。また、無リスク資産の期待リターンとマーケットポートフォリオの2点を通る直線を「資本市場線」といいます。

もしも投資家がみな現代ポートフォリオ理論に基づいて合理的に行動しているならば、マーケットポートフォリオは、すべての投資家が選択するリスク資産のポートフォリオのなかで最も効率的になります。これは、具体的には「株や債券など、世界中の市場にあるリスク資産に、それぞれの時価総額の比率で投資するポートフォリオ」。つまり、市場全体に投資することが最も効率的だと結論づけたのです。
マーコウィッツやシャープが大成したこれらの理論は、今なお金融の世界で幅広く利用されています。1990年には、この功績が認められて、両氏はノーベル経済学賞を受賞しました。
市場全体に投資するには?
「株式市場全体に広く投資する」のは、手軽に実現できます。「全世界株式型インデックスファンド」を利用すれば良いからです。
これは、全世界の株式市場をカバーする指数との連動を目指す投資信託で、特に人気があるのは、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」。「オルカン」の愛称で知られています。
株ならば、銘柄によっては短期間で2倍、3倍と値上がりすることもありますが、インデックスファンドへの投資の成果は、市場平均と同様です。インデックスファンドの投資先は幅広く分散されています。当然そのなかには、値上がりする銘柄もあれば値下がりする銘柄もあります。そうやって上下を繰り返しながら、全体として値上がりを目指す方法です。長期的には市場が拡大して株価が上がり、利益が得られる可能性が高いです。とはいっても時間はかかるでしょう。
インデックス投資は正直、退屈です。テクニカル派やファンダメンタルズ派が「平均点しか取れない」「時間がかかる」と指摘するのも、ある意味、理解できます。勝ちへのこだわりや、投資の面白さを考えるならば、両手法に分があるでしょう。
ただ、多くの人にとって投資の最重要目的は、ワクワクすることではなく、お金を増やすこと。難しいことはせずに平均点が取れる方法は、インデックスファンドに長期間、投資をすること。これは誰もができる投資方法です。感情に左右されずに投資を続けるには、「足るを知る」が重要です。投資の成果で平均点が取れることは決して悪いことではありません。増えれば良いのですから、充分なのです。

