投資や資産形成をもっと楽しくするためにピッタリの書籍を、著者の方とともにご紹介する本連載。今回は、投資に関わる日本の地政学リスクについて、マネーコンサルタントの頼藤太希さんと見ていきます。[PR]
「ランドパワー」と「シーパワー」
地政学の「地」は地理、「政」は政治のこと。国家の地理的条件が政治・経済・外交・軍事政策などに与える影響を考える研究です。どの国も地理的条件を考慮しながら政治を行いますが、何かのタイミングで地政学的な緊張が生まれると、その国や地域の経済活動が悪化します。
地政学的な緊張には、政治的な対立、宗教問題、外交問題、戦争などさまざまなものがあります。これらが発生して市場が不透明になる「地政学リスク」が高まると、金融市場も無傷ではいられません。株価が暴落したり、為替が急変したりして、資産を減らすことになりかねないのです。
地政学では、国を大きく「ランドパワー」と「シーパワー」の2つに分類します。
ランドパワーの国とは、陸続きで他国と国境の接している大陸国家のこと。中国やロシアのようなユーラシア大陸の内陸部の国々や、欧州でもドイツやフランスといった陸続きになっているところの多い国々がランドパワーの国です。
シーパワーの国とは、国境の多くが海に面している海洋国家のこと。日本は島国で他国と陸続きの国境を接していませんのでシーパワーの国です。英国もシーパワーです。米国も東西の海岸線が長いのでシーパワーに分類されています。
シーパワーの国である日本は、領土の面積は世界で60番目と、決して大きくありませんが、領海や排他的経済水域まで含めた面積だと世界6位です。
日本に潜む地政学リスク
そんな日本も、ロシアと北方領土、韓国と竹島をめぐる解決すべき領有権の問題(領土問題)を抱えています。特に北方領土は、ロシアにとっては米国や日本との緩衝地帯となるうえ、インド洋を経由するよりも早く欧州に行ける「北極海ルート」(ベーリング海峡を経由するルート)を押さえておく意味でも必要なエリア。返還は困難になっているのが現状です。
尖閣諸島は日本が実効支配していますが、中国の船が多数領海侵犯してきています。中国もまた、海洋進出しようと目論んでいます。加えて、尖閣諸島周辺には原油や天然ガスといった地下資源が多数あるとされていて、それを狙う目的もあると言われています。中国に関しては、台湾の有事があれば日本も無関係ではいられないでしょう。
さらに、北朝鮮からは幾度となくミサイルが打ち上げられています。「Jアラート(※)」に驚いたことのある方も多いでしょう。現状、領土内に落下したということはありませんが、いざ軍事行動を起こそうというときには日本が射程に入っているということですし、核弾頭が飛んでくることだってないとは言いきれません。
※ Jアラート(全国瞬時警報システム)……弾道ミサイル情報や緊急地震速報、大津波警報など、対処に時間的余裕のない事態に関する情報を、携帯電話等への緊急速報メールなどによって伝えるシステム。

日本は日米安保条約によって「米国側の国」とみなされています。米国が何らかの軍事行動を起こした場合には、日本もそれに協力することとなるため、中国との関係が悪化するといったことも考えられます。
どんな地政学リスクが高まるのかを予測するのは難しいのですが、これらの事象が発生したときには、一時的に市場が下落することでしょう。そうしたときに「慌てて売る」のではなく、「慌てずに対処」できるように、心構えをしておき、ポートフォリオを構築しておくことが大切です。
近年は世界の分断が際立ってきています。米国は関税を大幅に引き上げて自国の産業を守ろうとする「保護主義」的な政策をとり続けています。また英国もEUから脱退する「ブレグジット」を2020年に実施したので、やはり保護主義といえます。
グローバル経済から自国主義になり、世界が分断するからこそ、世界株に分散投資する意義も増していくのではないでしょうか。前回の記事で、世界株インデックスファンドへの投資がベターであると書きましたが、ここでもそれが示されたように思います。
中国株・インド株に直接投資する意義はある?
世界が分断するほど、世界株に分散投資する意義があるのであれば、中国株やインド株に投資することにも、意義があると考える方もいるかもしれません。実際、新NISAではインド株に投資する投資信託が人気を集めました。
しかし、私は中国株やインド株にあえて直接投資する意義は低いと考えます。中国株には個別株投資ができますが、インド株はインド国内の金融商品取引所のルールにより規制されているため、原則的に個別投資はできません。インド株に投資したいならば、現状では投資信託やETFを通じて投資するしか方法はないのです。
そもそも、中国株もインド株も株式市場として未成熟です。未成熟であれば流動性リスク(希望する価格で資産を売買できないリスク)が大きくなります。両国とも、政治面でのリスクが大きい国です。
さらに、中国の通貨「元」とインドの通貨「ルピー」の為替変動リスクも大きいので、為替で大きく損をする可能性があります。
新興国の経済成長の恩恵を受けたいならば、新興国に進出・投資している日本企業や米国企業の株を購入するのが良いでしょう。新興国特有のリスクを下げつつ、間接的に新興国の成長力を得られます。
新興国を含めた世界全体の経済成長の恩恵を受けたいならば、全世界株インデックスファンドは新興国株も含まれますので、これを利用すれば十分ではないでしょうか。

