投資や資産形成をもっと楽しくするためにピッタリの書籍を、著者の方とともにご紹介する本連載。今回は、投資をする人は誰もが気になるであろう「バブルの予兆は見抜けるのか?」というテーマについて、マネーコンサルタントの頼藤太希さんと見ていきます。[PR]
バブルの予兆は見抜けるのか?
株式市場では、バブルが生じることもあります。日本でバブルというと、1980年代後半の「平成バブル景気」を連想する方が多いでしょう。それだけでなく、米国ではネット関連企業の株価が急騰した「ITバブル(ドットコムバブル)」(1990年代後半)、サブプライムローンによって住宅価格が高騰した「米国住宅バブル」(2002年~2007年)もあります。
近年では中国の不動産価格の上昇による「中国不動産バブル」(2000年代~2020年)、ビットコインなどが急騰した「暗号資産バブル」(2017年など)もあります。
バブルの共通点は2つあります。1つは、株や不動産などの価格が実体の価値とかけ離れて上昇すること。もう1つは、最終的に崩壊して暴落することです。
たとえば1980年代後半のバブル景気は、大規模な金融緩和によって余ったお金が株や不動産に流れ込んだことで発生しました。その高騰ぶりは「山手線の内側の土地価格で米国全土が買える」と言われたほどです。しかし、1989年末に日経平均株価が当時最高値の3万8915円をつけたあと、不動産価格の下落や日銀の金融引き締めによりバブルが崩壊。以後「失われた30年」といわれるほどの経済停滞の引き金になりました。
米国住宅バブルも同様です。サブプライムローンは米国の低所得者向けに貸し出される高金利な住宅ローンです。米国の住宅ブームに合わせて、本来住宅ローンを組むのが難しい人も含めて多くの人が利用し、米国の不動産価格も上昇していたのですが、不動産価格が上昇しなくなると、返済できなくなる人が増加しました。
しかもサブプライムローンは証券化されて世界中の金融機関が購入していたため、サブプライムローンの焦げ付きの影響が世界中に広がったのです。
サブプライムローンの証券をたくさん購入していたために倒産したのが米国の大手投資銀行、リーマンブラザーズです。同社の倒産が引き金となって起こったのが、いわゆる「リーマンショック」です。
まさに「後講釈」ですが、後から株価や不動産などの推移を見て、「これはバブルだった」と指摘するのは簡単です。大きく値上がりし、やがて急落しているところを取り上げれば良いだけだからです。
しかし、バブルの発生を見極めるのは不可能です。たとえ似通った市場環境が複数回到来したとしても、バブルになるかならないかはケースバイケースだからです。
また、仮にバブルによって値上がりしているとして、バブルの最中はそれを認識することが難しいというジレンマがあります。
「これはバブルだから、いずれ値下がりする」といったところで、耳を貸す人は少ないでしょう。反対の意見にも一定の需要はありますが、値上がりしたほうがありがたい人が多いのが現実です。「この値上がりは実体を伴ったものでバブルではない。2倍、3倍、いや10倍も十分にありうる」といった意見のほうが歓迎されるでしょう。そうして、バブルは勢いを増していきます。
そして、今年4月に発生したトランプショック(関税を巡る一連の動きで世界的に株価が下落)を予測できなかったのと同様、バブルが崩壊し、暴落する瞬間を予測するのも、きわめて難しいのです。第一、暴落する瞬間が高い精度で予測できるなら、投資で困る人はいないでしょう。
AIはバブルなのか?
「バブルではないか」と目されているのが「AI」です。
「ChatGPT」に代表される生成AIが登場したことにより、AI・半導体市場が急激に拡大しています。かつて「GAFAM」(グーグル、アップル、フェイスブック(現メタ)、アマゾン、マイクロソフト)と呼ばれたテック企業にテスラとエヌビディアを加えた「マグニフィセント・セブン」が米国市場を牽引しています。
特に生成AI向けの半導体を生産しているエヌビディアは2024年6月18日、時価総額でアップルを抜いて世界1位になり、株価も急騰しています。米テック企業各社はAI開発競争に巨額の資金を投入しており、その性能もどんどん向上しています。はじめは文字だけだったのが、画像・音声・動画まで生成できるようになってきています。
中国でもAI開発が急激に進んでいます。中国では2025年1月にスタートアップ企業のディープシークが開発したAIが有名です。米国の大手企業よりも少ないリソースで高機能のAIが誕生したと話題になりました。
日本においても、国をはじめトヨタ自動車・NTT・ソフトバンク・ソニーグループ・NECなどが出資しているラピダスが、最先端の次世代半導体の量産を目指して北海道に工場を建設中。2027年には半導体の量産がスタートする予定です。そのほかにもAI関連の研究・開発をしているところも多くあります。会社四季報の記事欄にある見出しにも、「AI」の文字がおどる企業が増えてきました。
このような様子を見ると、AIはバブルの様相を呈してきていると感じられるかもしれません。ただ一方で、AIを導入することで企業・個人の生産性が向上しているため、AIはバブルではなく実体を伴っているという意見もあります。「AIのすそ野は広く、さまざまな業種の仕事を一変させる力がある」「AIが人間から仕事を奪うほどに発展が見込めるので、実体を伴っている」という意見にも一理あるでしょう。
AIの成長はオンタイムで起こっている以上、バブルかどうかを判断するのは難しいものがあります。たとえば「株価が何倍になったらバブル」とか「株価指標のこれが◯◯になったらバブル」などと、定量的な指標があればわかりやすいのですが、そうしたものはないからです。
一方、バブルかどうかを判断する定性的な目安には「投資家でない人も投資について話している」「デイトレーダーなどの短期トレーダーが増える」「バブルだと警告する人を非難する人が多い」「極端な値上がりを示す予想が出ている」といったものがあります。あくまで定性的な目安ですので、感じ方には個人差があるとは思いますが、この点をもって現時点ではAIがバブル化しているとはいえないのではないかと考えます。
バブル化しているときには猫も杓子も投資の話をしているものです。しかし、AIを使って便利だったという話や、AIでおもしろい画像や動画などを生成できたという話こそ聞くものの、誰もがAIに投資しているような雰囲気は感じられません。デイトレーダーが増えた様子や、AIバブルだと警告する人を非難する様子も、現状あまりなさそうです。
AIの市場規模を示す試算はいろいろあります。総務省「令和6年版情報通信白書」によると、2021年に96億ドルだった世界のAI市場規模は、2030年まで加速度的に成長して、1847億ドルまで上昇すると予測されています。また、国内のAIシステム(AI機能を利用するためのハードウェア、ソフトウェア・プラットフォーム及びAIシステム構築に関わるITサービス)市場規模も、2023年の6858億円から2028年には2兆5433億円にまで拡大すると予測されています。市場の拡大スピードは確かに速いのですが、「極端な値上がり」かといえば、わかりません。
いつかAIがトレンドではなくなったときに、過去を振り返ってみたときにはじめて、バブルだったのかどうかがわかるでしょう。
専門家でも今後の市場は予測できない
暴落やバブルの予兆を見抜くことは、私たちだけでなく、経済学者でも難しいものがあります。有名なのが、米国の経済学者、アービング・フィッシャー氏(1867年-1947年)の事例です。フィッシャーは、金利と物価の関係を示した「フィッシャー方程式」や、国際決済銀行の委員会(アービング・フィッシャー委員会)に名を残すほどの功績を残した人物です。
1929年10月、フィッシャーは「米国の株価は恒久的な高原状態にある」と発言。今後数か月以内にもっと高値になると予測したのです。確かに、それまでの数年にわたって株価は大きく上昇していました。フィッシャーはそれを見て、「この値上がりは実体を伴ったもので、下落することはない」と言っていました。
しかし、そのわずか数日後に株価は大暴落。
フィッシャーはそれでも、「ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件・国や企業などの経済状態)は健全なので、株価はすぐに回復するだろう」と予測していましたが、株価は回復するどころか、下げ止まりませんでした。フィッシャー自身も株を大量に保有していたため、大損することになりました。
この暴落は、のちに「ブラックサーズデー(暗黒の木曜日)」と呼ばれることになります。中学校の社会科でも勉強する「世界恐慌」のきっかけとなる暴落でした。専門家のフィッシャーでさえ、この下落を察知することはできなかったのです。米国の株価が1929年の高値まで回復したのは、それから25年後の1954年でした。
この事例からわかることは、「フィッシャーほどの超優秀な経済学者であっても、今後の市場がどうなるか、上昇するのか下落するのかは予測できない」ということです。それほどまでに、市場では予想外のことが起こるものなのです。私たちに予測するのは無理な話ですね。

